[KATARIBE 27970] Re: [HA06N]『二人ノ魔』

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Date: Mon, 27 Dec 2004 23:16:33 +0900
From: "月影れあな" <tk-leana@jttk.zaq.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27970] Re: [HA06N]『二人ノ魔』
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 ういっす、れあなです。
 こっちでも整形してみたので流しまする〜

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小説:『二人ノ魔』
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登場キャラクター
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 煙山園子   :ぼんやり口調の小学校教師。実は煙妖怪。
 エル     :園子の親友。外見はビスクドールを持った少女だが……?

本文
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 年
末近づく吹利の街。人々が白い息を吐きつつ歩くのを見つつ、灰色髪の女性が、
ふぅ、とため息をついた。その口から漏れるのは、凍えた吐息とは違う、白い
息。
 歩道橋の上から見下ろす吹利の街は、とても平和に見える。いたって普通な、
ただの街。
「平和ねぇ」
 白いコートを着込んだ女性は、白い息を吐きつつ、ぼんやりと車が通るのを
眺める。
 約束の時間は、とうの昔に過ぎている。確か、今日で二年と少しくらいだろ
うか。
 しかし、その程度の誤差は、女性には関係ない。相手も忙しい身、会えるほ
うが奇跡というもの。
「良い町ねぇ」
 歩道橋を歩く通行人からの奇異の視線を浴びつつ、女性は懐から取り出した
煙草に火を点ける。吐き出した煙は、さきほどの息と同じ色をしていた。
 煙をくゆらせつつ、女性はただぼんやりと夜を過ごす。ここ最近は仕事が忙
しく、待ち合わせの場所で待機することができなかった。この年末になり、よ
うやく暇が出来る。
「冬休みって、いいわねぇ」
 給料は安定しているし、定期的な休みもとれる。今まで趣味で様々な職を
点々としてきたが、今回の仕事は、そういう意味では楽だ。しかし、別の意味
で大変ではあるのだが。
 休みが明ければ、またあの子供達の面倒を見ることになるのだろう。子供達
から見れば、こちらが世話してやってるんだ、と主張するかもしれないが、そ
れはそれ、立場が違う。
 しかし、と考える。今年はかなり自由気ままに授業をしてきたが、来年から
はしっかり教えたほうがいいかもしれない。あの子たちだって、未来があるん
だし。
「人に物教えるのは苦手なのよねぇ」
「なら、小学校教諭なんてしなきゃいいじゃないの」
 冷ややかな声は、背後から聞こえてきた。女性にとっては一瞬のごとく短く、
一般人からすれば長すぎる期間を置いて放たれた声に、思わず表情が緩んだ。
「来たねェ……あらぁ、それは言わないお約束よぉ」
 煙草を道路へ放ると同時に、くるりと振り返る。
 視線の先に、奇妙な格好をした少女が居た。
 今時は、ゴスロリとでも言うのだろうか、黒と白のコントラストが美しいフ
リル付きの服を着た少女。それ単体では、単にコスプレ好きか少女趣味なのか、
と言われるに留まるのだが、少女の腕に抱えられた“それ”が、少女を普通か
ら遠ざけていた。
「久しぶりねぇ」
 灰色の女性は、視線を少女、ではなく、少女の持った“それ”に向け、にこ
やかな笑みを浮かべる。しかし、赤いドレスを着込み、小さく赤い唇と、ウ
ェーブヘアを持つ“それ”が返事をすることはない。
 それはそうだろう。
 いかに人に似ていようとも、人形は、言葉を喋る事はない。
「園子おばちゃん、おひさ〜っ」
「おばちゃんは止めなさいよぉ、エルちゃん」
 エルと呼ばれた少女のセリフにがくっと肩を落としつつも、園子と呼ばれた
女性はなおも人形に話し掛ける。ビスクドール、と呼ばれる陶器人形は、目を
閉じた姿のまま、もちろん、動く事はない。
 そう、それが普通の人形なら。
「毎回、ちゃん付けは止めなさいと言ってるわよね。煙女」
「ハンッ、アンタなんかちゃん付けでいいんだよ、虚人形(ホロウドール)」
 エルと園子の口調が、同時に変貌した。
 いつのまにか、あどけない少女の顔だったエルの表情が、艶やかさまで感じ
るような、大人びたものに変わっている。対する園子も、ぼんやりとした常の
表情を感じさせないように、しゃきっとした顔をしている。
 二人が漂わせるただならぬ気配に、歩道橋を通る人々の視線が向けられる。
それを横目で見て、エルが煩わしげに首を振った。
「邪魔者が多いわ」
「んじゃ、いつもの宜しくゥ」
 ニタリ、と笑みを浮かべる園子を見て、エルがやれやれと首を振る。片腕を
伸ばし、天に突き上げたエルが、一瞬、妖魔の如き妖しさをかもしだす。
 パチン。
 指を鳴らす。ただその一動作だけで、周囲の雑踏が消え去っていた。歩道橋
には、一瞬前と変わらず、忙しく人が行き交っている。しかし、人々の視線は、
園子にも、エルにも向けられていない。
「さァて、気兼ねもなくなったし」
「ええ」
 園子が、懐から取り出した煙管を咥え。
 エルが、その円い瞳を閉じ。
「やっぱ、こっちの方が楽だねェ」
 そう言う園子の灰髪が、まるで、煙が空に昇っていくように、天に向かってたなび
いて
いた。
「たまには、本性を表さないと疲れるわね」
 そう言うエルの持つ人形の目が開き、まごうことなき人間の瞳が覗いた。
 慕情の煙管くゆらせし煙羅煙羅と、永久の時を旅する生き人形。人前では決
して見せない、二人の本性。
 今度こそ、園子は人形の瞳に目を合わせる。二人の表情に、安堵の色が広がった。


 園子とエルが出会ったのは、十年前か、五十年前か、はたまた百年前か。既
に、ファーストコンタクトの記憶は失われている。
 しかし、世の闇に生きる二人は確かに心を通わせ、待ち合わせ場所を決めて
は、長い生涯の一時を共に過ごす。
「ごめんなさいね、ソノコの情報を集めていたら、時間がかかってしまって」
「アンタに謝られるなんて気味が悪いよォ」
 会った時間を合計すれば数日に満たないかもしれないが、園子はエルのこと
を良く知っている。少女の外見に似合わず気位の高い“彼女”は、何か理由が
なければ、人に謝ろうとはしない。
「あら、私だってたまには自分の非を認めることもあるのよ?」
「うそ臭ェ」
 ケッ、と毒づいてから、園子は視線を泳がせた。音の無いのを除けば、いた
って普通の風景を、いとおしそうに眺める。
「吹利が、好き?」
「あァ、アタシらが生きるには最高の場所だねェ」
 表面は取り繕っているが、奥を覗けば、吹利という土地は謎に満ちている。
 “なぜか”不思議なモノ達が集い、“なぜか”不思議な事件が起こる。
 それはつまり、園子のような異端のものには、絶好の棲家。
「柄にもなく先生なんて始めたのも、そのせい?」
「ン、そりゃわかんねェ。最初は単なる思い付きだったんだがなァ」
 これだけ摩訶不思議なモノの集う吹利なら、子供たちにも不思議なものが多
いのだろうか。それを確かめるためだけに、全てを“けむにまく”力を使って、
学校に侵入した。
 それが、いつのまにか、本気で教師を始めようとしている。
「無理ね」
「ンだとコラァ!」
 エルの呟きに、園子は怒りの表情を浮かべて視線を戻す。しかし、エルの瞳
にたたえられた憂慮の色に、う、と言葉に詰まった。
 確かに、園子は教師に向いていない。否応なく長く生きていたために、知識
ならあるが、それを教える技術がない。そしてなにより。
「ソノコには“影響力”が足りない、でしょう?」
「あァ、そうだよ。それがアタシの宿業だからね」
 園子は、元は煙の妖怪。煙という不確かでおぼろげな存在は、園子の存在感
や影響力にも確実に影響を与えている。実態のない煙では、人を導くことなど
できない。
 でも、しかし。
「アタシは、人を教えたい」
「その教え子たちって、そんなに良い子なの?」
 エルの問いに、どうだろうねェ、と言葉を濁す。いい子といえばそうだし、
違うといえば違う。
 ただ、一つだけ言える事は。
「あの子たちは、アタシたちにないものを持ってると思うんだよォ」
 園子のセリフに、反応はない。ただ、エルの不安げな視線が返ってくるだけ
だった。
 分っている。園子もその事実を認めたくない、小さいとはいえ人型のエルな
らなおさらだろう。だが、事実は事実だ。
「アタシとアンタには、“魂”がない」
「……そう、ね」
 永き時がそうさせたのか、それとも、器物が元であるという素材の問題なの
か、園子とエルには、“魂”や“心”というものが欠けていた。
 人に突かれれば、それらしい反応を返す。そして、普段なら、それを自分の
“心”として捉えている。しかし、ふと孤独に立ち返ったとき、二人の意識に
は、虚無が広が
る。
「人間って、何なんだろうねェ」
「どうかしらね」
 人間。生物学的な人間、というわけでなく、“魂”と“心”を持ったモノの
こと。その人間のことを知るために、エルは各地を旅し、園子は人の慕情を晴
らしていた。
 しかし、いくら探しても、二人は“魂”と“心”を見つけられずにいる。
「今度こそ、つかめると思うんだよォ」
 確証はない。ただ、予感のようなものが、園子の脳裏に囁きつづける。
 人を教え、導け、と。
「今度こそ……」
 遠くを見たまま黙り込んでしまった園子を、エルは震える瞳で見ている。
 数秒か、それとも数分か、最初に反応を見せたのは、エルだった。
「面白そうね」
「ン?」
 園子の視線が、エルに向けられる。新しい遊びを見つけた顔が、そこにあっ
た。嫌な予感を感じつつも、園子は安堵の息を吐く。エルには、その表情が一
番似合っている。
 エルが園子の目の前に立ち、上目遣いに見上げてくる。ン? と見返した園
子の瞳に、エルの不敵な笑みが映った。
「私も、混ぜさせてもらうわ」
「ハァ?」
「いいじゃない、私も楽しませてよ」
 拗ねたようにこちらを見るエルの表情は、その外見通りの、幼いもの。ははァ、
と、園子はその可能性に思い至った。
「アタシの生徒になる気かィ?」
「私じゃ不満かしら、ソノコ先生?」
 そう言うエルの顔を見返しつつ、考える。恐らくエルは、学校に潜り込むた
めの裏工作までなにやら、園子にやらせるつもりだろう。いくら“けむにまく”
力を持っているとはいっても、その力にも限界がある。
 でもまあ、そんな苦労もまた楽し。
「アタシの家にホームステイしてる子、ってことにしとくよォ」
「あら、面倒まで見てくれるの?」
「じゃなきゃ、また男引っ掛けるだろうが」
 エルには、気に入った人間に本体である人形を渡し、その身を乗っ取る、と
いう悪癖がある。見知らぬ街に辿り着いた時は、まず適当に金のありそうな男
を乗っ取るのが、エルのやり方だった。相手を乗っ取ると同時に、幸せな幻を
脳裏に送り込むのが、エルなりの優しさ、ということになるのだろうが、園子
はあまり理解できない。
「ともかく、そうと決まりゃァ、さっさと準備するかね」
「頑張りなさい」
「ケッ、言われなくても頑張るよゥ」
 ようやく自分のペースを取り戻してきたエルを見て、園子がニヤリと笑みを
浮かべる。
 その手が煙管を口から離し、灰を落とす。それを合図にしたように、エルも
人形の瞳を閉じた。
 園子の髪が地を向き、エルの少女の瞳が開いたとたんに、音が戻って来た。
「さて、お家にいらっしゃぁい」
「は〜い」
 気の軽い女性と、純粋な少女、という皮を被った二人は、吹利の夜に溶けて
いく。
 そんな二人は知らない。
 人間を知ろうとして、悩み、苦しみ、そして喜ぶその反応こそ、“心”であ
り、“魂”がある証拠だということを。
 二人は、知らない

 END


時系列と舞台
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 吹利のどこかの歩道橋。年末。

解説
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 久方ぶりに会った園子と親友。そこで語られる、園子の想いは。


$$
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 「$$」に意味はあまりない気もするんですが、なんだ、様式美?



 / 姓は月影、名はれあな
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