[KATARIBE 28056] [HA06N] 小説:『フェイク』 ( 前編)

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Date: Mon, 3 Jan 2005 11:08:25 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28056] [HA06N] 小説:『フェイク』 ( 前編)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月03日:11時08分25秒
Sub:[HA06N]小説:『フェイク』(前編):
From:久志


ちは、久志です。


幸久横恋慕失恋話(身も蓋もない言い方)続きます。
一部知ってる人は知っている某兄貴も出てきます(回想ですが)

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説:『フェイク』(前編)
========================

登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。
 彼女  :幸久がメロってるらしい人。彼氏がいるらしい。
 本宮友久(もとみや・ともひさ)
     :幸久の二つ上の兄貴。実は……


その仕草
---------

 深く、煙を吸い込む。
 煙草を初めて吸ったのは俺が高校一年の頃。

 あの頃、俺にはすぐ上に二つ上の兄貴がいた。
 当時三年だった兄貴は、弟である俺から見てもカッコよくて、何をやっても
様になってた。クラスの女どもからも憎らしいほど人気があって、ラブレター
の橋渡しをやらされたことは一回や二回じゃなかった。
 かたや同じ血を引いて、顔立ちも似てるはずの俺は大して目立つこともなく、
騒がれることもなく、ただ埋もれていた。

 その頃からだ。


「その仕草、いいね」
「ん?」
「そうやって煙草を人差し指と中指ではさんで持つの」
「普通だろ、そんなの」
「そうだけど、幸久って指長いでしょ」
「ん、ああ」
「様になるよ、すごく」
「そーか?」

 何気なくそう言いながらも、たぶん俺は浮かれてる。

 俺と兄貴の違いが何だったか、今ならなんとなくわかる。
 こんな時、全然余裕が持てない。相手の言葉に翻弄されて全然自分のペース
に持っていけない。こと男女関係において、自分のペースを保って相手を引っ
張っていくとか相手に支配されないとか、そういうとこが俺には足りない。

 半端に軟派ぶってみても、すぐにメッキが剥げる。

「寒いか?」
「少し」

 引き寄せた腕に感じる暖かさと、肩に乗る重み。
 平静を装っているくせ、内心ものすごく緊張している。
 余裕がある振りをしてるだけで、その実、全然自分が制御できてない。

 目の前で笑ってる女が、俺と会った後どの面下げて彼氏と会っているのか。
 彼氏に嘘をついてまで俺と会って、そのくせ、彼氏が帰る時間には必ず家に
帰るこの女がどれほど卑怯な女なのか。
 そんなことはわかっているのに。

 俺が止まらない。


ふかし煙草
----------

 高校一年。

 なんでわざわざ学校の屋上なんぞで煙草を吸うか。
 単に煙草を吸っている悪ぶった自分をアピールをしたいだけのガキの虚勢で
しかない。
 ご多分にもれず、俺もその一人だった。
 吸うといっても、まともに吸える奴なんざ人っ子一人いなかったくせに、だ。

『なーに、もったいねえ吸い方してんだよ、お前』

 俺の手から取り上げた煙草を思い切り吸い込んで、息をためる。白い煙を細
く吐き出しながら、兄貴はにやりと笑ってた。

『こーやって吸うもんだぜ、幸』

 なんつか、こう。
 カッコよかった。

 だから余計、咳き込みながらふかしている自分がぶざまでたまらなかった。


白銀の
------

 近鉄吹利ショッピングセンター。
 近場に結構な数の施設もあり、専門店も多く入ったかなり大型のショッピン
グモール。今はセール時期ではないものの、店内は若い女や親子連れでかなり
賑わっている。

 まるで一見恋人みたいに、やつは慣れた様子で俺に腕を絡めてくる。
 あるいは勘ぐれば、平静を装った俺を試すように。

 一つ二つ、店舗を巡り、小さな女性小物売り場に流れ着く。

「どうかな?」
「どれ」

 ふわりと、淡い水色のストールを羽織って見せる。表面に少しラメの入った
柔らかい生地ときらきら光るストールの上で弾む髪がなんとなく触れてみたい
感覚をそそる。

「んー、生地はいいけど、色は他のがよくね?」
「そうかなあ、あとここらの色だけど」

 一枚、売り場で目を引いたのが、白いラメの入ったストール。
 同じように表面にラメがはいって、店内のライトに照らされて、時折ちらち
らと銀色に光っている。

「これ、どうだ?」
「え?」

 裾と裾をつかんで、くるり、とやつに巻きつける。
 一瞬驚いたような顔をしたが、巻きつけたストールを見ながら、すぐに笑顔
になる。

「あ、ホントだ。白いいね、すごい綺麗」

 ああ、なんか、だめだ。

「似合うよ」
「ふふ、ありがと。これにしようかな」

 俺、だめだ。

「買ってやろか」
「え……」
「いいよ、買ってやる」

 止まらない、俺が。


 会計を済ませて、すぐに使いたいというやつの言葉で袋には包んでもらわず
その場で値札を外してもらった。
 白いストールを巻きつけて、やつが嬉しそうに笑う。

「えへへ、いいもの見つけちゃった。幸久って結構目が利くよね」
「まあ、気に入ってよかったじゃねえか」
「うん」

 屋上駐車場。
 またいつものように、やつは何食わぬ顔で彼氏のところに帰るつもりだ。
 俺のプレゼントしたストールを巻いて。

「今日はありがと、幸久」
「ああ」

 頭で理解しているはずなのに。

 心が、ついていかない。

「あ……」

 腕の中にやつがいる。

「今日、帰んの?」
「…………」

 やつは何もいわない。
 だが、俺の腕の中から逃げようともしない。

「うち、こねえか?」

 返事はない。


時系列と舞台 
------------ 
 2004年秋、吹利市にて。 

解説 
---- 
 昔のコンプレックスを思い出してみたりしながら、恋の泥沼に一直線な幸久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
きる(こんなところでかよ)

しかし、幸久、危ういよ。
下手すると都合のいいミツグくんになってしまいそうですよ、君。
お母さんは心配です(むしろお母さんのせいです)

300EPまであと296



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