[KATARIBE 27042] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ゆ 許された罪のかたち』

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Date: Sun, 14 Dec 2003 14:53:15 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 27042] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ゆ 許された罪のかたち』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年12月14日:14時53分14秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『ゆ 許された罪のかたち』:
From:月影れあな


 ういっす、月影れあなです。
 久しぶりにお題〜

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特別企画:いろはお題『ゆ 許された罪のかたち』
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ゆ 許された罪のかたち
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「はぁ〜、これは本格的に迷ったかなぁ」
 苔むした古い石垣に背をもたせ掛け、結夜は本日何度目かになる溜息を付く。
 見慣れぬ町並みの中を30分近くも彷徨い続けて出た結論がこれ一つと言うの
は、なんと言うか、あまりにも情けない気がする。
「っていうか、時速3kmで歩いてたとしてももう1.5kmは歩き詰めの筈なのだ
よなぁ。そろそろ見慣れた場所に出てもいいと思うのだけど……」
 きょろきょろと辺りを見回しても、見えるのはいまどき珍しい木造平屋の列
のみ。近道にと思って本町の、見慣れぬ路地に飛び込んだのがそもそもの間違
いだった。果たしてこの奥に何があるのだろうと言う純粋な好奇心も手伝って、
あの時にはその選択が最良のように思えたものだったが、それで迷ってしまっ
た今となっては愚かしい選択であったと言わざるを得ない。
「何度か同じミスしてるよね」
 口の中でぼそぼそと恨みがましい独り言を自分に対して呟きながら、立ち上
がって辺りの散策を再開する。意地を張らずに誰か人を捕まえて聞くべきか。
鋭敏な五感を使って人の気配を察知し、そちらに脚を向ける。
 少し歩いて見えてきたのはこんもりと盛り上る木々の塊だった。森、という
訳ではない。街中に木の塊があるとすれば、それは神社か公園だろう。公園に
しては、その木々はいささか無秩序が過ぎた。
「あっ、でも寺って可能性もあるのか」
 この際寺でも神社でも公園でも、人が居さえすればそれで良い。
 案の定、人はいた。いまどき珍しくイガグリ頭で、シャツと短パンを着こな
した活発そうなガキンチョ数名。道案内を頼むには何処と泣く不安が残るが、
この際贅沢は言っていられない。
「すいませ〜ん」
 返答を待つ、待つ、待つ。しかし、いくら待っても結夜の望むそれは帰って
こない。
「お〜い」
 再度呼びかけを試みるも、ガキンチョどもはまるで何も聞こえていないかの
ように、何の反応も返さずに遊び続けている。
「ちょっと、君ら」
 近寄って、肩を叩く。いや、叩こうとして、そのまま手がすり抜ける。
「あれ?」
 幽霊か? 疑ってみるが、どうもそのような気配は感じられない。唖然とし
て見ていると、ガキンチョどもは満足行くまで遊び終えたのか、それぞれの帰
路に着いていった。結夜は一人残される。
「よう」
 声を掛けられたのは全く不意打ちだった。いつの間にか賽銭箱に、煙管を咥
えた壮年の男性が一人。どっかりと腰を落ち着けてこちらを向いている。
 いつからそこに居たのか、結夜の、吸血鬼の人並外れた知覚力をもってして
も気付き得なかった。もしかすると、最初から居たのにただ気付かなかっただ
けなのかもしれない。そう思わせるほどごく自然に、男はそこに居た。
「見ない顔だな、外の人間か」
「外……」
「この街の外だ。時々いる。見えないはずの物を見て、聞こえないはずの音を
聞く、妙に勘の鋭い者が。君は物の怪の類か」
「えっ!?」
 いきなり言い当てられ、思わず結夜はうろたえる。男はその様子を見て小さ
く笑った。
「見れば分かる。私もこの稼業長いからな。もう大体80年にもなる」
 まじまじとその姿を観察する。顔に深い皺が幾本か刻まれているが、さして
多いという程でもない。髪はまだまだ黒く艶があり、腰もしゃんとして立って
いる。しかし、この稼業外見だけで年齢を測るのはなかなかに難しい。結夜の
知己の中にも、少年の姿のままで数千年を生きている人物が幾人か居た。
「聞いていいですか?」
「ん?」
「さっき、子供に道を聞こうとしたとき、向こうからこっちを全く認識できて
いなかったみたいなんですけど、どうしてでしょう。貴方は知ってるんですよ
ね?」
「ああ、まぁな」
「教えてくれませんか?」
 男は長く、細く、煙草の煙を吹き出す。
「そうだな……戦時中、吹利には空襲が無かった。そういう話を聞いたことが
あるか?」
「はい、京都奈良吹利は文化的な価値が高いから米軍も爆撃しなかったとか。
原爆投下の実験場としてとっておいたって話も聞いたことあります」
「実は、それは間違いなんだ。60年前、B29が一機だけ、ここの空を横切った。
何かの手違いか、それとも呪的な意味があっての事か、数発焼夷弾を落として
な。今まで空襲が一度も無かったから隣組の奴らも皆油断していて、避難もゆ
っくりしたもんだったから、たちまちここらは焼けた人々で阿鼻叫喚の巷だ。
 私にはこの社を、下に眠る物への封印を守る義務があった。しかし、火勢は
強く、どうする事も出来ない。だから、決断を一つ下した。この社を丸ごと時
間から切り離してしまえば、封印が崩れる事は無い……」
 男が言葉を切ると、沈黙が辺りに漂う。結夜は続きを促す事無く、男の顔を
見る。泣いている時の様に目を覆いながら、自嘲気に口の端を上げていた。
「そのとき、私はそれだけを行うべきだった。しかし、私の周りには逃げ惑う
人々が居た。それを捨て置く事など、私には出来なかった。果たして、儀式は
上手くいった。社の封印が完全に崩れる前に、この街と時間との繋がりを断ち、
封印は守られた。街ごとな……」
 そこで男は懐から一個の懐中時計を取り出す。その盤面を見ると、陰鬱な溜
息を漏らした。
「そろそろ時間か」
「え?」
 結夜が何か尋ねる暇も無く、爆音が辺りに轟いた。慌てて見ると、赤い炎が
轟々と舞い、時間から取り残された街を容赦なく蹂躙している。唖然とその情
景を見つめる結夜に、男は淡々と語った。
「時間との繋がりを断たれた街は、60年前のあの日から、終わりの時をずっと
繰り返している。毎夕、街の人々は炎の中で最期の時を迎える。生きたまま焼
かれて、それでも終わりは来ない。60年間、ずっと繰り返している」
 赤子の泣き声が聞こえた。親しい者の名を呼ぶ必死の悲鳴も聞こえた。炎に
撒かれる老人、瓦礫の下となって上げる苦痛の声。それらが辺りから聞こえ、
途切れる。凄惨な光景。
「それでも私は、この光景を見つめ続けなければならない。封印された物を解
き放つわけにはいかない。いつか気が狂って、自らでこの封印を壊すその時ま
で、それが私の、この地獄を作り出した私への、罰だ」
「あなたは……」
 言葉を詰まらせる。慰めか、罵倒か、何かを言いたいのに言葉が出てこない。
何を言っても、その心に届く気がしない。その様子を見て、男は軽く笑う。
「つまらない話を聞かせてしまったな。出口は向こうだ。それで元居た場所に
戻れる」
 そう言って男は先の見えなくなった暗い道を指差す。しかし、結夜は躊躇し
て、動こうとしない。
「早く行かないと戻れなくなるぞ。火がここいらまで回ってきた」
「……はい」
 仕方なく、無力感に後ろ髪を引かれながら、結夜は出口に向かって歩き出す。
「祈ってくれ、少年。ただ、祈ってくれ。いつかあの炎の中から、人々が救わ
れる事を。私が救われる事を」
 咽ぶような押し殺した声が、最後に聞こえた。はっと振り返ると、既にあの
町の炎は消えていた。そこにあるのは、ただの薄暗い路地の風景。
 しゃーと自転車の駆け抜ける音が聞こえた。見覚えのある本町の商店街だ。
日はほとんど落ちてしまって、とうに夕刻を過ぎている。
 溜息を一つつく。
「もう、今日は水島行ってのんびりするかな。それとも、いっそ帰って寝てし
まうか」
 どちらとも決めかねて、ぼんやりしながら結夜は、たまたま目に入った本屋
の方に足を向けた。


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# どうも、題材を上手く調理できなかったような感じになってしまった。反省
# 本町から繋がっているってのは少し無理があったかもしれない。もうちと中
# 央から離すべきだったかな



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         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
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