Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Tue, 11 Jan 2005 13:35:26 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28178] [HA06N] 小説:『天使と狼』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <20050111133337.NBCIC0A827A6.6441CA41@mue.biglobe.ne.jp>
X-Mail-Count: 28178
Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28100/28178.html
MOTOIです。
今回は自キャラのみを使った小説。
**********************************************************************
小説『天使と狼』
================
登場人物
--------
白神知佳(しらかみ・ちか)
:天使の白い翼で空を翔ける小学4年生。
岡啓介(おか・けいすけ)
:狼の姿で森を駆ける大学3回生。
新崎智也(しんざき・ともや)
:知佳と啓介の間に入って橋を架ける大学3回生。
いつもの森で
------------
冬は寒いけど、いい天気の日が多い。
吹利市は盆地の真ん中だから、一年中雨が少ないんだって、社会科の授業で
園子せんせーが言ってたっけ。
今日もまた、寒いけどいい天気。
風も弱いから、空を飛んでて気持ちいい。
私は白神知佳。最近、背中に羽が生えて空を飛べるようになったの。
それを知ってるのは、親戚の智也おにーちゃん、クラスメイトの桃花ちゃん、
おぺらちゃん、それに私の4人だけ。
桃花ちゃんとおぺらちゃんは、背中に乗せて飛んであげたりもした。
今私がいるのは、吹利市の中にある、人があまり来ない森の中。
人があまり来ないから、ここで空を飛ぶ練習をしてるの。
桃花ちゃんやおぺらちゃんも、ときどき飛ぶ練習にくるみたい。
でも、この森はとっても広い。何回か探検して池をみつけたけど、まだまだ
何かありそうな気がする。
そんなことを思っていると。
「おーーーーーーーーーーーん」
うわっ!
なんだろう、今のすごい鳴き声……
「おーーーーーーーーーーーん」
また聞こえた。あっちの方から聞こえたね。
調べに行こうとした、そのとき。
「〜〜〜〜〜〜〜♪」
あっ、ケータイが鳴った。ママからの電話だ。
電話をポケットから出す。あっ、電話じゃなくてメールだった。
晩ご飯の時間だから、早く帰ってきなさい、だって。
鳴き声は気になるけど、晩ご飯抜きになるのはいやだ。
私は、あわてて家に帰った。
おにーちゃんと
--------------
「……ってことがあったの」
「ふーん、謎の鳴き声ねぇ……」
きのうの鳴き声のことを聞こうと思って、智也おにーちゃんに電話した。
智也おにーちゃんは、私のお願いを快く聞いてくれた。
「狼の遠吠えみたいな声だな、それって」
「えっ、おおかみさん?」
そういえば、桃花ちゃんの家で、ローザちゃんがおおかみさんに会ったって
話していたっけ。
桃花ちゃんは、おおかみさんなんていない、ってずーっと言ってたけど。
「面白そうだ、狼捜しといってみるか」
「いっしょに行ってくれるのっ!?」
「ああ、俺の耳があれば捜しやすいだろ」
「うんっ」
智也おにーちゃんは、すごく耳がいい。
私や他のみんなが聴き取れないものまで聴けちゃうんだ。
そんな智也おにーちゃんといっしょなら、もっと心強い。
私たちは、さっそくあの森に向かった。
ふたたび、森の中
----------------
森の入り口。ここまで、智也おにーちゃんといっしょに来た。
さっそく、智也おにーちゃんを背中に乗せて、森の中へ飛んでいく。
「木にぶつかったりしないでくれよ」
「だいじょーぶ、まかせといてっ」
森の中を飛んで、奥の方まで入っていく。
でも、何も聴こえない。
智也おにーちゃんにも、何も聴こえてないみたい。
「やっぱりいないんじゃないのか?」
「えーっ、この前たしかに聴いたんだもんっ」
「わかったわかった」
ときどき休みながら、森の中を捜しまわる。
私は、飛ぶのが気持ちいいから飽きない。
でも、休んでるときの智也おにーちゃんはつまらなさそう。
時間がどんどん過ぎていく。でも手がかりは何もない。
おおかみさん、今日はお休みしてるのかなぁ……。
おおかみさんだ!
----------------
もう日が暮れそう。智也おにーちゃんも、私も、疲れちゃった。
今日はもう帰ろうと、森の入り口まで戻ってきた。
「あれ?」
「ん?」
森の入り口に、なにやら荷物が置いてある。それに、人の服が置いてある。
桃花ちゃんやおぺらちゃんの服じゃない。男の人の服だ。
「こ、こいつは……!」
服を見ていた智也おにーちゃんの表情が変わった。そして、次の瞬間。
智也おにーちゃんが、また森の中へ駆け込んでいった。
「あっ、おにーちゃん、どこいくのっ」
私も、あわてて後を追いかけた。空を飛んで。
そして、木の間をくぐりぬけると……
「あっ!」
おおかみさんがいた。
しかも、智也おにーちゃんと向かい合っている。
「智也おにーちゃん、おおかみさんにたべられちゃうよっ」
智也おにーちゃんが危ない。そう思って、私は叫んだ。
そのとき、おおかみさんがびっくりして私を見てた気がする。
「啓介の敵だ、覚悟しやがれ!」
そう言うと、智也おにーちゃんは、ポケットから何か機械を出した。
その機械のスイッチを入れると……いきなり、おおかみさんが苦しみ始めた。
「狼にとっての毒音波だ! 気絶させて保健所に引き渡してやる!」
私にはよくわからないけど、おおかみさんはすごく苦しんでる。
「待ってくれ智也、誤解だ誤解!」
「黙れ人喰い狼……って、何!?」
えっ? 今、おおかみさんがしゃべった!?
「オレだオレ、オレが啓介本人だよ!」
「……な?」
「頼むから、そのスイッチ切ってくれ!」
間違いない。おおかみさんがしゃべってる。
智也おにーちゃんも、あっけにとられてた。
われに返ると、あわてて機械のスイッチを切っていた。
人狼と天使
----------
「……じゃあ、お前、狼に変身できるってわけか」
「ああ」
おおかみさんの話を聞く。
おおかみさんの正体は、智也おにーちゃんのお友達だった。
「俺はまたてっきり、啓介が狼に喰われたもんだと思ったぜ」
「服に血なんて一滴もついてなかっただろーが」
「そんなこと考える余裕もなかったからな」
「まったく、死ぬかと思ったぜ……」
「悪い悪い」
智也おにーちゃんも、おおかみさん(啓介おにーちゃんっていうんだって)
も、お互い安心したみたい。
「ところで、そっちは誰だ? お前の彼女か?」
おおかみさんが、私のほうを見てる。カノジョ、って……
「バカ言うなよ、親戚の子だ」
「『子』ってのは失礼じゃないのか」
「これでも小4だよ、こいつ」
「げ、マジ?」
おおかみさん、驚いてる。
「まあ無理もないな、お前の彼女よりも背高いしな」
「な……! なんでそこで美琴ちゃんを出すんだよ」
おおかみさんの顔が赤くなった……ような気がした。
「でも、天使みたいにきれいな羽だったな……」
「お前の天使は彼女じゃねーのか?」
「それはもういいって!」
「あっはっは」
智也おにーちゃん、けっこう意地悪さんだなぁ。
「ま、今日のことは、お互いオフレコで、な」
「ああ、わかった。約束する」
「知佳っちも、今日のこと、誰にも内緒だぞ」
「うん、わかってる」
「じゃ、俺ら、そろそろ帰るわ。お前は?」
「もうちょい森の中走ってくるわ」
「そうか、じゃ、気をつけてな」
「ああ、そっちもな」
そう言うと、おおかみさんは、また森の中へと消えていった。
「さ、知佳っち、帰るぞ」
「うんっ」
そして、私たちも、森を出て、家に帰った。
後ろに、おおかみさんの遠吠えを聴きながら。
$$
**********************************************************************
motoi@mue.biglobe.ne.jp
Motofumi Okoshi
---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28100/28178.html