[KATARIBE 26793] [HA06N] 特別企画:いろはお題『し 指名手配の裏側に』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 26 Sep 2003 21:16:58 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26793] [HA06N] 特別企画:いろはお題『し 指名手配の裏側に』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200309261216.VAA98464@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 26793

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/26700/26793.html

2003年09月26日:21時16分58秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『し 指名手配の裏側に』:
From:月影れあな


 ちわ、月影れあなです。
 いろはお題新作。上手い事捻りでなくて、順番飛ばしてしまう、がくっ

**********************************************************************
特別企画:いろはお題『し 指名手配の裏側に』
============================================


し 指名手配の裏側に
--------------------
 江藤久美子、28歳。職業、ごく普通のオフィスレディ。各方面に約七百万円
の借金有り。調べによると、恋人のために複数のサラ金から金を借り、それが
膨れ上がった末のこの金額らしい。なお、この恋人は婚約までしていたが式の
一週間前に突然失踪。警察の捜査では指名手配中の結婚詐欺師である事が分かっ
ている。八月末に林の中で首を吊って死亡しているのが発見される。莫大な借
金と、裏切られた絶望とが原因かと思われる。
「まぁ可哀想な経歴ではあるけどさぁ」
 林の中を歩きながら、六兎結夜は資料から顔を上げてぼやく。
「だからって赤の他人に手を掛けたらあかんよねぇ」
 明かりなど細い月しかない闇の下、常人なら読めるはずも無い文字。しかし、
結夜の金色に光る眼は、それをしっかりと見て取る事が出来ていた。
 資料によると、ここ一週間で既に二件の交通事故が発生してる。生者を呼ぶ
死者を送る、基本を踏襲した簡単な依頼である(まぁ、結夜程度下っ端には簡単
な依頼くらいしか回ってこないのだが)。
「ええと、このあたりのはず……っ!?」
 首を伸ばして辺りを見回すと、黒い人影が目の端に止まった。一瞬、緊張が
走るが、その影が黒いコートを羽織った男であると言う事に気付くと、ほうっ
と安堵のため息をつく。資料によると対象は女だ。
 近づいてみると、その顔にはどこか見覚えがある。はて、私ごときでも知っ
ているような高名な同業者であろうか。首を捻っていると、男の方から先に声
を掛けてきた。
「同業者?」
「ですかね。対象は?」
「あれ」
 男が指差した方向に澱みがあった。
 ねじくれた灰色の幹、しっかりと結び付けられた麻縄。そして、その下で疲
れたように座り込む、窶れ痩せこけた一人の女。
 うつろな瞳がこっちを向いていた。人の、人の世の全てを憎んでいるとでも
言うように暗く、ただただ恨めしげな色のみを湛えて。
「悪いけど、若いの。先に来た俺にやらせてもらうで」
「はい、いいですよ」
 私としては、それがいなくなってくれれば依頼料はもらえるわけだ。例えそ
れを誰がやったにしろ。内心でガッツポーズをとりながら、結夜はそれを見送
る。
 男はすたすたと女に歩み寄っていく。それに反応して、女が不意と顔を上げ
る。澱んでいた瘴気が男に反応してゆっくりと渦を作り始める。
 気付いているのかいないのか、男はかまわずにコートの袖をつかむと、それ
を大きくはだける。
 突然、女と瘴気の動きがぴたりと止まった。ついでに結夜も止まった。
 この場面を精密に描写するのは、私としても非常に心苦しい訳である。だか
ら、この際あえて詳しい描写は脳内検閲削除してしまい、事実のみを書き留め
ておくこととする。
 男がコートをはだけた。下には何一つ着けていなかった。
「えーと……」
 思考の空白。
「って、変質者か!?」
 結夜の放った中途半端な回し蹴りが、男の脇腹を直撃する。初心者の放った
もので、当たったのは踵より少し上の腿の部分とは言え、吸血鬼の力である。
ものの見事に露出狂は吹っ飛んでいった。
 不意に、その男の顔をどこで見たか思い出す。痴漢出没注意。電柱に張り付
けてあった張り紙だ。
「同業者って、私は露出狂じゃないわ! 確かにマント着てるが」
「いや、待って、誤解!」
「じゃあその格好は」
「うしろ、うしろっ!」
「えっ!?」
 『志村、うしろ、うしろ!』そんな声が脳裏を駆け巡るが、とりあえず関係
ないので置いておく。
 後ろには、当然の事ながら顔をゆがめた江藤久美子の幽霊が突っ立っている。
 はっと反射的に受け身の姿勢をとる。そのまま、一秒、二秒。予想してしか
るべきであった攻撃は、しかしいつまで経ってもやってこない。うっすらと目
をあける。
(……ぷっ)
「へっ!?」
 後から思い出しても、かなり間抜けっぽい声だったように思う。
(くすくす、うふっ、あははははははは)
 どんどんと地面を叩く動作をしながら、幽霊は大いに笑った。一頻り笑い終
えると、そのまますぅと消えていく。いつのまにか、澱んでいた瘴気も無くなっ
ていた。
「これは……?」
「結構有名な民間の退魔法やで。知らん? 尼さんが鬼に向かって露出して、
大笑いしてる隙にとんずらこくって昔話。あれの系統」
 脇腹を抑えながら立ち上がり、コートの男は言った。言われて、脳みその奥
からうろ覚えの知識を探る。
「いや、たしかユング系の心理学者が色々分析してるのを呼んだ事あるけど……
って、あれは女性じゃないのですか?」
「俺に聞かれても知らんわ。関係無いんとちゃう?」
「でも、痴漢の張り紙に……」
「ああ、こういう方法の仕事やっととると色々誤解されんねん。親切で祓って
んのに変態扱い。あ〜、脇腹痛いわぁ」
 わざとらしく蹴られた脇腹をさすると、男は不機嫌そうな視線を結夜に投げ
つけた。
「それは、ごめんなさい」
「まぁ、ええわ。いつものことやし、当然のリスクって奴」
「当然の?」
「趣味と実益を兼ねたって言う……」
「やっぱ変態やん!」
 反射的に力いっぱいつっこむ。
「仕事やからええねん。ギョウムジョウカシツチシって奴やね」
「死んでねぇ! っていうか、過失で業務上でも犯罪やし」
「はっはっは、さらば!」
「うわっ、逃げた」
 男はコートを再び着込むと、全力で走って行く。追うのも莫迦らしい。結夜
はため息を一つつくと、その場を後にした。


$$
**********************************************************************
#  近所に露出狂が出たとかで裏の理由とか考えてみました。キャラ化も考え
# たけど、流石にあれなのでやめときます。はい。
#  それにしても、この引き方一つのパターンになってるかもしれない。気を
# 付けよう。


          ================================
         # 乱筆、乱文ご容赦下さりますよう #
         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
         # mail : tk-leana@jttk.zaq.ne.jp #
         # cogito,ergo sum by Descartes #
          ================================


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/26700/26793.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage