[KATARIBE 27969] Re: [HA06N]『二人ノ魔』

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Date: Mon, 27 Dec 2004 23:11:32 +0900
From: "tuboyama" <tuboyama@wg7.so-net.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27969] Re: [HA06N]『二人ノ魔』
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あはは、改行が無茶苦茶になってましたごめんなさい(涙)
とりあえず、これで読める、はず。

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小説:『二人ノ魔』
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登場キャラクター
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煙山園子:ぼんやり口調の小学校教師。実は煙妖怪。
エル:園子の親友。外見はビスクドールを持った少女だが……?
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 年末近づく吹利の街。人々が白い息を吐きつつ歩くのを見つつ、灰色髪の女性が、
ふぅ、とため息をついた。その口から漏れるのは、凍えた吐息とは違う、白い息。
 歩道橋の上から見下ろす吹利の街は、とても平和に見える。
 いたって普通な、ただの街。
「平和ねぇ」
 白いコートを着込んだ女性は、白い息を吐きつつ、ぼんやりと車が通るのを眺め
る。
 約束の時間は、とうの昔に過ぎている。確か、今日で二年と少しくらいだろうか。
 しかし、その程度の誤差は、女性には関係ない。
 相手も忙しい身、会えるほうが奇跡というもの。
「良い町ねぇ」
 歩道橋を歩く通行人からの奇異の視線を浴びつつ、女性は懐から取り出した煙草に
火を点ける。吐き出した煙は、さきほどの息と同じ色をしていた。
 煙をくゆらせつつ、女性はただぼんやりと夜を過ごす。ここ最近は仕事が忙しく、
待ち合わせの場所で待機することができなかった。この年末になり、ようやく暇が出
来る。
「冬休みって、いいわねぇ」
 給料は安定しているし、定期的な休みもとれる。今まで趣味で様々な職を点々とし
てきたが、今回の仕事は、そういう意味では楽だ。しかし、別の意味で大変ではある
のだが。
 休みが明ければ、またあの子供達の面倒を見ることになるのだろう。
 子供達から見れば、こちらが世話してやってるんだ、と主張するかもしれないが、
それはそれ、立場が違
う。
 しかし、と考える。
 今年はかなり自由気ままに授業をしてきたが、来年からはしっかり教えたほうがい
いかもしれない。
 あの子たちだって、未来があるんだし。
「人に物教えるのは苦手なのよねぇ」
「なら、小学校教諭なんてしなきゃいいじゃないの」
 冷ややかな声は、背後から聞こえてきた。
 女性にとっては一瞬のごとく短く、一般人からすれば長すぎる期間を置いて放たれ
た声に、思わず表情が緩んだ。
「来たねェ……あらぁ、それは言わないお約束よぉ」
 煙草を道路へ放ると同時に、くるりと振り返る。
 視線の先に、奇妙な格好をした少女が居た。
 今時は、ゴスロリとでも言うのだろうか、黒と白のコントラストが美しいフリル付
きの服を着た少女。
 それ単体では、単にコスプレ好きか少女趣味なのか、と言われるに留まるのだが、
少女の腕に
 抱えられた“それ”が、少女を普通から遠ざけていた。
「久しぶりねぇ」
 灰色の女性は、視線を少女、ではなく、少女の持った“それ”に向け、にこやかな
笑みを浮かべる。
 しかし、赤いドレスを着込み、小さく赤い唇と、ウェーブヘアを持つ“それ”が返
事をすることはない。
 それはそうだろう。
 いかに人に似ていようとも、人形は、言葉を喋る事はない。
「園子おばちゃん、おひさ〜っ」
「おばちゃんは止めなさいよぉ、エルちゃん」
 エルと呼ばれた少女のセリフにがくっと肩を落としつつも、園子と呼ばれた女性は
なおも人形に話し掛ける。
 ビスクドール、と呼ばれる陶器人形は、目を閉じた姿のまま、もちろん、動く事は
ない。
 そう、それが普通の人形なら。
「毎回、ちゃん付けは止めなさいと言ってるわよね。煙女」
「ハンッ、アンタなんかちゃん付けでいいんだよ、虚人形(ホロウドール)」
 エルと園子の口調が、同時に変貌した。
 いつのまにか、あどけない少女の顔だったエルの表情が、艶やかさまで感じるよう
な、大人びたものに変わっている。
 対する園子も、ぼんやりとした常の表情を感じさせないように、しゃきっとした顔
をしている。
 二人が漂わせるただならぬ気配に、歩道橋を通る人々の視線が向けられる。
 それを横目で見て、エルが煩わしげに首を振った。
「邪魔者が多いわ」
「んじゃ、いつもの宜しくゥ」
 ニタリ、と笑みを浮かべる園子を見て、エルがやれやれと首を振る。
 片腕を伸ばし、天に突き上げたエルが、一瞬、妖魔の如き妖しさをかもしだす。
 パチン。
 指を鳴らす。ただその一動作だけで、周囲の雑踏が消え去っていた。
 歩道橋には、一瞬前と変わらず、忙しく人が行き交っている。
 しかし、人々の視線は、園子にも、エルにも向けられていない。
「さァて、気兼ねもなくなったし」
「ええ」
 園子が、懐から取り出した煙管を咥え。
 エルが、その円い瞳を閉じ。
「やっぱ、こっちの方が楽だねェ」
 そう言う園子の灰髪が、まるで、煙が空に昇っていくように、天に向かってたなび
いていた。
「たまには、本性を表さないと疲れるわね」
 そう言うエルの持つ人形の目が開き、まごうことなき人間の瞳が覗いた。
 慕情の煙管くゆらせし煙羅煙羅と、永久の時を旅する生き人形。
 人前では決して見せない、二人の本性。
 今度こそ、園子は人形の瞳に目を合わせる。二人の表情に、安堵の色が広がった。


 園子とエルが出会ったのは、十年前か、五十年前か、はたまた百年前か。
 既に、ファーストコンタクトの記憶は失われている。
 しかし、世の闇に生きる二人は確かに心を通わせ、待ち合わせ場所を決めては、長
い生涯の一時を共に過ごす。
「ごめんなさいね、ソノコの情報を集めていたら、時間がかかってしまって」
「アンタに謝られるなんて気味が悪いよォ」
 会った時間を合計すれば数日に満たないかもしれないが、園子はエルのことを良く
知っている。
 少女の外見に似合わず気位の高い“彼女”は、何か理由がなければ、人に謝ろうと
はしない。
「あら、私だってたまには自分の非を認めることもあるのよ?」
「うそ臭ェ」
 ケッ、と毒づいてから、園子は視線を泳がせた。音の無いのを除けば、いたって普
通の風景を、いとおしそうに眺める。
「吹利が、好き?」
「あァ、アタシらが生きるには最高の場所だねェ」
 表面は取り繕っているが、奥を覗けば、吹利という土地は謎に満ちている。
 “なぜか”不思議なモノ達が集い、“なぜか”不思議な事件が起こる。
 それはつまり、園子のような異端のものには、絶好の棲家。
「柄にもなく先生なんて始めたのも、そのせい?」
「ン、そりゃわかんねェ。最初は単なる思い付きだったんだがなァ」
 これだけ摩訶不思議なモノの集う吹利なら、子供たちにも不思議なものが多いのだ
ろうか。
 それを確かめるためだけに、全てを“けむにまく”力を使って、学校に侵入した。
 それが、いつのまにか、本気で教師を始めようとしている。
「無理ね」
「ンだとコラァ!」
 エルの呟きに、園子は怒りの表情を浮かべて視線を戻す。
 しかし、エルの瞳にたたえられた憂慮の色に、う、と言葉に詰まった。
 確かに、園子は教師に向いていない。
 否応なく長く生きていたために、知識ならあるが、それを教える技術がない。そし
てなにより。
「ソノコには“影響力”が足りない、でしょう?」
「あァ、そうだよ。それがアタシの宿業だからね」
 園子は、元は煙の妖怪。
 煙という不確かでおぼろげな存在は、園子の存在感や影響力にも確実に影響を与え
ている。
 実態のない煙では、人を導くことなどできない。
 でも、しかし。
「アタシは、人を教えたい」
「その教え子たちって、そんなに良い子なの?」
 エルの問いに、どうだろうねェ、と言葉を濁す。いい子といえばそうだし、違うと
いえば違う。
 ただ、一つだけ言える事は。
「あの子たちは、アタシたちにないものを持ってると思うんだよォ」
 園子のセリフに、反応はない。ただ、エルの不安げな視線が返ってくるだけだっ
た。
 分っている。園子もその事実を認めたくない、小さいとはいえ人型のエルならなお
さらだろう。
 だが、事実は事実だ。
「アタシとアンタには、“魂”がない」
「……そう、ね」
 永き時がそうさせたのか、それとも、器物が元であるという素材の問題なのか、
 園子とエルには、“魂”や“心”というものが欠けていた。
 人に突かれれば、それらしい反応を返す。そして、普段なら、それを自分の“心”
として捉えている。
 しかし、ふと孤独に立ち返ったとき、二人の意識には、虚無が広がる。
「人間って、何なんだろうねェ」
「どうかしらね」
 人間。生物学的な人間、というわけでなく、“魂”と“心”を持ったモノのこと。
 その人間のことを知るために、エルは各地を旅し、園子は人の慕情を晴らしてい
た。
 しかし、いくら探しても、二人は“魂”と“心”を見つけられずにいる。
「今度こそ、つかめると思うんだよォ」
 確証はない。ただ、予感のようなものが、園子の脳裏に囁きつづける。
 人を教え、導け、と。
「今度こそ……」
 遠くを見たまま黙り込んでしまった園子を、エルは震える瞳で見ている。
 数秒か、それとも数分か、最初に反応を見せたのは、エルだった。
「面白そうね」
「ン?」
 園子の視線が、エルに向けられる。新しい遊びを見つけた顔が、そこにあった。
 嫌な予感を感じつつも、園子は安堵の息を吐く。エルには、その表情が一番似合っ
ている。
 エルが園子の目の前に立ち、上目遣いに見上げてくる。
 ン? と見返した園子の瞳に、エルの不敵な笑みが映った。
「私も、混ぜさせてもらうわ」
「ハァ?」
「いいじゃない、私も楽しませてよ」
 拗ねたようにこちらを見るエルの表情は、その外見通りの、幼いもの。
 ははァ、と、園子はその可能性に思い至った。
「アタシの生徒になる気かィ?」
「私じゃ不満かしら、ソノコ先生?」
 そう言うエルの顔を見返しつつ、考える。
 恐らくエルは、学校に潜り込むための裏工作までなにやら、園子にやらせるつもり
だろう。
 いくら“けむにまく”力を持っているとはいっても、その力にも限界がある。
 でもまあ、そんな苦労もまた楽し。
「アタシの家にホームステイしてる子、ってことにしとくよォ」
「あら、面倒まで見てくれるの?」
「じゃなきゃ、また男引っ掛けるだろうが」
 エルには、気に入った人間に本体である人形を渡し、その身を乗っ取る、という悪
癖がある。
 見知らぬ街に辿り着いた時は、まず適当に金のありそうな男を乗っ取るのが、エル
のやり方だった。
 相手を乗っ取ると同時に、幸せな幻を脳裏に送り込むのが、エルなりの優しさ、と
いうことになるのだろうが、園子はあまり理解できない。
「ともかく、そうと決まりゃァ、さっさと準備するかね」
「頑張りなさい」
「ケッ、言われなくても頑張るよゥ」
 ようやく自分のペースを取り戻してきたエルを見て、園子がニヤリと笑みを浮かべ
る。
 その手が煙管を口から離し、灰を落とす。それを合図にしたように、エルも人形の
瞳を閉じた。
 園子の髪が地を向き、エルの少女の瞳が開いたとたんに、音が戻って来た。
「さて、お家にいらっしゃぁい」
「は〜い」
 気の軽い女性と、純粋な少女、という皮を被った二人は、吹利の夜に溶けていく。
 そんな二人は知らない。
 人間を知ろうとして、悩み、苦しみ、そして喜ぶその反応こそ、“心”であり、
“魂”がある証拠だということを。
 二人は、知らない

 END

時系列と舞台
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 吹利のどこかの歩道橋。年末。

解説
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 久方ぶりに会った園子と親友。そこで語られる、園子の想いは。

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それでわ
“小説量産機”渚女悠歩

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