[KATARIBE 26754] [HA06N] 特別企画:いろはお題『け 消し炭で作られた塔』

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Date: Fri, 19 Sep 2003 21:38:08 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26754] [HA06N] 特別企画:いろはお題『け 消し炭で作られた塔』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年09月19日:21時38分08秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『け 消し炭で作られた塔』:
From:月影れあな


 ラスト〜
 何故か、いくつか飛んでます

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特別企画:いろはお題『け 消し炭で作られた塔』
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け 消し炭で作られた塔
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「私には夢が在った……」
 厳かに語り始める結夜。しかし、いつもの事である。周りの反応は思いのほ
か冷たい。
「へぇ」
「ふ〜ん」
「あっ、なにその反応! 人が折角隠された過去を話そうとしてるのに」
「六兎さん」
 呆れたように千緒嬢は言った。
「隠された過去って言うのは、普通自分から言い出したりせず隠しとくもんと
ちがうんですか?」
「まぁ、それは置いといて」
 鋭いツッコミを、さらりと躱して結夜は話を続ける。
「私には夢が在った」
「……どんな夢なんだね?」
 放っておくと話が続かない事を知っている前野が仕方無しに相槌を入れると、
結夜はうんと頷く。
「それは、太陽の塔に登ることだ」
「…………」
「…………」
 しばし沈黙。程無くして、両者の脳裏に、その姿が浮かび上がる。両手を広
げたペンギンのような、宇宙人のような、アンテナのような姿をした、万博記
念公園に堂々と聳え立つ例のアレの姿が。
「ああ〜」
「何となく、気持ちは分からんでもないが……」
「そうやろ? という事で、去年の春頃、実際行ってみたのだ」
「……は?」
「だから、太陽の塔に。この体になったから、忍び込む事も簡単だと思ってな」
「まぁ、そうだろうねえ」
「まぁ、実際はそんな簡単な物じゃなかったけど」
「へ?」
「以下の文章は、一年前、私が始めて太陽の塔へ挑戦した時の体験を書き記し
た物である」
「なんのこっちゃ」

 草木すら寝静まる深夜。広大な夜の公園は不気味に静まり返っていた。先日
来の花見客も、桜の散り終えた今となっては最早居ようはずもない。当然の事
ながら辺りに人影はなく、月の光は静かに公園全土に敷き詰められた緑色の芝
を照らし上げている。
 場所は吹田、エキスポランドすぐ横。と言うかすぐ外の万博記念公園である。
目の前に聳え立つ巨大な、十年来の獲物に、結夜は湧き上がる興奮を押し殺す。
 そう、太陽の塔。月下にあっても太陽の塔。
 何年も前、莫迦な男が立てこもって以来閉鎖されていた禁断の場所。おそら
く、まともに生活していれば一生中を入ることは叶わないだろう。東京で言う
所の『勝鬨橋を上げる』に近しい行為であろうか。それに、結夜は挑戦しよう
としている。時の流れに逆行する。愚かなる行為に。
「愚かと分かっていても、やめる事は出来ない」
 嘆くように呟く。
「何故なら、私は人間だからだ」
 それは業。人という種族の背負った、忌むべきもの。全身の血が強く主張す
る。好奇心が、探究心が、冒険心が、塔へ入れと高く、高く叫ぶ。私はその声
に抗えないのだ。否、その声こそが私なのだ。
「いざ、往かん」
 全身が、夜に溶ける霧と化す。目的の地はすぐそこだ。歓喜に躰が打ち震え
る。おお、私はやり遂げる。やり遂げるのだ。そして、今、あの塔の中へ。
 突然襲い掛かった剣撃に、電光の速さで身を引く。間一髪でその剣は私を貫
く事は無かった。
 いや、違う。結夜は即座に否定する。最初から、当てるつもりではなかった。
今のはただの牽制だ。実体化し、剣を放った主を見つめる。それは、灼熱に輝
く赤金の鎧を身に纏った、一人の剣士だった。
「来たか、悪しき闇の民よ」
 鎧と同じ色に輝く両刃の剣を差し向け、剣士は結夜を睨みつける。その身体
から発せられる強大な圧迫感で、動く事すら出来ない。停止しかける脳を酷使
して必死で考える。彼は何者だ。そもそも、何故自分の邪魔をする。答えは当
然の如く出てくるはずも無い。唯一、その男の纏う装備が、言う所のヒヒイロ
カネで出来ているのではないかという推測だけが頭に浮かんだ。
「何者だ……」
 辛うじて一言を捻り出す。すると、剣士は軽く眉をしかめた。
「知らぬのか? ずいぶんと間の抜けた闇の民も居たものだな。自らの敵の名
も知らぬとは。良かろう。冥土の土産に教えてやる。我こそが太陽の剣士アル
ムヴェル。異界より喚ばれし塔の守護者アルムヴェルだ!」
 名乗りを上げると、アルムヴェルは剣を上段に構えた。
「うわっ、ちょっとタイム、待った、StopStop! 共存共栄、おとうさんおか
あさんを大切にしよう!」
 いかん。これはいかん。話が訳の分からん方向に流れ始めている。焦りの心
が迫力に押される身体を無理矢理に突き動かし、声を上げる。アルムヴェルは
今度こそ訝しげに眉をしかめた。
「遺言か?」
「いや、違うくて! そもそも、何ですか!? その闇の民とか太陽の剣士とか」
「は? 貴様は塔の封印を解きに来た闇の民じゃないのか?」
「そんなわけ無いやん!」
「ふ〜む……」
 アルムヴェルはばつが悪そうに頭を掻いて一言。
「いや、とりあえず話を聞こう」

「なるほど。つまり、貴公は幼少の頃よりの夢でこの塔に入ってみたかったと
いう訳か」
「そうです、お願いします」
「残念だが、しかしそれは許可できない」
 厳かにアルムヴェルは首を振る。結夜は尚も食い下がった。
「何故ですか、納得できる理由を話してください」
「理由か……良かろう。それで納得して帰ってくれるなら」
 仕方無しに、アルヴェルムは語り始める。
「そもそも、太陽の塔とは封印なのだ。消し炭のように脆いな」
「何が封印されているんです?」
「闇の獣グー=ダルオム。我が世界ではそう呼ばれていた。そもそもの始まり
は、40年前、この国の悪しき魔導師がグー=ダルオムを召喚してしまったこと
から起こった事だ。太陽の剣士であるという強い業により共にこの世界に飛ば
されてきた私は、この国の勇者とも協力してなんとかグー=ダルオムを倒した。
だが、闇の具現であるグー=ダルオムを完璧に滅ぼす事は出来ない。そこで封
印する事にした。黄昏の書にある太陽の塔を建てる事によってだ。この世界で
言うペンギンに酷似した聖獣、星鯨を模した巨大な像を立て、それより太陽の
力を受けグー=ダルオムの活動を完全に停止させる。万国博覧会など、それの
ためのカモフラージュに過ぎん。巨大な封印の塔を建てるためのな」
「は〜、そりゃまたすんごい事ですねぇ」
 あまりの突拍子の無さに、流石の結夜も顎が外れた。
「以来、ずっとこの塔を守っている。確かに封印の力こそ強いが、太陽の塔は
グー=ダルオムの復活を願い、我が世界より時空を越えて訪れる闇の民たちに
対してはあまりにも脆い。それで私は、この塔を闇の民より守るべく毎夜戦っ
ているのだ」
「それで、もしグー=ダルオムが復活したらどうなるんですか?」
「世界が滅びる」
「うわぁ」
 まさに、とんでもない話である。普通に考えれば、信じられるはずも無い。
だが、目の前の剣士の実力は確かに物凄い物であり、そもそもこんな嘘をつい
て何か楽しい事があるとも思えない。とりあえず、結夜は信じておく事にした。
「わかりました。そういう事なら仕方ないですね」
「すまんな、長年の夢を……」
 突然、辺りに闇の気配が漂い始める。緊迫した声でアルヴェイムが叫んだ。
「走って、自らの住処へ戻れ。振り返るな。早くっ!」
 その迫力に、結夜は迷わず従う。瞬発力は仲間内でもそれなりのものである。
数秒と断たずして公園の外まで駆け抜ける。どこか遠くで、爆発のような音が
聞こえた。
「……事実は小説より奇なり、かな?」
 使い古された言葉を呟きながら、結夜は長年の夢をその日断念したのだった。

「と、いう事で貴方たちも太陽の塔に入ろうなんて考えないように」
「…………」
「…………」
 冷たい沈黙と、刺さるような視線が痛い。一応、念を押しておく。
「いや、ホントだよ?」
「はいはい、っていうかそんな莫迦な事しようとするの六兎さんくらいでしょ」
「莫迦な事を言っていないで、勉強でもしなさい受験生」
 当然の事ながら誰も信じてくれないのだった。
 ああ、狼少年の午後。


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# 意外に本当かもしれません。


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