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Date: Wed, 13 Oct 2004 02:16:40 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 27821] [HA06L] 夜のお散歩、猫の誘い
To: "Kataribe-ml" <kataribe-ml@trpg.net>
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。
また一本、小説書いてみましたので送ってみます。
ちょっと変化球気味。
感想などお待ちしております。
ではでは。
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[HA06L] 夜のお散歩、猫の誘い
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1. 夜のお散歩
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八坂郁子、14歳。職業、女子中学生。
ちびで痩せ。同じ年頃の子達に比べて発育が遅れてるのがコンプレックス。
未だに小学校4年生くらいに間違えられてショックを受けることがある。
自慢は八重歯と腰まであるキューティクル完璧なストレートヘア。
得意科目は国語で苦手科目は英語。
趣味は夜のお散歩。
お母さんには怒られるけど、やめられない・譲れない。
そんなわけで台風一過、連休最終日の今日もお散歩。
夜になると空気が入れ替わったみたいに変る。
空気の匂い、足音の響き方、眺める風景の見え方。そのどれもが違う。
なんて表現すればいいんだろう──
なんだか別の国に紛れ込んでしまったような。
知らない国を旅するような、どきどきする感じ。
2. 黒猫のしっぽゆらゆら
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「──♪」
小さく鼻歌を口ずさみながら歩く。
街はどこも濡れていた。
でも風は穏やかだ。
そこかしこで秋虫が鳴く音も昼にはない。
なんとなくいい気持ち。胸がすっとするような。
そんなことを思いながら歩いている。
不意に。
しゅるっ。
「ひゃっ」
足元を何かがかすめて通りすぎる。驚いて声をあげ、足を上げてしまう。自
分でもおかしくなるくらい驚いてるリアクション。
一呼吸。
「にゃーっ」
郁子の歩幅で数歩先、黒猫さんが振り返り悪戯っぽく鳴いた。
落ち着けばなんてことはない。単に黒猫さんが足に身体をこすりつけていっ
ただけのことだった。
「おどかさないでよぉ」
ちょっと頬を膨らし、恨めしげに黒猫さんを見る。
上質の天鵞絨のようなしなやかな毛皮が月明かりを弾いて輝いている。
「にゃぁ」
甘えるように鳴きながら郁子の傍に寄って来た。
しっぽをゆらゆらする仕草が、あまりに可愛くて。
「おいでー」
ついついしゃがみ込んで手を差し出してしまう。
「にゃぁ」
黒猫さん、郁子の手に頭をこすりつけて甘える。
「人懐っこいんだね」
逃げないかな、でも人懐っこいし大丈夫かな。
恐る恐る手を伸ばし抱き上げてみる。
「にゃぁ」
素直に抱かれてくれた。
だけでなく、ぺろっと郁子の頬を舐めてきた。友好の証、友達の印。
「ご近所の飼い猫さん?」
「にゃぁ」
郁子の問いかけに答えるでも答えないでもなく黒猫さん。郁子の胸元に頬を
擦り付けてくる。
「くすぐったいってばぁ」
「にゃぁ」
くすぐったさに郁子が腕をゆるめれば、その隙に腕を抜け出す。それから地
面にとんっと着地。
たったった、と郁子から少し離れて振り返る。
「にゃぁ」
また悪戯っぽく鳴いた。
「──?」
誘われるように少し近づく。
すると黒猫さんは少し遠ざかる。
「にゃぁ」
立ち止まって振り返り、一声。
「──どこかに連れてきたいのかな?」
近づく。
「にゃぁ」
遠ざかる。
近づく。
遠ざかる。
近づく。
遠ざかる。
近づく──
3. 吹利の街の猫集会
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「──ちょっと遠出しすぎかも」
気が付くといつもは来ない少し離れた地区まで来てしまっていた。
「にゃぁ」
少し先では黒猫さんが待っている。
どうしよう──
少し、迷う。
多分、帰った方がいいと思う。
でも残念なことに、黒猫さんを追いかけるのに夢中で道をよく見ていなかっ
たのだ。一人で帰れる自信がない。
帰りも案内してくれる保証はもっとないけれど。
でもきっと案内してくれる。だって賢そうな猫さんだもん。
ちょっと無理があるかもと自分でも思いながら、ついていくことに決める。
「にゃーっ」
「みゃーっ」
「にゃぁっ」
色とりどりの猫の声。
黒、白、ぶち。
トラにキジトラ、サバトラに三毛。
猫、猫、猫。
「わーっ」
郁子は驚きで言葉を失う。ぽかん、と口を開いてしまう。
猫集会ってほんとにあったんだ──
そんなことを思う。
思う郁子の足元に猫が集まってくる。
「にゃぁ」「にゃぁ」「にゃぁ」「にゃぁ」「にゃぁ」
物珍しげに、しげしげと郁子を眺めてみたり擦り寄ってきたり、適当に距離
を置いて寝そべってみたり。それぞれ思い思い。
猫らしくて可愛いといえば可愛いけれど。
ちょっとうるさいかも。
苦笑い。
「はーい、そろそろ集まって」
ぽんぽんっ、と手を叩く音と一緒に大人の男のひとの声。
驚いて振り返る。
4. 満月と猫とダンス
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「さぁ、はじめるよ」
満月をバックに細い手足のシルエット。スーツ姿の男の人が手を叩いて猫た
ちを集めていた。
ぽかん、と郁子が眺めるその前で。
「はい、まずは宙返りから〜」
いかにも人の好さそうな男のひとの声が猫たちに号令。オーケストラの指揮
者みたいに両手で宙に円を描く。
「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」
黒、白、ぶち。トラにキジトラ、サバトラに三毛。
猫、猫、猫が一斉に宙返り。
「わぁぁ──」
大きく口を開けて見とれてしまう。
「さぁて、お次は三回転ジャンプ」
今度の号令は手で大きく水平の円を描きつつ。
「ニャー」「ニャー」「ニャー」「ニャー」「ニャー」
猫の群れが一斉にジャンプ。
前肢を身体に引き寄せて、くるくるとフィギュアスケートみたいな三回転。
しなやなか尻尾はしっかりバランスをとっている。
「今度はトンボ返り」
しなやかな手先が大きく垂直の円。
「ニャァ」「ニャァ」「ニャァ」「ニャァ」「ニャァ」
満月をバックに見事なトンボ返り。
しゅたっと着地。
横一列に綺麗に並び、獅子舞の獅子みたいに見得を切る。
ぱちぱちぱちっ。
「すごーいっ」
胸の前で力いっぱい拍手。
芸をする猫さんなんて初めてだ。まして群れなして一糸乱れず、なんて。
ほとんど魔法を見てるような感じ。
「ありゃ。お客さんが」
いたのか、と言う風に男の人の声。
優しい感じ──でも、それ以外に特徴も取り得もなさそう、なんて郁子は思
いながら。
「こんばんは」
ぺこりと挨拶。多分、教科書に載せたくなるような見事なお辞儀だと思う。
夜にお散歩するだけで不良呼ばわりされかねないから、お行儀にはことさら
気をつけているのだ。
「こんばんは。こんな夜おそくにお散歩ですか?」
にこにこと男の人が言う。
「えっと──」
「にゃぁ」
なんて答えようかと、ちょっと考えようとしたところで、さっきの天鵞絨の
黒猫さんが擦り寄ってきた。
なんだか悪戯っぽく笑ってるような──
そんな微妙な表情。猫の表情の変化が分かるわけじゃないけれど。
「──あぁ、なるほど。猫丸に連れてこられちゃったんですね」
やれやれ、という風に男の人が苦笑する。
なんだかよく分からないけど納得してくれたらしい。
「にゃぁ」
「さてはて。もう遅いからお送りしましょう。きっと、ここまで来る道も覚え
てらっしゃらないでしょう?」
「えぇっと──」
笑顔で言った男の人に、ど答えようか迷う。
確かに帰り道は分からないけれど。でも素直にそう言うのもなんだか悔しい
し、やっぱり知らない男の人と夜道を歩くのもためらわれるような気もする。
どうしよう──
なんて考えてる間もなく。
「はい、みんなー。今日は解散。また次の満月にね」
男の人は煮干をばらまきつつ猫たちを解散させてしまっていた。
5. 家に帰ろう
-------------
秋の満月、住んだ夜空に染みていく鮮やかな明り。
アスファルトに影法師が二つ伸びる。
かつん、こつん。
ぽこら、ぽこら。
のんびり歩く足音も二つ。アスファルトを叩く革の靴底と柔らかく踏むゴム
の靴底。
「にゃぁ」
少し遅れて猫の声。
「えと、ここでけっこうです」
見慣れた街灯と電柱、交差点が見えたところで郁子は振り返りぺこりとお辞
儀した。ここまで来たらもう大丈夫だ。
「気をつけてくださいね。もうあやしい黒猫にひょこひょこついていっちゃダ
メですよ」
にこにこと男の人が言う。
知らない男の人についてく方がダメだと思うけどなぁ。
少し呆れてしまいながら。
「はい。ありがとうございました」
それでもお礼はちゃんと言う。
お行儀、お行儀。
なんて言い聞かせているけれど。さっきの猫の曲芸のせいで悪い人だとは、
どうしても思えない自分を自覚してしまう。
むしろ悪い人どころか──
くすっと笑いかけて慌ててこらえる。
猫使いのおじさん
──なんて。
そんなことを言ったら、きっと流石に気を悪くすると思って。
中学生から見たらおじさんなんだけど、きっと本人はそう思ってない。そん
な微妙なお年頃なのだ、その男の人は。
笑いをこらえつつ頭をあげて男の人の顔を見上げる。
「それじゃ失礼します」
「はい。お休みなさい」
にこにこと優しい笑顔。
踵を返して歩き出そうとしたところで。
「あ、そうだ」
猫使いのおじさんが呼び止めた。
「──はい?」
振り返ってみれば。
「今夜の猫集会のことは秘密にしてくださいね」
どこか──黒猫さんに似た悪戯っぽい笑顔で言われたのだった。
くすり、と堪えきれずに笑みがこぼれてしまう。
「はいっ、もちろん。誰かに話すなんて勿体ないですから」
「それじゃ、あらためてお休みなさい」
弾むように郁子が答えれば、男の人はまた元の優しそうなだけの笑顔で、見
送るのだった。
登場人物
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八坂郁子(やさか・いくこ):
夜のお散歩が趣味の14歳女子中学生。
桜木達大(さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
優しそうな印象くらいしか取り得のない(ように見える)28歳会社員。
時系列と舞台
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吹利市内の住宅街。台風一過、10月の満月の夜。
解説
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夜のお散歩が趣味の女子中学生、八坂郁子。
台風一過の夜、いつも通りにお出かけすると不思議な黒猫に誘われて──
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