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Date: Sat, 14 Feb 2004 22:16:28 +0900 (JST)
From: 月影れあな <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27341] [HA06P] エピソード『正対称な彼女と彼女』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200402141316.WAA49187@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
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2004年02月14日:22時16分28秒
Sub:[HA06P]エピソード『正対称な彼女と彼女』:
From:月影れあな
ういっす、月影れあなでふ
とりあえず、平行世界しのむんの話を書き出す。
出だしだけですが〜
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エピソード『正対称な彼女と彼女』
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Part S' 平凡な休日の朝
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チュンチュンと鳴く雀の声。鳴らない目覚まし時計。階下からは目玉焼きを
焼く芳ばしい香り。絵に描いたような平和な朝。穏やかに流れる時間の中で、
しのむは眼を覚ます。あくび一つ、頭を掻く。
夕べ風呂に入っていなかった所為で、少し頭が痒い。目覚ましも兼ねて暑い
シャワーを浴びよう。少し冷えていたので、パジャマ代わりに使っているシャ
ツの上から(パジャマを着ていないだけとも言う)赤いどてらを着込んで風呂場
へと向かう。年頃の女の子として、いろいろな部分で台無しだが、気にするよ
うなしのむではなかった。そもそも、気付いていないだけかもしれないが。
しのむ :「おはよ〜」
一階では既に母と弟が朝食を食べていた。父はまだ寝ている。日曜の朝はい
つも「休日ぐらいゆっくりさせてくれよ」と呟きながら一時近くまで寝ている
のだ。時計を見る。十一時三十分。あと一時間半くらいは起きてこないだろう。
しのむ :「あれ、あぐり。何食べてるの?」
視界の端に、首を竦めてカップのアイスを必死で口に掻きこむ弟を見て留め
る。朝っぱらからアイス。なんて贅沢な。まだ寝ぼけている頭でぼんやりと考
える。ハーゲンダッツだ。カスタードプティング。下の上で甘くとろけるカル
メラソース……
しのむ :「ああっ! それ、私のアイスじゃないか!!」
あぐり :「わあっ、ばれたっ!?」
気がついたときには、もうカップのアイスは三分の一以下にまで減っていた。
あぐりは慌てる余りに咽そうになりながらも、その残った塊もぱくりと口に放
り込む。将に取り返さんと伸ばされたしのむの腕はしかし一瞬だけ遅く、虚し
く空を切るのみに留まった。
しのむ :「あ、あああ、あああああ……」
あぐり :「姉ちゃんが悪いんだよ。ハーゲンダッツを買ったまま三
:日もほったらかしにしとくなんて、誰だって忘れたもんだ
:と思うでしょ。これに懲りたら買ったアイスはすぐに……
:たぶりゅっ!」
最後まで言い終わるより早く、しのむの掌底があぐりの顎を叩き上げる。わ
ざとらしいまでに音高い震脚の音が響き、あぐりの身体は軽く回転しながら容
赦なく宙を舞った。
北斗の拳の悪役みたいなうめき声を吐きながら、それはもう高く舞った。
ここに至って、ようやく今まで傍観に徹していた母が口を開く。
母 :「しのむ、そのうち床が抜けるから外でやりなさい」
しのむ :「は〜い」
あぐり :「いや、お母さん止めようよ」
母 :「だって、自業自得じゃない? それ」
しのむ :「ねぇ?」
母の了承も得て、改めてあぐりの首根っこを引っつかむ。生命の危機を感じ
たあぐりは、慌てて悲鳴を上げた。
あぐり :「ちょっ、ちょっと待った! それ以上やったらもうマジ
:に死ぬから!」
しのむ :「アイスの恨みは命より重し」
あぐり :「ごめんなさい、私が悪かったです。後で買ってきときま
:すから。お姉さん」
しのむ :「え〜、でも悪い子には罰を与えないと」
あぐり :「二つ買ってきときますから!」
しのむ :「……うん、反省したみたいだね」
ここでようやく、悪を憎むしのむの魂が現実と妥協した。別に追加のハーゲ
ンダッツに眼がくらんだわけじゃない。
しのむ :「あっ、片方はチョコチップでね」
あぐり :「…………」
ないったらないのである。
あぐり :「ところで、姉ちゃん。こんな時間に何やってんの」
しのむ :「何って、朝起きたとこだけど。今日日曜だよね?」
あぐり :「日曜だけど、なんか昨日約束があるって言ってなかったっ
:け?」
しのむ :「あああぁっ!! 今何時っ!?」
あぐり :「ええと、十二時前」
しのむ :「十二時に駅前で待ち合わせなのに、お母さん。お父さん
:車出してくれないかな」
あぐり :「姉ちゃん、彼氏との待ち合わせに父の車で乗りつけるの?」
しのむ :「莫迦っ。彼氏とかそんなんじゃないって!」
母 :「頼めば出してくれるかも知れないけど……お父さん起こ
:すより走った方が速いんじゃない?」
しのむ :「言えてる……あ〜、もう朝ごはん食べてる時間無い。言っ
:てきますっ」
母 :「あっ」
即断即決。言うが早いかしのむは家を飛び出した。
母 :「行っちゃった……」
あぐり :「あの格好のまんま……」
顔を真っ赤にしてしのむが戻ってきたのはそれから五分後の話である。
結局シャワーは浴びれなかった。
Part S' 交差点
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正午を回ったと言うのに、外は薄い霧に包まれていた。一寸先も見えないと
いう程でもなく、ただ辺りが薄ぼんやりと白い。霧というより靄と言う方がしっ
くりとくる。
しのむ :「あ〜、もう十二時過ぎてる……間に合わないかも」
かもではない。時間が不可逆である限り間に合わないのである。
しかし、どうせ間に合わないのだと諦めてしまえるしのむではなかった。時
間の壁をも越えんという勢いで全力疾走を続ける。その姿はまさに、カールル
イスの様であったと、ぶつかりそうになった近所のおばさんが後に語っていた
とかいないとかいうくらいである。
丁度角を曲がった所で、大通りへ出る交差点の信号が赤に変わった。
しのむ :「ああ、もうっ。何で信号も赤かな!」
そんなもん偶然である。信号は常に二分の一の確立で赤なのだ。
車は、休日の昼間にしては奇妙なほどに途絶えている。しのむが躊躇したの
はほんの二、三秒だった。一刻を争う事態である。そのまま渡ってしまおうと
左右を見渡す。右良し、左良し、前良し。目指すはアスファルトの大河を隔て
た向こう岸。位置について、用意どんと、走り出した所だった。
声 :「あぶないっ!!」
とても宜しくないタイミングで横手から有難くない声が掛かる。
しのむ :「へ?」
丁度前ばかりに集中していたしのむの意識がふと横にそれる。油断した。百
戦錬磨の冒険者、ご近所で火の玉少女の異名を轟かせるしのむにあるまじきこ
とに、そのまま足を妙な方向に捻って盛大にすっころぶ。とっさに受け身を取っ
たので頭こそ打たなかったものの、衝撃に一瞬息がつまる。
声 :「あははは、危なかったねぇ」
不自然なほどに晴れ晴れとしたとした口調で近寄ってきたのは知った顔だっ
た。一本角に虹色の髪の毛というみょうちきりんな変人だ。名前は知らない。
しのむ :「突然危ないなんて叫んだら危ないだろ!」
ユニ :「危ないからには危ないって叫ばないと危ないじゃないか。
:危なくなくっても危ないって叫んだら危ないでしょ。つま
:り、危ないことを危なげなく危ないと言うことこそ、危な
:くないように危なくすることが危ないんだと思うんだけど、
:そう言う風に考えることこそ危ないのかな。ところで危な
:い刑事ってたいへんだよね、なんせ危ないし」
しのむ :「え……」
訳が分からなくなって一瞬思考停止状態に陥る。五秒ほどして、なんら意味
の無い言葉であったことに気付き、気を取り直して立ち上がる。
しのむ :「とにかく、いま急いでるんだから、君の相手してる暇な
:んて無いんだからね」
もう一度左右に車が無いことを確認すると、そのまま渡ってしまう。足首が
少し痛んだが、気になる程でもない。
背後から、やれやれといったふうな溜息が聞こえた。
ユニ :「別に良いけど、ここが交差点だからね」
しのむ :「は? 何を言って……」
ふと、正面から来た何かが隣を横切った。
しのむ :「……え?」
視界の隅に引っかかったそれ。赤みを帯びた茶色い髪。違和感を覚えて振り
向くが、既にもう何処にもいない。
しのむ :「ねぇ、今のは……」
問い質そうとして気付く。一角の変人もまた、姿を消していた。
しのむ :「え、と……」
しばし、ぼんやりとその場に立ち尽くす。
SE :「ピピっ、ピピっ」
しのむ :「えっ!?」
突然鳴り出した時計のアラームに我に帰る。昼休み前、居眠りをしてしまっ
ても目が覚めるようにセットしたアラーム。時間は十二時十五分。
しのむ :「ああっ! もう十五分もオーバーしてるっ!!」
再び走り出した時、既にしのむの頭にその時覚えた違和感は残っていなかっ
た。
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