[KATARIBE 28137] [HA06N] 小説『賢者の声』

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Date: Sun, 9 Jan 2005 18:53:23 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28137] [HA06N] 小説『賢者の声』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月09日:18時53分23秒
Sub:[HA06N]小説『賢者の声』:
From:久志


ちは、久志です。
へろへろと失恋話を終わらせようとして、ぜんぜん先に進んでない……

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『賢者の声』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ)
     :幸久が昔付き合ってた人。この人もちょっと悪女。

開口一番
--------

「ユキなんかあったでしょ」

 開口一番。
 俺が席につくのも待たずに美絵子の奴が断言する。

「なんだよ、いきなり」
「そのまんまの意味よ」

 いつもの暇だからつきあえという呼び出しで、わざわざ時間をつぶして来て
やってこれだ。奴の目がじろりと俺をにらむ。

「あたしに隠し事なんか通じないんだからね」
「……別に」

 鋭いというか俺がわかりやすいというかなんというか、昔っからこの女には
痛いところをつかれまくってる。

「なんか、最近ずーっと連絡してもロクにでないし、メールしても返事よこさ
ないし、顔出したら出したで、いかにも悩んでる面なんだもん」
「俺の都合だろ、お前には関係ねえ」
「あるわよ」

 小面憎い顔で堂々キッパリ言い切りやがる。
 ここで、言い返せねえとこが、俺のダメなとこなんだろうな、と思う。

「女でしょ」
「…………」
「またロクでもない女にいれあげてへこんでるんでしょ、わかるんだから」
「…………いや、その」
「んー、どしたの、言ったんさい」

 小首傾げて、にこにこ笑いながら俺の目をみる。仕草だけならば可愛い部類
にはいるんだろうが、どうにも、その、いづらい。

「……今度、ケリつけるさ」
「何に?」
「何って……」
「相手って、彼氏もちの年上女でしょ」

 危うく口に含んだコーヒーをふきだすかと思った。

「なっ、お前がなんで知ってんだよ!」
「ばか、白状してんじゃない」

 墓穴だ。
 思わず口を押さえて、テーブルにへたり込む。

「千晴に聞いたのよ、あんたがヘンだって」
「ああ……」

 千晴、こないだ俺が話を聞いたやつの知り合いの女友達だ。つーか、美絵子
つながりの友人だったのをすっかり失念してた。

「ねえ」
「……なんだよ」
「言っても聞かないと思うけどさ、その子やめなよ」

 やめたくてやめれたらこんなに悩まねえよ。

「その子、さ。一回や二回じゃないんだよ、二股」
「……」
「彼氏いても、他の男の人と会って泥沼になって新しい人のとこいって、また
浮気すんの。常套犯らしいのよ」
「そんな話……」

 信じたくねえ話だが、だが、妙に納得できた。
 そう思われてもしょうがねえ裏切行動を、やつはずっと取りつづけてる。

「千晴に言われたのよ、幸久くんにあの子をあきらめさせたほうがいい、って」

 あきらめればいい、できるならば。
 俺の理性はずっとそう叫んでる。その影に、でも、と言ってしまいそうな俺
のどうしようもない感情がある。

「もし、ね。もし、ユキがその子を彼氏から奪えたとしても。きっと同じこと
繰り返すよ」
「……わかってる」

 わかってんだよ、わかってるのに……
 煮え切らない俺をみて、美絵子がふぅ、と肩を落とす。

「それで素直にわかる奴だとは、あたしも思わないけどね」
「うるせーな」

「あたしだって、さ、他に好きな人できたからユキと別れたけど」
「ちょっと待て、それ初耳だぞ、おい」

 『ユキのそばに、わたしの居場所がない気がする』といったお前の言葉を聞
いて俺は一週間飯も喉を通らず死ぬほど悩んだんだぞ。

「俺はあの時さんざ悩んで単位を落としかけたんだぞ!それが他の男できたか
らだったのかよ」
「落としてないならいいじゃない、時効よ」

 この女、いけしゃあしゃあと。

「でも、それ礼儀だよ。最低限の」
「……」
「あたしは、他に好きな人ができたら。ちゃんと今つき合ってるの人と別れて
からそっちへいくわよ。両方の気を引きつつなんて卑怯なことしない」

 ぐいっと、カップを傾けて一口で紅茶を飲み干す。

「ユキ、もっと怒りなさいよ。あんた、その相手にすっごいひどい扱いされて
んのよ?わかんないの」

 何一つ言い返せる言葉もなく、椅子の背にもたれかかる。
 けど、こいつのこういうずばずば言うところは、俺も嫌いじゃない。

 詰まるとこ、俺がどうにかならない限り、この泥沼は終わらない。

「ユキさあ、自分に自信なさすぎなんじゃない?」

 ふっと、にらみつける視線が緩んだ。

「どーせ俺なんかって、いつも思ってるでしょ。高校の頃からぜんっぜん変
わってなんだから」
「……そんなこと」

 かなり、ある。と、思う。
 美絵子の指摘がえぐるように心に刺さる。

「自信ていうか、さ。いつまでもひねくれてないで、しゃんとしなよ。」
「ああ」
「そんな、いかにもダメ恋愛にはまって心底ボロボロになってるユキなんて、
あたし見たくないよ」

 賢者の声。

「美絵子」
「……何?」
「すまん」
「いえいえ」

 ありがとう、と。なんで言えねえかな、俺。

時系列と舞台 
------------ 
 2004年冬、吹利市にて。 

解説 
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 賢者(?)に励まされる幸久。がんばれ
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
いじょ

やあ、美絵子がいい人に見える。



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