[KATARIBE 27749] [HA06N]小説『占玉』

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Date: Mon, 23 Aug 2004 22:14:21 +0900
From: "tuboyama" <tuboyama@wg7.so-net.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27749] [HA06N]小説『占玉』
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どうも、すごくお久しぶりな渚女です
復帰記念に、我がキャラ、渚の話を書いてみたり
何か、新キャラ増えてますが気にしないで(ぇ
それでわ

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小説『占玉』
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「今日は、ここら辺にするかなぁ」
机代わりの荷台を置いて、少年は眠たげな目を擦る。
「ったく、あの雨風じゃ眠れないって」
夜通しの大雨で、少年の睡眠時間はかなり削られていた。訓練と経験で、少々
眠らなくても動けない事はなかったが、しかし、動けるだけで辛い事には代わ
りない。
「……今日は、仕事、止めとくかなぁ」
少年の仕事は集中力が重要。眠気で気の散る今の状況はとても仕事の出来る状
態ではない。
しかし、仕事をしなければ金が入らないのがこの世の常。
「……そういや、しばらく肉食べてないな」
最近の主食はパンの耳。揚げてもよし、煮てもよしの万能食材。しかし、はっ
きり言って味気無い、というか明らかに貧乏臭い。
「う〜ん……」
どうにも集中が出来ない。そういえば、こういう時は道具を使って集中した方
がいいと師匠が言っていた気がする。
「そういえば……っと」
荷物の中から、直径20cm程の水晶球を取り出す。猫っぽい不思議生物に貰
った謎の品だが、たまには使ってやるのもいいだろう。
「んじゃ――それでは、参ります」
がらりと口調を変え、少年が水晶球に視線を落とす。
そんな少年の名は渚悠。異能の隠れし街、吹利を彷徨う占い師である。

若くても、一級の腕を持つ占い師。水晶球を覗き込む顔には先程の眠気を感じ
させない。
じっと見つめるのではなく、そっと覗き込むように水晶球を見る。
――けて
「……?」
水晶占いは、視覚による情報を得る為の術。しかし、今、確かに悠の耳には“声”
が聞こえた。
「はて、不思議ですね……」
一端水晶球から視線を外し、考える。
集中力が復活して、空に漂う何かを感じ取ってしまったのかもしれない。とい
うか、それは俗に言う電波――。
「違いますよ、はい」
誰に言うとも無く言い訳する。そういう悠が、本物の電波だという事を知って
いる者は少ない。むしろ本人も知らない。
「ふむ……」
考えても答えは出そうにない。集中力も復活してきたので、もう水晶球をしま
ってもいいと思う。思うが。
「気になりますね」
再び水晶球に視線を落とす。ただの勘だが、占い師の勘は良くも悪くも当たる
ものだと悠はその身で知っていた。
―助けて
「……誰、で御座いますか?」
呟きに呼応して、水晶球に何かが一瞬映り込む。しかし、映像は一瞬で消えて
しまった。
「はてはて、どうしたものか……」
再び考え込む悠。受動的な占いでは、これ以上の情報を得る事は出来ないだろ
う。ならば。
「少し、強引にいってみまるかねぇ」
右手を伸ばし、水晶球に指を這わせる。すっ、と息を整えて、目を瞑った。
「我、聖なる札の加護を受け、汝を呼び出さん」
左手で使い慣れたタロットカードに触れつつ、静かに言葉を紡ぐ。今考えた適
当な呪文だが、言葉にする事により、それは確かな力を持つ。
「汝が望むのなら、我の前に姿を見せよ」
―助けて!
確かに聞こえた声に、目を開く。手をずらすと、水晶球の中に確固たる姿があ
った。
「……ぁ」
思わず顔が赤くなる。それを見て、水晶球の中に座り込む姿が首を傾げた。
「ぇっと……」
顔を背けつつ、ちらちらと水晶球を見る悠。視線の先には、そのままの姿で縮
小された、白き肌を持つ少女。悠と同じくらいの年頃だと思われるその身には、
何も身に纏っていなかった。
「君は誰?……ではなくて、貴方は誰で御座いますか?」
思わず地の口調が出そうな所を抑えて、視線を逸らしながら少女へと問い掛け
る。
―わからない
「はぁ、そうですか……」
困ったな、と口の中で呟く悠。何かが封じられているとは考えていたが、まさ
かミニミニ人が入っているとは思わなかった。妖精という可能性があるが、
ともかく、見てしまったからには消すなり逃げるなり何とかしなければならな
い。
―助けて
「助けてと言われましても……」
困った表情で、少女の顔を見る悠。決して体を見ている訳ではない。いや、少
しは見ているかもしれないがいやきっと見ていないいやそんな疑いの目で見な
いでそれは――。
―どうしたの
「ぁ、ぃぇ、何でもありませんよ、あはは」
思わず思考の海に逃避しようとした悠を、少女の声が現実に引き戻す。しかし
水晶球の中に住まう少女と会話しているというのが現実というのは、不思議な
ものだと苦笑を浮べる。
「この水晶球から助けて欲しいのですかね?」
―助けて
「はぁ、なるほど……」
上手く話がかみ合わないが、とりあえず、水晶球から取り出せばなんとかなる
かもしれない。
「しかし、どうしたものですかねぇ」
水晶球を抱え上げる。どこかに割れ目はなかろうかと探してみるが、見当たら
ない。
「っ〜」
その前に、少女の一糸纏わぬ姿がどうしても目に付いてしまう。恋人居ない歴
が年齢と同じじゃそうなるよね、と心の中で呟きつつ、水晶球を台に戻す。
「さてはて、どうしたものやら」
―願えば叶う
「っ……え?」
少女の言葉とはまた違った声質の台詞が頭の中で響いた。慌てて周囲を見渡す
も、誰も居ない。
「おかしいですね……」
首を捻りつつ、しかし、願えば叶うとは確かにそうかもしれない、と考える。
少女を出現させた前例もある。試す価値はあるかもしれない。
―助けて
「そこから出たいと願うなら、私と共に願ってください」
水晶球に手を置いて、少女に語りかける。
指の間から、少女の肯く顔が見えた気がした。
「我、聖なる札の加護を受け、汝を助け出さん」
またもや適当な呪文を唱える。自分に魔術的な素養があるとは思えない悠だが、
タロット・カースという味方が居る。
「そこから逃げ出したいと願うのなら、我と共に願え、只願え」
―助けて……逃げたい!
ズッ
少女の声と共に、手が水晶球の中に入り込んだ。柔らかい肌が指に触れる。そ
れが何か自覚する前に、掴んで引き上げた。
「助け……助かった……?」
どこかオドオドとした少女の声が響く。頭の中ではなくて、耳に。
「えぇ、これで助かりま――っ!」
ようやく、自分が少女を手で掴んでいる事に気付く悠。慌てて離すと、水晶の
遮蔽の無くなった少女の裸身から目を逸らす。
「どうしました……キャッ」
少女の叫び声に視線を戻すと、己の身を抱いてうずくまる少女の姿があった。
ようやく、自らの姿に気付いたらしい。
「あぁ、えぇっと……これでもどうぞ」
魔方陣の描かれたハンカチを差し出す悠。
「ぁ、どうも……ぇっと」
「……え、あ、すいません」
少女の視線に慌てつつ、後ろを向く悠。
「……もういいです」
振り返ると、ハンカチを身に巻いた少女の姿。これでやっとまともに見られる
と密かに安堵する。
「それで、貴方は誰なのですか?」
「えぇっと……それが、分らないんです」
不安げに悠を見返す少女。小さいものの整った顔につい見惚れてしまう悠。
「……あのぉ」
「え、あ、えっと、そうですねぇ、困りました」
何か別の意味もこもっているような台詞を吐きつつ、ふむ、と考え込む悠。
「……まあ、その内分るでしょう」
まあなんとかなるだろう、と結論。少女に笑顔を向ける。ただし、悠の笑顔が
好意的に取られた事など殆ど無かったが。
「……はい」
どうやら殆ど無い筈の事が起こったらしく、ふわり、と笑顔を返される。
「あぁ、えっと……とりあえず、名前だけでもお伺いしておきましょうか」
「名前……?」
内心慌てつつ悠が放った言葉に、首を傾げる少女。どうやら、名も忘れてしま
ったらしい。もしくは、名も与えられない内に水晶球に封じられたか。
「では……ミナ、ではどうでしょうか」
「ミナ?」
「晶(あきら)ミナ、まあ、水晶を逆さにして読みを変えただけなのですけど
ね」
悠の提案に、少し考える素振りを見せる少女。
「……そう、ですね、ミナでいいです」
ふんわり笑顔を浮べて肯く少女。その笑顔に思わず気恥ずかしくなる。
「どうかしました?」
「あぁ、いや、何でもありませんよ」
返事を返しながら、水晶球を脇に退ける。これで、占いは終了。
「さて、と……宜しくね、ミナ」
「え、あ、はい」
急に砕けた口調になった悠に驚きつつ、少女が返事する。
「あ、僕の名前は渚、渚悠」
「ナギサさん、ですか」
「そう」
肯きつつ、裁縫セットと布を準備する悠。
「とりあえず、着れる物を作らないとね」
「すいません……」
すまなさそうな顔の少女に、気にしないで、と視線を送る悠。
「……あれ?」
「どうかしました?」
急に難しい顔になった悠に、少女が不安げな声をかける。
「僕が君を助け出した、という事は……つまり、僕がこれからずっと世話しな
きゃいけないって事か」
当たり前の事を確認して、目を細める悠。
「……彼女の前に娘が出来るとは」
「む、娘っ?!」
「あ、いや、単なる比喩表現だから気にしないで」
驚く少女に手を振りつつ、これから二人分、もとい一人と15cm少女分稼が
ねばならないのか、と考える悠だった。

END

時系列
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2004年夏。大雨の後

解説
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睡眠不足と空腹で、集中力が途切れ気味の渚
水晶玉で瞑想しとうとするが、声が聞こえて……

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多分彼女がキャラ化した暁には
「助けてナギサさんっ!:13」とか持っていることでしょう
つくづく変なモノに憑かれる我が分身に乾杯

渚女悠歩

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