[KATARIBE 28171] [HA20N]小説:『高架線下の風景』

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Date: Tue, 11 Jan 2005 00:27:10 +0900
From: "月影れあな" <tk-leana@jttk.zaq.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28171] [HA20N]小説:『高架線下の風景』
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 おいっす、月影れあなです。
 ギャロさんの描いた光太郎絵を見てなんか書きたい欲に駆られ、書きかけで
投げてた光太郎仕事風景の掌編に手を加えて流してみます。

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小説:『高架線下の風景』
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本文
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 街は雑音で溢れている。
 高架線の下で、電車に踏みつけられたレールの身じろぎする音を聞きながら
少年は薄らとそのような事を考えている。
 薄汚れたコンクリートの壁に背をもたせかけると、頭蓋を伝わって鈍い轟き
が絶えず伝わってくる。くすくすと笑って背を丸めると、在り合わせの木片で
造られた丸椅子がぎぃと悲鳴を上げ、少年を更に可笑しな気分にさせる。
 かつかつとアスファルトを叩く靴底のさざめき、互いの名を知る事も無く擦
れ違う袖の音。自動車の燃機関、ビル風は街路樹をさわさわと揺らす。踏み切
りはカンカンとしつこい程に鐘を撞き、信号機は声高くして『通りゃんせ』を
歌い上げる。
 もう一度考える。街は雑音に溢れている。
 そこにはありとあらゆる情報が詰まっていた。無造作に鳴り響く雑音の一つ
をとっても、全く意味の無い物など一つとして有りはしないのだ。少年はそれ
をずっと眺めているのが好きだった。
 ずっと、ずっと。時に取り残されても、ずっと。
「良く飽きないわよね」
 軽く受け流して、顔を上げる。いつの間にか、そこに立っていた女が、つや
つやの革靴をドンと木箱の上に置く。
「風情を知らん女ゆうのはこれやから」
 少年は、靴磨きである。顔と髪はくしゃくしゃに、泥と埃にまみれ、襤褸の
ような服と擦り切れたジーンズを身に纏っている。靴を差し出されれば磨くの
がその仕事だ。手前には木箱と靴墨。小銭の入った帽子。手ぬぐいを膝に乗せ、
街行く人々を眺めながら客を待っている。。
「よう、お嬢。景気はどうや」
「上々、と言いたい所だけど、最近何処も金払い悪くてねぇ」
「よお言うわ。川名のボンから三十万も巻き上げた癖に」
「ほんとなら五十万は難い仕事よ」
 軽い軽口の応酬の後、折りたたまれた万札が一枚、無造作に帽子の中へと投
げ入れられる。少年は掠れた口笛を一つ吹くと、何処も磨く余地の無いような
ピカピカの革靴に靴墨を塗り始める。
 少女は何も言わずその様子を見ている。少年は黙々と口を閉ざしたまま靴を
磨き続けた。焦らすように、ゆっくり、ゆっくり。
 しばらくすると、女が業を煮やしたように舌打ちし、口を開いた。
「今朝、本町の方で事故があったそうね」
「酷い事故やね。被害者、死体言うより挽肉言うた方がピンと来るような物体
になっとったそうやて」
「轢いた側である筈のドライバーが、まるで高い場所から落下でもしたかのよ
うに押し潰されていた。そうよね?」
「そこまで知っとって何が聞きたいねんな」
「挽肉の身元。出来る限りの詳しい背景まで」
 少年は軽く溜息をつき、頭を振る。
「無茶言わんとってな、お嬢。仏さんの乗っとった車が盗難車で、ポリさんの
方でもまだ身元掴めとらんのやで」
「警察が知らない事は貴方も知らないという道理は無いわ」
 言葉に、ピタリと少年は手を止める。
「お嬢……」
「なあに?」
「……靴もう片方残っとるんやけど」
 少女は舌打ちした。懐から五円玉を取り出すと、勢いをつけて少年の額に叩
きつける。
「あだっ! ってぇ、けち臭いなぁ」
「死んだ後も情報屋なんかやって小銭稼いでる業突張りにけちとか言われたか
ないわっ!」
「ったく、しゃあないなぁ。ほい」
 胸ポケットから取り出した、丁寧に折りたたまれた紙を少女に手渡す。受け
取り、中を開いた少女はそこに書かれた一連の文字列を見て、「うげぇ」と乙
女らしからぬうめき声をあげる。
「これ、本当?」
「嘘や思うんならそう思とってもかまへんけど、金は返さん」
 そう言って不適に笑ってみせる少年。少女もまた軽く微笑む。
「いいわ。ありがと、またお願いするわね」
「おう、今度はスカートで来てくれ」
 それには応えず、少女は手を振って喧騒の中へと消えていった。

時系列と舞台
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 2005年春。吹利市内高架線下にて。

解説
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 探偵業にいそしむ光太郎。馴染みの幽霊情報屋に接触すること。

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