[KATARIBE 27985] [HA06N] 『歯軋り』

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Date: Wed, 29 Dec 2004 22:53:50 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27985] [HA06N] 『歯軋り』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2004年12月29日:22時53分50秒
Sub:[HA06N] 『歯軋り』:
From:久志


ちは、久志です。

酔いに任せてへろへろりんと話を書いてます。

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小説:『歯軋り』
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登場キャラクター 
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。
 彼女  :幸久がメロってるらしい人。彼氏がいる、らしい。


車の中で
---------

 夕暮れ時の日差しが薄曇の空に溶けるように広がっている。
 もうすっかり走りなれた霞山山道を抜けて、近鉄吹利を一望できる山道中腹
の休憩所へ出る。

 助手席に座ったやつの手が、俺の膝のあたりにそっと置かれてる。何かをね
らっているのか無意識なのかは知らねえが、ただ、なんとなくそれだけで落ち
着かねえ自分が、我ながら女々しい。

 車を止めてサイドブレーキを引く。
 吹利レジャーランドを見下ろして、一本煙草に火をつける。


「車、好きだよな。お前」
「そう?」

 膝に手を置いたまま、俺を見上げてくる。

 落ち着かねえ。
 腹の底を見透かされてるような、居心地の悪さ。

 膝の上の手に、俺の手を重ねる。
 日が落ちて薄暗くなった車内で、やつと目があう。

 重ねた手に力がこもる。


 ふと、やつが俺から目をそらした。
 彼氏に対する後ろめたさか、俺に対するためらいか、あるいは両方か。
 またか、と思いながら、俺は歯を噛み締める。


格好よく見える時
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 何をするでもなく。
 ぼんやりと、何度となく眺めた近鉄吹利の町並み。
 日もすっかり落ちて薄暗くなった車内で、ただ、俺とやつは黙っている。

「男の人が車の運転してるとこ見るの、好きなの」
「そうか?」

 そういや似たようなことを、昔付き合った女にも言われたことがある。

「女はよく言うよな、それ」
「うん」
「運転してるほうはさっぱりわからん」

 正直なとこ、運転してるほうにしてみりゃ、乗車中は当然運転に集中してい
るわけで、その姿がいいと言われても、さっぱりわからねえ。

「幸久。車、運転してるとき、カッコいいのに」
「は?」

 そんなん初耳だ。つうか、正直微妙だ。

「照れた?」
「……しるか」

 その時。

 エンジンも切った無音の車内で振動音が響いた。
 おかしそうに笑うやつの顔が凍る。

 宙を泳ぐような目で鞄と俺の顔を見る。俺は何も言わず窓の外に目をやった。
 一瞬置いて、ピッピッと聞こえる電子音。

 携帯メールの相手はおそらく、いや、間違いなく彼氏。


近くて遠い距離
---------------

 あのメールの後、大して会話もせず引き返してきた。

 赤レンガマンションの二百メートル手前。いつものように車を停める。
 ほんの少し足を伸ばせば、いつでもたどり着けそうな距離。

 そこには、知らねえ男がやつを待っている。

「今日は、ごめんね」
「……ああ」

 胸の中で何かが燻ってる。
 その理由も気持ちもわかってるくせに、やつは何もいわない。

「また、メールするね」

 一瞬、頭の中がかあっと熱くなった。

 やつの腕をつかんで、引いた。
 それでもやつは逃げようとも避けようともしねえ。

「ごめんね」

 離れ際、小さな声が耳を掠める。

「じゃあ、な」
「うん……」

 やつが、歩いていく。
 一度だけ振り向いて、そのまま逃げるように小走りで駆けていく。

 歯を噛み締める。
 見も知らないやつの彼氏に対する嫉妬か、煮え切らない情けねえ自分に対し
てなのか、どっちともつかないやつの態度に対してなのか、わからないまま。


時系列と舞台 
------------ 
 2004年秋、吹利市にて。 

解説 
---- 
 横恋慕デート中にきた相手の彼氏のメール。別れ際に歯を噛み締める幸久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
いじょ。

HAHAHA、よぱらーいいえー。



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