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Date: Fri, 02 Jan 2004 19:32:25 +0900
From: 小野哲也 <metral@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 27098] Re: [HA06P]エピソード『哲也退魔行(仮)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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あけましておめでとうございます。
眼鏡担当のOTEです。
今年がより良い年になりますよう、回線のこちら側より、お祈り申し上げます。
さて、エピソードの名が付いてるし頑張ってみます。珍しく、哲也が頑張って
ますしw
他の方の突っ込みもお待ちしております。
#HA06 2003/12/30のログ。
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エピソード『哲也退魔行(仮)』
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登場人物
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長生哲也 :どこか憎めないところのある術者。
:http://kataribe.com/HA/06/C/0143/
女(?) :赤子を喰らう妖物らしい。
倉庫での一幕
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大晦日も近い、風の強い日。
雪でも降り出しそうな空に、電線だけが、悲しげに泣いている。
既に日が暮れ、外は闇夜。
そんな身も心も冷え込みそうな夜に、吹利に住む術士の一人、長生哲也と一
人の若い女性が、かび臭い倉庫の中に対峙している。
倉庫の中は、外気より冷え込むほどで、非常灯のみの明かりは両者の表情を
読み取ることも難しい。
哲也 :「うーっくぅ。しくったな」
日頃、明るいというよりは得体の知れない笑顔を貼り付けている丸顔に、脂
汗が流れていた。上半身には手編みの真っ赤なセーター。両手には何か包みを
抱えており、下は安物のジーパン。
両太ももには、黒い染みが生まれていた。それが血とするならば、結構な出血
量となる。
普段、軽口ばかり叩く唇が、苦痛に歪んでいる。
女(?) :「退魔師かと思ったら治癒術者かい?
:下手なちょっかい出さなきゃ生き残れたものを」
若い女性、と見えた女が口を開いた。周囲に生臭い匂いが立ち込める。青魚
の匂いを凝縮させたような、むっとくる青臭さ。顔がなまじ整っているだけに
その凄惨さが増す。まるで、仏道に帰依する前の鬼子母神のような。その憎憎
しげに歪んだ表情だけで更に気温が下がるような気さえする。
術者ならば誰でも知る鬼気。哲也もそれを体中に感じ、表情が
哲也は、手の中にある物を守る様に両の腕の力を込めた。
哲也 :「そういうわけにもいかなかったんだよ。
:あんたの食料が気に入らなくてね。罪の無い赤子が殺され
:るのを、うかうか見過ごせないわけだ。裏の住人としては」
かろうじて、唇の端を吊り上げ、笑顔らしきものを作る。そして、腕に抱え
た物を、哲也は女に示した。
腕には、生後三ヶ月くらいの赤子が眠っていた。顔には何故か引っかき傷や
血痕がある。しかし、今は鬼気にも怯えず、深い眠りについている。周囲には、
ベビーパウダーの代わりにカレー粉の匂い。哲也が何か術をかけたのか?
哲也は、退魔を生業にするものではない。
普段はただのカレー屋台のオヤジだ。
裏の顔で使う術とて、治癒術が主で、術士仲間も哲也が退魔を行うのを見た
者は無い。体も、お世辞にも体力系と言えない。かつては空手で鳴らしたと本
人は言うが、今の哲也はどう見ても走るより転がる方が早そうな肥満体型だ。
そんな哲也に、気温が下がるほどの鬼気を孕んだ女がひるむはずも無い。
格好を付けた言動に、ピエロの滑稽さを見出すだけ。
緊張
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女(?) :「嘘つくなよ。最初はナンパしようとしたくせによ」
哲也 :「うう。それはそれとして」
女(?) :「にやけた面で『初恋の人に似てる』とか言ってたじゃねぇ
:か。キショイんだよ。デブ!」
哲也 :「たまには私の眼鏡センサーも
:役に立つってことで一つ」
哲也の精一杯の虚勢が、女の身も蓋も無い一言で崩される。
この男、新婚にも関わらず、どーにも女性にだらしが無く、街中で好みの女
性を見かけると、つい声をかけてしまうのだ。特に眼鏡をかけた知的な女性が
好みらしいのだが、そのナンパが成功したという話はついぞ聞かない。
困り顔の哲也に、女はじりじりと近づく。警戒しているのではない、恐怖を
与えるためだ。足を殺し、術を使うための両腕に赤子がいるのでは、万が一に
も自分がやられる可能性は無いと踏んでの行動だ。
女(?) :「こんなせまっ苦しい倉庫に誘い出して、
:どうにかなると思った? 馬鹿ジャン?」
女(?) :「敢えて乗ってやったけどさぁ」
女が更に口を開いた。哲也の顔色が変わる。ようやく貼り付けていた笑顔も、
非常灯の明かりの下に掻き消えた。代わりに女が笑みを広げた。口角が、有り
得ない程に広がる。口の中には鋭い牙。普通の食事を取るためではない。普通
の食事を取るためなら、あれほどの長さは必要ではない。血をすするためでも
ない。それは、ただ、肉体を破壊し、餌の魂を貪るために形作られた牙。
目が釣りあがり、歌舞伎の隈取を施したように変化した。白目は青白く底光
りする。希望を刈り取り、魂を収穫する為の形に女は変化(へんげ)した。
ついている夜だった。
赤子と並んで術者の魂も手に入るとは。女は、赤く沸騰していく精神の中で
考えていた。赤子は美味だし栄養もあるが、インスタントに力を手に入れるこ
とが出来ない。術者の魂は癖があるが、力が手に入る。この男はあまり利口で
は無さそうだが、幾らかの足しにはなる。後を上手く始末できれば今回の現世
は長いものになる。
女は、既に哲也を始末したものとして考えていた。この現場を如何に片付け、
他の術者に見つからず人間の中に隠れ潜むか。そのことだけを考えていた。
だから、哲也がもう一度笑みを浮かべ片手を空けるのを見ても、その笑みが
崩れることは無かった。
この男には打つ手は無いのだから。
契機
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女の侮辱的な笑みを見ても、哲也の笑みは崩れなかった。むしろ、いつもの
開放的な笑顔が蘇ってきている。大きな丸顔に似合う夏の太陽のような笑顔だ。
哲也 :「うん。おかげで助かった」
哲也は左手を前に差し出した。左手は、術者の手。指は剣指。人差し指と中
指を揃え、掌を女の方に向ける。術を使うつもりなのか。しかし、自分の傷を
癒すならまだしも、女に向けて何をするつもりなのか。
哲也 :「あんたにゃ私の術式をまだ教えてなかったな」
凛とした表情で言葉を紡ぐ。
哲也 :「私はカレー魔術師。全てのスパイスと治癒を操るもの」
術士に取って名乗りは一種の呪術となりうる。誓言(せいげん)と呼ばれる
この呪術は、強い意志力を伴い名乗る事で、自らの術士としての能力を最大限
に引き出す。
哲也は、誓言を行い、全ての意志力を使う気なのだ。もし、この場に他の術
者がいたならば、哲也のオーラにこびりついた藤壺のようなカスが、誓言の言
葉と共に消え去るのを見ただろう。
哲也の意思は、今は術を使うためだけに純化されたマシンと化した。
しかし、哲也の体は、ずるずると崩れ落ちた。先鋭化する意識とは裏腹に、
物理的に足りない血液が、体を動かすことを拒絶する。
女(?) :「はぁ?ここは薬屋だぞ?」
思いもかけない哲也のアクションに戸惑いながらも、女が切り返す。術者と
の戦いは、はったりの掛け合いのようなものだ。一瞬でもくじけてはならない。
相手に引き込まれれば一瞬にしてやられる。
哲也 :「正確に言うと。漢方薬局だ」
床に崩れ落ちながらも、哲也の剣指は女の方を向いたままだった。そして、
張り付いた笑みも。哲也は女の反応に勝利を確信したかのような表情を見せる。
女は不吉なものを感じた。罠の匂い。虎バサミが自らを捕らえようとしてい
るような、鉄錆のような不吉の匂い。
逆転
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女(?) :「どっちにしてもカレーはねぇよ。死ねっ!!」
先手必勝とばかり、女が仕掛けた。いかなる罠も発動する前に潰してしまえ
ば、なんと言うことはない。女の紅いヒールのつま先がずるりとゴムホースが
床をこするような音を立て、伸びる。物理法則を無視したつま先は、蛇のよう
に鎌首を上げ哲也に襲い掛かる。
しかし、誓言を行い術のためのマシーンと化した哲也には、十分に反応する
余裕があった。剣指の体勢のまま、額の中心と剣指の先、そして女を一線に結
ぶ。
哲也 :「カレー魔術術式『そのあるべきところ、
:あるべきものにあるべし』オーム!!」
三点がオレンジ色の光で結ばれたと見える。正に同じ瞬間、哲也の術が発動
した。周囲に並べてあった漢方薬の袋が、くしゃりとつぶれる。その中身は、
瞬間に女の頭上に現れ、降り注ぐ。
同時に伸びた女のつま先は、まるで初めから無かったかのように消え去り、
哲也を傷つけることは無かった。
女の顔は哄笑から驚愕に変化した。自らの攻撃は無効化され、自らの意識が
縮小して行くのを感じたからだ。
この男は、治癒術者ではなかったのか?何故、このような攻撃を行えた?
哲也 :「あんた、知らないようだから教えとくけどな。
:医食同源ってのは印度にもあるんだよ。
:つまり漢方もズパイスの一つってわけさ」
カレー魔術。この世界の全ての事象をカレーに例え、スパイスと物質の調和
で、この世の全てを操り、治癒させることができると考える術体系だ。
その治癒対象は、広範囲に渡り、肉体の治癒から瘴気で歪んだ空間の治癒に
まで及ぶ。自然ならざるモノ全てを治癒するのがカレー魔術。
ならば、女の変化した足先も、その鬼気も、哲也にすれば治癒の対象となり
うるものなのだ。
自然が生み出したアヤカシでなく、歪んだ心が生み出した鬼気ならば尚の事。
女(?) :「ぐぎえ」
女は、そのまま奇妙な声を上げて倒れ伏した。
哲也に意表を突かれ、隙を見せた女には、術を捌く余力が無く、ほとんど無
抵抗のようにさえ見えた。
倒れ伏した女は、鬼気を払われ、まさに憑き物が落ちた表情となっている。
優しい表情になり、心なしか微笑みさえ浮かべているように見える。
哲也 :「ふう。治ったかな?急患いっちょ上がりっと?と?」
剣指を解き、赤子を抱え哲也は立ち上がろうとした。先ほどまでの術のため
のマシンと化した硬い表情が抜け、いつものひょうきんな顔に立ち戻る。
だが、失われた血液と傷ついた体は正直で。なかなか立ち上がることができ
ない。しかし、数度のチャレンジの末、哲也は立ち上がり、鬼気の抜けた女の
元へよろよろと歩み寄った。
哲也 :「この時期は、結構増えるよな。憑き物。
:さて、坊主のママが帰ってきたよぉ」
言うと、哲也は苦痛をこらえながらも、女の両腕に赤子を抱かせた。良く見
れば、二人の顔はどこか似通っているようでもある。
哲也 :「これで虐待が一件減るといいんだけどな……」
呟きながら、もう一度術式の準備を行う。
先ほど無理やりに誓言で力を使ったために、霊的な器官の全てが悲鳴を上げ
ている。重いものを無理やり持ち上げると、体が痛むようなものだ。
剣指を結んだ指の先、霊力を集中した額、その他の全てのチャクラが、熱を
持ったような痛みを訴えてくる。しかし、哲也は棚から幾つかの漢方薬を選び
取り出し、親子の周りに設置した。簡易的な曼荼羅を準備すると、哲也はその
内側に入り。両手で印を結んだ。
哲也 :「さて、後始末だ。カレー魔術術式『強式テレポート』」
SE :ばふん
いささか間の抜けた音と共に、曼荼羅も親子も哲也も掻き消えた。
曼荼羅の在った辺りには、スパイスの香りのする煙が立ちこめ、カレーの匂
いが立ち込めた。しかし、もはや非常灯の明かりを必要とする者はいなかった。
終幕
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[fukaNote] # そして、数時間後(夜明け)
倉庫では、朝一番に掃除をする店員が途方にくれていた。
薬局店員 :「なんでこんなにカレーのにおいがするの〜
:とれないわ〜これじゃ店開けられない
:じゃない〜」
様々な商品が粉末となり、床に何かの模様を描く様に散らばっている。
店員は慌てて大掃除の準備にかかった。ねずみなのか猫なのか分からないが、
こんなに散らかされてしまっては、自分も相当叱られる。なんだか、とても理
不尽な目に逢ってる気がしてきた店員は、ちょっと涙目になっていた。
時系列と舞台
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2003年、師走の吹利市内。どこかの倉庫。
解説
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小野哲也
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