[KATARIBE 27831] [HA06N] 2004文化祭関連:我が素晴らしき日々

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Date: Sat, 16 Oct 2004 08:27:15 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 27831] [HA06N] 2004文化祭関連:我が素晴らしき日々
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gallowsです。
書きかけ、というか後半粗筋しか書いてないんですが企画が止まるとマズイの
でとりあえず出しちゃいます。
これとは別につみきサイドからの話も流す予定です。みんなで色々書いて描い
ていければと思います。では。

小説:『我が素晴らしき日々』
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本編
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 それは七月の初め。盆地特有の乾燥した空気は無風状態で、太陽が無遠慮に
グラウンドを焼いた真夏日。私は体育の授業でソフトボールをしていて、左翼
手で、ひたすらに暇であった。女子の授業のソフトボールで打球が外野にまで
飛んでくる事なんてそうそうない。この暑さならそれは尚更で、もう皆やる気
などとっくに萎えているはずだ。それを狙っての左翼手。
「まあ、よかんべ」ぼそっと呟いてグラウンドに座り込む。空はやたらと青く
て、内野で試合そっちのけに無駄話をしている二塁の子達は眩しい。そのまま
の姿勢で10分もいる。バッターボックスにはクラスでも特に小柄な桜居が立っ
ており、バットに振り回されている、と思う。ここからではよく見えない。きっ
とその光景はこの暑さを紛らし、心を涼やかにしてくれたであろうに。どうせ
なら捕手でもやるんだったか。このポジションは楽だが、間近で彼女たちが見
られないという欠点があった。再考の余地がある。
 その時、私のすぐ横を風が通り抜けた。それはつまり桜居からの贈り物か。
そんな妄想が頭を掠める。今まで高嶺の花と思い遠くから見てきたが、私に風
を届けるとは味な事をする。
「頼子。頼子ー。ボール取ってきてー」
「ん?」
「いや、ボールだってー。今あんたの脇を抜けていったでしょうが」
「なんで?」
「なんでじゃなくて、ボール。ボケてしまいましたか、頼子婆さん」
「……ふむ」
 面倒くさい。見なかった事にしたかったのだが。というか当たらないでよかっ
た。あんな勢いのある打球が頭を掠めるとは夢にも思わなかった。
 センターの相葉のしっかりしてくれよーという言葉を背中で受け流しつつ、
ボールが転がったであろうグラウンド脇の小道に向かう。こんな授業で大真面
目に打つやつがあるか、チビの癖にどういう運動能力だ、これだから優等生は
困る。空気の読めない桜居への悪態をつきながらえっちらおっちらと歩く。愛
は憎しみに転じやすいものなのである。


 小道は、日陰になっていて比較的過ごしやすかった。すぐ右手にはプールの
高い柵があり、その向こうではクラスの男衆がだらだらと浮いているはずだ。
あらぬ疑いをかけられる前に退散したかったのだが、低木が生い茂っているた
めボール探しは難航した。
プールが2メートル程上の高さにあるのは幸運だった。泳いでいる限り連中が
私を見つける事もないだろうし、私もまた男の体など見たくもない。男の体は
嫌いであった。早くあの暑いが魅惑的なグラウンドに戻った方が得策であろう。
黙々と茂みを掻き分ける。
 頭上で金網を叩く音がした。見上げると半裸の男子がある一点を指し示して
いる。私の後方、オニシバリの茂みにそれは引っかかっていた。されど私の目
はその男子の首筋に呪縛され動かない。中性的な少年、という生き物に私はそ
こで初めて出会ったのだと思う。私は礼だかなんだかわからぬ言葉を返し、そ
の場を去った。彼はその年頃の少年らしからぬ愛想のよい笑顔を浮かべていた
ように思う。
「遅ーい。もう別のボール使って始まってるよ」
「ああ、少し探すのに苦労した」
 拾ったボールをベンチ脇の籠に放り投げポジションに戻る。
 あれは誰だったのか。逆光で顔がよく見えなかったがおそらくクラス委員の
西園寺である。今の時間プールを使っているのは私のクラスメイトに違いない
のだから、その中であのシルエットがあり得る男は他にいない。今まで男とい
うだけで完全に除外していたが、あのような者もいるのだと私は考えを改めた。
 これは恋なのかとも考えたが、私は以前より恋人にするのなら177cm以上の
長身の男と決めていたし、その考えは揺るいでいない。177cmというのは私の
身長である。
 そして西園寺は私の記憶が確かならそれよりずっと低い。つまり、私は他の
女子と同様に彼を愛でたいのである。出来うる事なら可憐な格好をさせ身近に
置いておきたいのである。遠大な妄想が私の頭を支配していくのがわかった。


 そして長すぎた夏が過ぎ去り、ようやく秋めいてきた頃、私は計画を実行に
移した。間もなく我が校の文化祭が始まる。私は夏の間にコツコツと書き連ね
た企画書をクラスの出し物の案として提出した。
 英語劇ロミオとジューリエット。ロミオ役に桜居を、ジュリエットに西園寺
を配したアイデアは一部の女子に好評で、喫茶店案にあっさり勝ってしまった。
配役はやりたがりそうな者と断れなさそうな者しか選ばなかった。主要なスタッ
フにはあらかじめ根回しをしておいた。人選は的確だった。
 英語劇にしたのは桜居のアイデアだ。こうすることで企画が通しやすくなる
のだと言う。私はこの数週間で彼女を味方に引き入れていた。実際に付き合っ
てみるとこれがなかなかに話のわかるやつで、西園寺の衣装設定などで会話も
盛り上がった。これは予想外の役得だ。
 だからこの企画を嫌がったのはおそらく西園寺ただ一人であっただろう。他
の男子はといえば目立つのが好きそうな者に領主や親達の役を振るくらいで、
大半の役を女子で固める事に成功した。私は演出家として大手を振って彼女ら
を、そして女装した西園寺を愛でる事が出来る。素晴らしき日々を私は予感し
た。 

解説
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大江頼子の陰謀劇。

-- gallows <gallows@trpg.net>


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