[KATARIBE 26960] [HA06N] 小説:『新入生は変わり者』

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Date: Tue, 25 Nov 2003 21:16:09 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26960] [HA06N] 小説:『新入生は変わり者』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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MOTOIです。
マイキャラの裕雄と学の出会いです。

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小説『新入生は変わり者』
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登場人物
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 西久保裕雄(にしくぼ・ひろお)
  :霊感の強い少年。「気」を武器に戦う術を持っている。
 十川学(そがわ・まなぶ)
  :外見は普通の少年。実は小4のとき妖怪化させられている。


孤立
----
「では、これで、最初のホームルームを終わります。解散!」

 ざわざわ……
 
 入学初日の日程をすべて終えた生徒達が一斉に騒ぎ出す。

 ここ、国立吹利学校中等部では、今年も入学式が行われ、新たなクラスがス
タートした。だが、新たなクラスと入っても、さすがは小中高一貫の学校とい
うべきか、周りの生徒は小学校からの友人というものがほとんどである。

「今日は、うちで遊ぼうか」
「○○の家にでも行こうぜ」

 そんな会話があちこちで聞かれるが、中にはその輪に入れない生徒もいるわ
けで……

「皆さん、仲が良いようで、羨ましいものです」

 この少年、西久保裕雄の出身地は千葉県である。自らの意思で吹利に引っ越
して来たとはいえ、やはり周りに知った顔がまったく居ないのは精神的に堪え
るようだ。

「……おや?」

 孤立しているのは自分だけかと思っていたが、ふと教室の一角を見ると、自
分と同じように孤立している生徒がいる。彼も吹利県外の出身だろうか?
 ちょっと考えてから、思い切って声をかける裕雄。

「もしもし」
「……ん?」
「あなたは、一緒に帰る友人がおられないのですか?」
「ああ、あいにく、小学校はこっちじゃないからね」
「実は僕もなんです。どうでしょう、よろしければ途中まで一緒に帰りません
か?」
「……うん、よろこんで」


帰り道
------
「なるほど、山梨のご出身ですか」
「裕雄君は千葉かぁ……」

 聞くと、彼の名前は十川学といい、山梨の農村で育ったらしい。父親の仕事
の都合で、中学から吹利に来たのだとか。

「こういう街中には滅多に出なかったから、ドキドキしてるよ」
「では、今は市内でお過ごしですか」
「裕雄君はどこに住んでるの?」
「霞郡壱村です」
「かすみ郡? ずいぶん遠いじゃない」
「電車とバスを利用して通っております。祖父の別荘を借りて住んでいるもの
で」
「へぇ、大変なんだねぇ」

 と話しているうちに、近鉄吹利の駅に到着した。ここから、裕雄は霞山方面、
学は吹利新本町方面の電車に乗ることになる。

「それじゃ、また明日ね」
「これからも宜しくお願いします」

 そして、二人は別々の電車に乗り、家路に着いた。


異変
----
 それから2週間ほど過ぎたとある休日。
 兄が所属する野球部の試合を観戦した裕雄は、買い物をするため、一度兄と
別れて、吹利新本町にある大型量販店へ向かった。兄は友人の家に宿泊すると
のことだったので、食料品以外にも、日用品、電化製品、書籍………といった
様々な商品を見て回った。

「当店はまもなく閉店でございます。お買い忘れの無いよう……」

 閉店のアナウンス。時計を見ると、既に8時半を回っている。

「おっと、買い物が長くなりすぎてしまったようですね」

 店を出て、小さな公園に差し掛かったときだった。

「あれは……悪霊?」

 見ると、幽霊らしき青白い光が、遊具の近くを漂っている。おそらく、遊具
に隠れている子供に悪戯を仕掛けようというのだろう。

「どうやら殺生をするほどの力はないようですが……放っても置けませんね」

 そう言って、裕雄は幽霊に近付いていく。

「もしもし。ここで何をしているのですか」
「ジャマヲスルナ。ココハワタシノナワバリダ。アラスモノハユルサナイ、デ
テイケ!」
「ここは子供の遊び場、公共の場所です。訪れる人を無差別に襲うのは感心できませんね」
「ウルサイ!」

 襲い掛かってくる幽霊。そこに、裕雄の発した「気」が直撃した。

「ガッ!?」
「思い切り手加減しました。次は本気で行きましょうか? 成仏も出来ず、消
滅することになりますよ?」
「ヤ、ヤメテクレ、タスケテクレ」
「ならば、成仏しろとは言いませんから、人を驚かせたり追い出したりするの
はやめていただきたいのですが」
「ワ、ワカッタ、モウシナイヨ」

 そう言うと、幽霊は姿を消した。弱い幽霊は、脅しつけてしまえば大抵はそ
のままおとなしくなる。
 幽霊を追い払った裕雄は、遊具のほうを見た。人間の手が見える。幽霊を見
て気を失ったのか、倒れているようだ。

「もしもし、幽霊はいなくなりましたよ、早く家……へ……」

 遊具の中を覗いた裕雄は言葉を失った。その体には首がついていなかったの
である。

「ま、まさか、い、今の幽霊に人を殺すような力があるわけが……」

 酷く狼狽する裕雄。このまま逃げ出すか、警察に届けるかと考えているうち、
一つおかしなことに気付いた。

「……血が……出ていない?」

 その首無しの体からは、まったく血が出ていなかった。よくみてみると、地
面にも血痕らしきものはまったく見られない。とすると、考えられるのは。

「……彼も、幽霊、若しくは妖怪ですか」

 そう思った裕雄は、とりあえずその体の脈をみてみようとした。幽霊ならば
脈はない、妖怪ならば脈があることが多い。と、その時。

「後ろ、後ろ!」
「えっ?」

 声につられて後ろを見ると、先ほどの幽霊が、不意をついて、まさに裕雄を
襲おうとしているところだった。咄嗟に「気」をぶつける裕雄。

「ウグッ!」

 幽霊は、今度こそかなわないと察したか、すごすごと逃げていく。

「あ、危なかった……しかし、今の声は? どこかで聞いたような気もします
が……」


正体判明
--------
 声のした方を向き、「霊視」を試みると、木の陰になにかの気配を見つける
ことができた。

「僕を助けてくれたのは、あなたですね。姿を見せていただけませんか」

 しかし、返答はない。そこに「何か」が居るのは間違いないのに。

「あなたの声、僕には聞き覚えがあります。もしや、名乗りにくい理由がおあ
りでしょうか」

 それから少しして、ようやく声が返ってきた。

「今日のことは、絶対に、他の人には内緒にするって約束してくれる?」
「ええ、神に誓います」
「……わかったよ」

 すると、木の葉の影から、「何か」が姿を現した。どうやら、人間の生首の
ようだった。その影が近付くにつれ、その姿をはっきりと認めることが出来た。

「……君は……十川君」

 間違いない。同級生の十川学だ。

「裕雄君……ボクのこと、不気味だって思ってるでしょ?」

 しかし、裕雄は、笑顔で首を横に振る。

「十川君からは、不気味な『気』など微塵も感じません」
「……『気』」?
「悪しき者からは悪しき『気』が必ず発します。十川君の『気』には、不気味
さも悪さも感じられません」
「裕雄君……」
「さあ……この体はあなたのものでしょう? 早くお戻りになってください」
「……うん」

 言われたとおりに体に戻る学。その後、このような事態となった経過を教え
てくれた。

 とある路地で幽霊に遭遇した学は、この公園に逃げ込んだ。そして、体は遊
具に、首は木の葉の影に隠れた。幽霊に殺生の力がないことは学も承知だった
ので、体に首がついていなければ、幽霊も逆に驚いて逃げ出すのではないか、
と考えたらしい。

「で、幽霊が体を見つける前に、僕がここを通りかかってしまったと」
「うん……この時間、ここはほとんど人が通らないから……ところで、裕雄君」
「はい、何でしょう」
「今の幽霊を倒した技……どうやったの?」
「『気』を使ったのですよ……ほら、このように」

 と言って、光る『気』の塊を掌の上に見せる。

「……へえ、すごいね」
「ですが、このことは、ご内密に願います」
「うん、ボクのことと一緒に、二人だけの秘密だね」

「それじゃ、また学校で」
「はい、おやすみなさい」

 それぞれの家路に着く二人。夜は普段と変わりなく更けていった。


時系列と舞台
------------
 2003年4月。入学式後〜2週間後の休日。


解説
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 裕雄と学の出会い。

$$
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実は裕雄と学は互いの異能を知り合う仲だったんですね。
キャラシーの交友関係も1→2に直しておこう……(ぉぃ

motoi@mue.biglobe.ne.jp
Motofumi Okoshi
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