[KATARIBE 28117] [HA06N] 酒で涙を洗う夜

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Date: Sat, 08 Jan 2005 00:26:51 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 28117] [HA06N] 酒で涙を洗う夜
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 キャラチャから小説を起こしてみたりしてみましたので送ります。

 未校正なんですが、まぁ、こういうものは熱いうちにということと、
飽きる前に感想とか指摘とかもらってみようということで(ぉぃ

 ではでは、ご笑覧くださいませ。

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[HA06N] 酒で涙を洗う夜
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登場人物
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西園寺遙(さいおんじ・はるか):http://kataribe.com/HA/06/C/0366/
 強い女──ただし男運は悪かった。
 現在は忌野とゆったりと恋愛中で男運の悪さを払拭しつつある。

本宮幸久(もとみや・ゆきひさ):http://kataribe.com/HA/06/C/0262/
 弱い男──しかも女運が悪い。
 今回は振られたばかりで煮え切らない男の役回り。

忌野朱里(いみの・あかり):http://kataribe.com/HA/06/C/0287/
 優しい男──女運はどうだろう?
 今回は愚痴の聞き役。


1. 喫茶店の扉を開くと
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 からん──

 喫茶店にお決まりのカウベルの音。音と一緒に入ったその店の中は、やはり
定番の喫茶店らしい作り。
 だが、雰囲気はまるで場末のバーみたいだった。
 カウンターに男が二人。
 ひょろりとしなやかな喪服の男が右。がっしりと筋肉質の革ジャケット姿の
大男が左。
 左のひょろり喪服はシングル・ロックのグラスを片手に、とつとつと独り言
ともつかない調子で話をしている。がっしり革ジャケットの男は、麦茶を片手
に疎ましがるでもなく聞き役に回っている。
 
 ──忌野君、か。妙なところで会うな。
 遙の頬がゆるむ。
 聞き役の大男は忌野だった。遙の、年下の恋人である。
 何気なく入った喫茶店に、恋人が友達といる。そこに居合わせたことが、な
んだか可笑しかった。
 どうやら忌野は遙に気づいていないようだ。
 ──どんな話をしているのだろう?
 ふっと悪戯心がわいた。
 気配を殺し、すっと背中側のボックス席に座る。耳を澄ます。


2. 男の愚痴
-----------
 元気を出せよ、とでも言うように忌野の大きな手のひらが、ひょろりの肩を
叩いた。手のひらと喪服の間に挟まれた空気がぽふっ、と鳴って散った。
「────」
 ひょろり喪服は、応えるでもなく机に突っ伏す。
 そのまま数分。
 時折、肩が不規則に揺れる。突っ伏して隠した顔は、涙で濡れているのかも
しれない。
「──出会いは──季節のようなものだ──冬があれば春が来る」
 染み入るような暖かなバリトンの声。途切れ途切れ、ぽつりぽつりと忌野が
言った。
 ひょろりの右手がシングル・ロックのウィスキーグラスを握る。握ったグラ
スにすがるように顔をあげる。
「──季節、かよ──真冬だ──」
 目元に涙のあと。黒いジャケットの袖口でぬぐったのだろうか。
 口元に薄ら笑い、だが目元には暗い影。
「木々は、厳冬を耐えて蕾を膨らます──耐えろ」 
「──くるのかよ──俺に春が」
「何か悪いモノとの縁があるのだろう──それを切れれば必ず」
 どこまでもネガティブに向かうひょろり喪服。それを、とつとつと静かな声
でなだめる忌野。
 
「──こう、なんか、ダメなんだ」
「────」
「──余裕がねえ、つーか、振り回されるつーか」
 しかられた子供のようにうなだれる。そんなひょろり黒服の次の言葉を、
忌野は無言で待つ。
「こー、一旦火ついたら、とまらねーつーか──そんでいつもあしらわれて
終わんだよ──」
 グラスを億劫そうに持ち上げ、呷るようにウィスキーを飲む。
「素直になればいい」
「──素直に──って、素直じゃねえなあ」
 ぽつり、と忌野。その言葉を呑みこめないひょろり黒服。
 からん──
 グラスを置いた拍子に、氷が鳴った。
 僅かに残った琥珀の水が、ダウンライトの光を含んで柔らかく揺れる。
「とまらないが──余裕を見せたくて無理をしたり──」
 とつとつと忌野が言葉をつなぐ。
「──」
 ひょろり喪服は、うなだれてグラスの中の氷がまとう光を見つめている。
「──格好をつけたくて──うまく行かなくて自分に落ち込んだり──」
 ぽつり、ぽつり。
「不恰好でもいいじゃないか」
「──そう、なんだろ──な」
 暖かなバリトンで言った言葉を、ひょろり喪服はまだ呑み込み切れない。
 理屈はわかる。でも、そう簡単にいくものではない。
「──ああ、くそっ」
 もどかしさに苛立つ。
 からん、からん。
 ほとんど空のグラスの中で氷が踊る。
「──」
 言うだけ言ったとばかりに、忌野は再び無言。言葉をかける代わりに、ウィ
スキーをひょろり喪服のグラスに注ぐ。呑んで忘れろ、ということだろうか。
「──いつもこうだ──」
 グラスを呷る。


3. 女の言の刃
--------------
 かつ、こつ。
 立ち上がり、一歩二歩。
「友達、かな?」
「──」
 不意をつくような形で遙が話しかければ、忌野は慌てるでもなく目で頷く。
 何年も連れ添った夫婦のような自然な呼吸が、我ながら可笑しかった。
「────?」
 ちらり、と訝しげにひょろり喪服が遙を見上げる。
「こんばんは」
 さっきまで後ろで話を聞いていたとはおくびにも出さず社交辞令の笑顔。
 そのまま忌野の隣のスツールに腰掛ける。
「マスター、スコッチウィスキーを水割りで」
「へいへい」
 やる気のなさそうなマスターに水割りを注文する横で、忌野がふたたび口を
開く。
「──自分の性分を受け入れろ──」
「それができれば、な──」
 ひょろり喪服は、からからとグラスを揺らす。煮え切らない。
 キライなタイプ。
「自分を取り繕うとしたところで、騙しきれるのはバカな小娘くらいだよ」
 マスターからショットグラスを受け取りつつ、鋭く突き刺すように遙は言っ
た。
 放っておけないのは、同じように酒で涙を洗ったことがあるから。
「──」
 忌野のコメカミが一瞬だけ引きつった。
 キツイことを言う、と思ったのだろう。たぶん。
 だが、それでいいのだ。煮え切らない時は、優しくするより突き放した方が
いい。
「──ああ」
 唸るようにひょろり喪服。だが、視線の先はまだグラスの中の氷。顔があが
らない。
「見透かされれば都合よく扱われるだけ。隠し事をする男ほど扱いやすいもの
はないからね」
 冷たいくらい鋭い声で言って、スコッチを一口。
「──きついな──まあ、そおとおりなんだけどな」
「わかってるなら行動に移すことだね。うじうじする男ほどみっともないもの
はない」
 あざけるように、小さく笑う。
「そだな」
 ダウンライトを見上げ、ぽつり。
「少しだけ、休んで、もっかいがんばってみるさ」
 遙に向けてというより自分自身に言うようにひょろり黒服。


4. そして立ち上がる
-------------------
「──」
 不意に忌野が立ち上がっる。
 革ジャケットのポケットを探り、勘定を支払う。
 少し遅れて追うように、ひょろり喪服も立ち上がる。
「──あー、可愛い子いねーかな」
 伸びをしながら軽口。いかにも軽薄そうな薄笑いが顔に張り付いている。
 おそらく、それが普段のスタイルなのだろう。
 喪服にはおよそに合わない薄笑いが、自然に収まっている。
「──遙さん、先に帰ってるから」
 忌野が声を掛け、足を出口に向ける。
「あぁ、すぐに追いつくから」
 スコッチウィスキーを片手に、応える。

 からん──

 店からひょろり黒服と忌野が出るそのとき。
「──やつが俺の中から消えるまでは──もーすこし、ぼーっとしてるさ」
 カウベルの音に混じって、ぼそっと呟く声が聞こえた。そんな気がした。
 やっぱり煮え切らない。
 だが。
「女々しいヤツだ」
 なぜか遙は笑顔で呟いて、そしてまたスコッチを一口。


時系列と舞台
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 幸久くんが横恋慕していた彼女と分かれた少しあと。
 吹利市内、喫茶あげはにて。


解説
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 横恋慕していた彼女と別れた幸久をなぐさめる忌野。
 そこに忌野の恋人である遙が居合わせて──


関連ログ
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 葬儀屋こと本宮幸久の横恋慕を肴に始まったキャラチャ
   http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2005/01/20050106.html#230000

 こっから渋めのシーンだけ抜き出してみたのが本稿になります(笑)。
 キャラチャの方は最後、ドタバタなコメディになって面白かったのですが、
幸久横恋慕/失恋シリーズに絡めてみる方向でトーンを調整してみたり。

 元ログは元ログで切ろうかな、と思ったり思わなかったり。

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