[KATARIBE 26740] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ら ラストバトル2060』

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Date: Thu, 18 Sep 2003 06:59:26 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26740] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ら ラストバトル2060』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年09月18日:06時59分26秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『ら ラストバトル2060』:
From:月影れあな


 未来話。
 未来話だけど、まぁ60年後だし大丈夫だろう。あんま詳しい様子も書いてな
いし、そもそも狭間じゃ未来も多界なわけだから、別の未来に行き着くってこ
ともあるわけだ。

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特別企画:いろはお題『ら ラストバトル2060』
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ら ラストバトル2060
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 一人の老いた男が木陰に座っていた。一見はただの年寄りにしか見えない、
だが注意深く観察していると、その動作の一つ一つに全く無駄の無い。彫りの
深い容貌、片目には古い傷跡が残っている。見るものが見れば、その右腕も最
新式の高性能な義手であることも分かるだろう。
 歴戦の古強者。一言であらわせばそういう者だ。
 孫らしき子供が駆け寄ってくる。老人は破顔して見せると、嬉しそうに佇む
子供の頭を撫で、ある一つの方向を指差し何かを呟く。子供は大きく頷くとそ
ちらの方へ駆けて行く。先にあるのは一組の夫婦。老人の息子夫婦で、子供の
両親。恐らくそんな所だろう。走っていく子供を手を振って見送り、老人は満
足げに溜息を吐く。
 どこか疲れた動作で、首に下げたロザリオを軽く握り締めると小さく呟いた。
「Amen」
 緩やかな風が吹いて、老人の顔に影が刺す。顔を上げると、そこには一人の
少年が立っていた。産業革命時代の紳士のような黒い礼服と、古風なマントを
羽織った一個の闇のような東洋人。その瞳に宿るのはどこか哀しげな光。老人
の、よく知る顔だった。
 くるりと辺りを見回して、先に声を発したのは少年のほうだった。
「居住区の整備の賜物だ。今では、地球にいるのと錯覚を起こすほどに快適な
環境だよ」
「そうかい」
 言われて老人も辺りを一瞥する。確かに、少年の言う通りそこの風景は地球
と寸分も違わない。むしろ下手な地球の都市よりも緑豊かで、快適そうな空間
であった。
 ひとしきり辺りを堪能すると、老人は恨みがましい目付きで少年を見上げ、
愚痴るように呟いた。
「まさか、月にいるとは思いもしなかったよ。ここ二十年ばかり見付からない
と思ったら」
「十八年程前からだ」
 そう言う少年の容姿は控えめに見た所で二十を越えるようには見えない。だ
が、双方ともそんな事は何の問題でもないように話を続ける。
「久しぶりだな、ジェロニモ」
「久しぶりだ、金眼」
 それが双方の仇名であった。

「日本語を使うのは久しぶりなんだ。ちゃんと話せているか?」
「ああ、問題ない」
「そうか。それにしても何故月に? 宇宙開発は趣味でも無いだろう」
「珍しい体験をしたかったんだ。ただそれだけ」
 軽く肩をすくめて見せる結夜の動作は、最後に会った時と寸分も変わってい
ない。懐かしさに、老人は思わず言葉を漏らす。
「変わらないな、金眼」
「ああ、貴様もな、ジェロニモ」
「よせ、俺は変わったよ」
 老人が自分で言っているとおり、二十年という歳月は容赦なく若さを奪う。
それこそ、吸血鬼である結夜でもなければ変わらない訳も無い。だが、結夜は
その当然の主張に首を振る。
「いや、心根は変わらない。ずっとな。最初に会った時のままだよ」
 約半世紀もの時に思いを馳せ、結夜は懐かしげに呟いた。老人は、少しだけ
口の端を曲げて小さく微笑う。
「それも、どうだか」
 自嘲するような老人の言葉に、結夜は何も言わなかった。
「でも、間に合ってよかったよ」
「何がだ?」
「俺が死ぬのにだ」
 言葉が止まる。人口太陽灯の光が眩しい。結夜は、何かを諦めるように深い
溜息を吐く。
「やはり、やるつもりか?」
「ああ、ずっとそうして来ただろ。この半世紀な」
 老人は静かに懐から武器を取り出す。白くペイントされた、少々装飾過多な
ロングバレルのリボルバー。実用の武器というより、単なる飾り物にしか見え
ないそれが、確かに恐るべき凶器である事を結夜は経験から知っていた。
 だが……
「無駄だ。全盛期の貴様ならともかく、老いたその身では私に勝つ事は出来な
い。それは分かっているだろう」
 下手をすれば必殺の凶器に対して何の恐怖も抱かず、淡々と事実を告げる。
「確かに、そうだ。今の俺ではお前には勝てない」
「なら、なんで……」
「頼むよ、結夜」
 老人は言葉を遮って、結夜と名を呼んだ。敵として認識し合った仇名では無
い。まだお互いが何も知らず、ただ友として在った頃に呼び合った、その名を。
「リスティ……」
「死ぬ時は闘って。そう決めていた。お前となら本望だ」
「……わかった」
「ありがとう、親友」
「親友か、そう呼ばれるのは半世紀ぶりだな」
「はは」
 長い年月を越えて、お互いに笑い合う。その後は言葉はいらなかった。結夜
の爪が黒い刃となって閃き。リスティは引き金を引く。
 最後の闘いが、始まった。


$$
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# 2060年の結夜です。なんか知らないところでドラマを繰り広げています。
# 本当は前野さんとかそういうのでやろうと思ったんですけど、他人のキャラ
# を勝手に老化させて出すのは色々問題だと思ったので止めておきました。ど
# うなってるんだろうなぁ、吹利の面々。


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         # 乱筆、乱文ご容赦下さりますよう #
         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
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