[KATARIBE 27376] [PW01N] 朝霧の中に

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Date: Tue, 02 Mar 2004 00:02:28 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 27376] [PW01N] 朝霧の中に
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 ぱらでぃんです。

 冒険者の回顧録にある冒険の一コマみたいな感じでなんとはなしに書いてみ
ました。
 ルールブックの章ごとに書かれているような短文を意識して書きましたが、
思ったより分量が大きくなってしまいました。どうしたものやら。

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小説:朝霧の中に
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「起きろ」
 肩を数度揺さぶられ、私はまどろみの淵から緩々とうつつへと引き上げられ
た。大樹に背をもたれさせていたせいか、背がごつごつとする。外套の汚れな
ど気にせず柔らかい下草の上に寝転がればよかったと軽く後悔の念にかられる。
 朝露で心地よく湿った空気を吸い込み、起こしにきた同行に朝の挨拶をしよ
うとしたが、既に辺りを探索しているらしくその影は無い。そういえば、もう
一人いた小さな旅人も既に起きて何かしているようで、周囲に気配はしない。
 間の悪さを紛らすために灰の中で蠢く熾火をつつき、水を入れた革袋の栓を
外して口をつけると、自分が着けている鎧とそう変わらない臭いにまみれた水
で喉を湿らせる。
「おい」
 顔を上げると、鈍色の武人が顔一つ隠れそうに大きな葉を捧げ持っていた。
「死んだ水を飲むこともあるまい」
 彼がしゃがみ込み柔毛に包まれた葉をくるくる廻すと、まるで魔法のように
朝露がこごり、一つの水玉となる。
 無言で差し出された神秘的な杯をそろそろと両手で受け取って、口へ。
「美味しい」
 そういえば彼らは元々森の民らしい。いつもこのような朝食を摂るのだろう
か。だが、彼は私を一瞥したのみで何も言わず、また間の悪い沈黙が流れる。
 どんどん白い部分が多くなってくる熾火を手近な枝でつつく。
「おうい、おうい」
 丘の向こうから小さい方の連れが駆けてきた。本人は太っていないと主張す
る丸い体のせいか、駆けるというより転がると表現したほうがよいくらい忙し
くこちらへ近づいてくる。
「あったか」
 得物を掴んで立ち上がった隣人に釣られ、私も慌てて同じ動作をとると、息
をきらして丘を降りてきた彼はがくがくと頭を上下させながら来た方向を指し、
言葉を紡ごうと口を動かしながら、腰の酒袋を口に運ぶ。
「あった。でっかい、でっかい船だよう」
 それだけ言って酒袋を一気に呷る彼が落ち着くのを待ち、丘を登る。街から
そう離れてない場所なので魔物などの心配はないが、期待や不安などが入り混
じった感情は私たちの心をざわつかせる。
 はたして、丘の頂きに立った時それは目に入った。
 霧の海に浮かび、霧の衣をまとった立派な帆船。
 呆気にとられている私たちを呼び醒ますように、鋭い刃物を思わせる硬い声
と、得物と鞘が擦れる音が聞こえた。

「行くぞ」

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Praeterea censeo Carthaginem esse delendam.
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