[KATARIBE 26935] [HA06N] 『霞の原で』

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Date: Thu, 13 Nov 2003 21:45:57 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26935] [HA06N] 『霞の原で』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年11月13日:21時45分57秒
Sub:[HA06N] 『霞の原で』:
From:ごんべ


 ごんべです。

 珊瑚と陽、苗字を決めました。


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小説『霞の原で』
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本編
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 あり得ない風景を見た。

 私は川原に立っていた。
 早朝のまだほの暗い時間、川原は霧に覆われて、少し先に何があるかすら
見えなかった。
 白と灰色の世界は見渡すばかりどこまでも続いていて。
 さく、と枯れかけた草を踏んで歩き出す。踏まれた草は湿っていて、足を
上げると重たげにその身を起こす。

「陽?」

 呼んでみた声に、返事はない。まだ寝ているのかも知れない。
 私は、陽が身を横たえているはずの橋の方へと足を向けた。

 ……橋は、いつまで経ってもその姿を見せなかった。
 周囲に目を凝らし、耳を澄ます。
 時折聞こえるはずの流れの音すら聞こえない。私は川の方へと踵を返した。

 どこまでも続く、白と灰色の世界。
 川面はいつまで経っても現れない。後ろを振り向いても、堤防の影もない。
 赤外線映像には霧の中でも姿が映るはずなのに。

 いつの間にか足元は膝丈の枯れ草で覆われ、がさがさと足に障る。痛い。
 白い霧は視界を覆い、流れながら重く肌を圧迫する。払いのけようとしても、
今度はあたかも霞のように手応え無く腕を通り抜けていく。

 この霞の中をいつまで歩けば、私は、どこへ行けるのだろうか。
 私には、何ができるというのだろうか。
 ……私は、歩き続けられるのだろうか。

 どこまでも続く、いつまでも終わらない、白と灰色に覆われた霞の原で。
 私はただ立ち続けるしかなかった。



「……さんご?」



「……陽」
「気がついたか、珊瑚」

 陽が私の顔をのぞき込んでいる。目の前には、橋の底面が迫っている。
 寝ていたのは、私だったのか。

「一体何があった」
「……一面に枯れ草が茂る川原で、」
「うん」
「……何もなかった」
「……なんだ? それ」
「きっと、ノイズね。……気にしないでおくわ」

 ここしばらく、いろいろなことを考え、演算を試していた。満足な解に結び
つかないことが、多々あった。私たちにできることは限られ、目標はだんだん
と高く遠ざかっていた、それを思い知らされる結果ばかりだった。
 そんな時、一段と冷え込んだ数日前の朝に、川原は一面に霧に覆われた。
それはとても印象的な景色だった。世界を覆い包んで幻と化してしまうような。

 その記憶が、演算で乱れたメモリの隙間で再生されたのだろう。私は、そう
思うことにした。


 ***


「……決めたわ」
「ん?」
「かすみはら」
「……何だって?」

 愛菜美の父である士郎に、私たちが属するはずの家族の名前、つまり苗字を
決めろと言われていた。あまり必要とも思わなかったが、決めた方が、士郎を
煩わせないで済むのだろう。
 愛菜美と一緒にフィクションの登場人物の名前を付ける振りをしてチャット
で話をしたとき、見も知らぬ人が、住んでいる場所の名前を付けてはどうかと
言ってくれた。

「霞原、よ」
「ふーん?」
「私たちがいたあの川、かすみ川って言うんですって」
「へえ」
「川原とか考えていたけど、あまりにそのままだから。公園、じゃ名前にも
ならないしね」
「あははは」

 今はもう、私たち二人は川原にはいない。愛菜美と会い、士郎が受け容れて
くれたおかげで、私たちは「人間として暮らせる」場所を手に入れることがで
きた。もう、訝しげな目で見られることも、センサーを研ぎ澄ませて休むこと
も、人との対話の機会を避けることも、些細な事物が手に入れられなくて苦労
することも、無い。ゆっくりと腰を据え、目標に専念できるのだ。

 でも、だからこそ私は、この名前とともに生きていく。
 霞原。

 あのどこまでも続く霞の原で覚えた絶望を、決して忘れないために。



終


登場人物
--------

霞原珊瑚(かすみはら・さんご):
    怜悧な美少女の姿をしたアンドロイド「学天則3号」。
    創り主を捜して出奔し、榎家に身を寄せる。
霞原陽(かすみはら・よう):
    中学生くらいの悪ガキの姿をしたアンドロイド「学天則4号」。
    戦闘担当で、いわば珊瑚のボディガードでもある。


時系列
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2003年の10月末から11月上旬にかけて。


解説
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 珊瑚と陽は榎愛菜美の父の士郎から、自然に人間として暮らすために、
苗字を決めるようアドバイスを受ける。
 頭をひねる珊瑚の脳裏に浮かび上がった、ある風景とは。


$$

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 ……何か突っ走っちゃっててとりとめもない内容な気がするけど、大目に
見てやってください。m(_ _;)m
 苗字の方は、実は実在する苗字であり地名でもあります。

 ではでは。

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ごんべ
gombe@gombe.org



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