[KATARIBE 27990] [HA06P]『徘徊狼と探偵』

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Date: Thu, 30 Dec 2004 05:43:05 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 27990] [HA06P]『徘徊狼と探偵』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/P/
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gallowsです。
去年のログからエピソード起こしてみました。
たまたま見つけた意外な繋がり。
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エピソード:『徘徊狼と探偵』
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登場人物
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 神楽真夜(かぐら・まや)
  :人狼の性質に悩まされる情報屋。
  :http://kataribe.com/HA/06/C/0377/
 比企鐘継(ひき・かねつぐ)
  :奇妙な出自に苦労させられてきた探偵。
  :http://kataribe.com/HA/06/C/0206/

河川敷
------
 吹利市郊外の河川敷。夜も遅く、沿うように走る国道に車の往来はほとんど
ない。当然人通りもなく、川のせせらぎと風の音だけが辺りを通り過ぎていく。
 そんな辺鄙な場所で、雲間から漏れる月明かりに照らされる女が一人、車道
と河原を仕切るガードレールに腰掛けている。長い銀髪は顔にかかり、物憂げ
な表情を覗かせている。

 真夜     :「……はぁ」
 真夜     :(……ワタシの悩みなんて……理解できるヒト……いない
        :よなぁ……)
 真夜     :「……はぁ」

 二度目のため息。
 数分後、原付の軽いエンジン音が響く。銀色のハーフヘルメットを被ったスー
ツの男。やや長めの茶髪が風に煽られはためいている。

 鐘継     :「おおぅ!」

 突然視界に飛び込んだ人影に驚く男。
 原付を停止し、ライトを女に当てる。

 鐘継     :「お化けかと思うたら自殺者か? ほう、とりあえず足は
        :生えとる」

 女は、うたた寝していた。
 男は仕方なく原付を降りて女の肩を叩く。

 鐘継     :「姉さん、風邪引くで」
 真夜     :「……ふにゃ……?」
 真夜     :「……おひゃよう……ごじゃります……」
 鐘継     :「おう、ごじゃります。お化けかと思うたら寝呆助かいな。
        :夢遊病かなんかしらんけどこんな時間にこんなことしとっ
        :たらあかんで」
 真夜     :「……あかんですか……?」
 鐘継     :「せやなあ、例えば本当のお化けにかどわかされる」
 真夜     :「ひゃぁ……あなた、お化けさんですかぁ……」
 鐘継     :「お化けやない。お化けを喰う方や。けけけ」

 まだ半分寝ぼけている女にある種の凄みのある笑みを浮かべる男。夜の闇の
中で、その様は男の言葉通りに妖的。

 真夜     :「お化けを……食べちゃうんですかぁ?……すごいですねぇ」
 鐘継     :「ああ。姉さんがお化けやったら喰うてやろかとおもった。
        :違うみたいだから家に帰したるわ。ほれ、立てるか?」
 真夜     :「うんしょ……っと……」

 男は冗談めかして言いながら手をさしのべる。
 女はそれを取らずに自力でふらふらと立ち上がり、ジーパンに付いた埃や草
切れを払いのける。

 鐘継     :「夜の河原はあかん。あっち側が近いからな」

 川の反対側を真顔で睨み付ける男。

 真夜     :「……あっち?」
 鐘継     :「あっちや」

 首を傾げる女に、笑みで返す。

 真夜     :「……ここって……心地いいんですよね……」
 鐘継     :「変わってる。俺は寒くてかなわん」

 そして男は原付を手で押しながら歩き出す。
 その後をついて行きながら、ぽつりぽつりと話し出す女。

 真夜     :「……やっぱり……変わっているのかなぁ……」
 鐘継     :「まっとうやない」

 男は断定した。

 真夜     :「ありゃぁ……お友達は結構来るんですけどねぇ……まぁ
        :気をつけるようにします……」

 そして女は男の脇に追いつき、覗き込むように目を見ながら明瞭に言う。

 真夜     :「アナタも夜の闇にお気をつけください」

 一息の沈黙。

 鐘継     :「ほう。そら気いつけんとな」
 真夜     :「……食べられちゃいますからね……」

 微笑む女。その瞳は金の光を宿し、獣のように透き通っている。
 相対するように冷めた表情をした男の目が、赤く濁る。

 鐘継     :「やっぱりまっとうやない。」
 真夜     :「……悪気は……ないんです……」
 鐘継     :「まだ寝呆けてるんか。しゃんとせいや。だからお化けが
        :出る言うてんねん」

 女の背中を叩く男。
 女は一瞬よろけ、胡乱に戻った発生で強がった。

 真夜     :「……お化けは……祓えるから……」
 鐘継     :「お化けにお化けは祓えんよ。乗れ」
 真夜     :「あっ……あぅ……」

 会話に飽きたのか、単に寒さに耐えきれなくなったのか、男は原付のエンジ
ンをかけて女を半ば強引にバックシートに座らせる。

 鐘継     :「比企鐘継。探偵や。気分転換くらいにはなるやろ」
 真夜     :「あっ……神楽真夜……情報屋、です……」
 鐘継     :「探偵と情報屋か、そら丁度いい」

 アクセルを入れられ、唐突な加速をする原付。

 真夜     :「ひゃぁっ」

 そうして、二人は川を離れ、市街地に戻っていった。

市街地
------
 鐘継は最寄り駅のロータリーで停車し、原付を軽く倒して真夜を下ろす。
 終電も終わり、周囲にはタクシーがぽつぽつと停まっているくらいである。

 鐘継     :「姉さんのお化けはなあ、脳髄ん中におるんかもしれん」

 別れ際、鐘継はメットを外して自分の頭を指さしながら言った。

 真夜     :「……のう……ずい?」
 鐘継     :「俺のお化けは血におる。だからわかるんや」
 真夜     :「血に……お化け……?」
 真夜     :「それって……どういう……?」

 真夜は微かな動揺を示しながら、相手の言葉の意図をとりあぐねている。
 鐘継はその様子をおかしそうに観察し、一息溜める。そしてキーホルダーを
指で回しながら、言葉を続けた。

 鐘継     :「血は生まれに拠るし、本能は脳髄に因るわな」
 真夜     :「……アナタには……何か見えているの?」
 鐘継     :「姉さん尋常じゃない顔しとったで。そんなん普通人に
         :もわかるわ」

 はぅ、と手で頬を押さえるようにして驚く真夜。

 真夜     :「……わかっちゃいますかぁ……?」
 鐘継     :「ほな、もう帰ってゆっくりおやすみ。この辺でそんな仕
        :事してればまた会う事もあるやろ。そんときはよろしう」

 振り返り様ににんまりと笑い、メットを被ってエンジンをふかす鐘継。

 真夜     :「あっ……はい、ありがとうございました」

 深々と頭を下げる真夜。
 走り去るバイクの男はもうそちらを振り返ることはなかった。

 真夜     :(……不思議な……人だった……)

時系列と舞台
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2003年初秋のある夜。吹利市郊外のどこかの河川敷にて。

解説
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精神的に不安定だった真夜をたまたま鐘継が見つけ、互いに深入りせずに立場
を考える話。情報屋と探偵の初顔合わせでもある。

関連ログ
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http://kataribe.com/IRC/HA06/2003/11/20031101.html#090000


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