[KATARIBE 26704] [HA06N] 特別企画:いろはお題『る ルパートさん出番です』

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Date: Sun, 14 Sep 2003 20:19:30 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26704] [HA06N] 特別企画:いろはお題『る ルパートさん出番です』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年09月14日:20時19分30秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『る ルパートさん出番です』:
From:月影れあな


 何度見直してもルパートは無理ありますねぇ

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特別企画:いろはお題『る ルパートさん出番です』
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る ルパートさん出番です
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 コンクリートで塗り固められた薄暗い部屋。光を取り込む窓は北側に一つし
かなく、天井からぶら下がった電球の光もどこか弱々しい。隅っこの暗がりに、
その男は座っていた。
 皮のズボンにラフなジャンバー。男の癖に唇を塗り、髪の色は脱色した金髪
だ。顔色が白いのは決して化粧だけの所為ではない、どこか生気の無い男であっ
た。
 きぃと、木製の扉が開く。
 中に入ってきたのは黒いマントにサングラスをかけた少年、結夜である。し
かし、暗がりに座り込んだ男はそちらには目も向けず、独り言でも呟くように
ぼそりと言葉を発する。
「出番か」
「はい」
 結夜は頷いて答えた。
「ルパートさん、出番です」
「そうか……」
 感慨を噛みしめるように、男は低く呟く。その瞳は、どこか遠くを見つめて
いるようであり、すぐ目の前を見据えているようでもある。結夜には判別がつ
かない。
「アンジュは?」
「先に舞台でお待ちしています」
「そうか、そうか」
 何かを確かめるように二度繰り返して、男は短く溜息を吐いた
「ここまで来たんだなぁ」
 そこに込められた感情は、懐古であり、喜びであり、哀しみであり、いろい
ろな物が混ざった物だった。だが、あえて一言で言い表すとこうなる。そこに
込められた物は感動であった。
「十年、長かった十年だよ。俺とアンジュが一緒に走り出してもうそれだけに
なる」
 男が顔を上げた。夢見ているような表情で、とくとくと語る。
「色々あったよ。思えばつらい事ばっかりだった。アンジュには苦労しかかけ
なかったな。どうしようもなくて泣いた事だってあった。だが、それすらも、
今日で楽しかった思い出になるんだ。楽しかった……」
 満足げな微笑を口元に浮かべ、そのまま瞳を閉じる。母親の胸の中で眠って
いるような、安らかな表情。静かな沈黙が闇を満たした。
「ルパートさん、出番です」
 結夜は、もう一度男に向けて言い放った。
「ん、わかった」
 ルパートは立ち上がり、扉に向かって歩みだす。ノブに手をかけ、ふと何か
を思い出したように後ろを振り向く。
「ありがとう」
 扉を開くと、光が広がっていた。ファンの歓声が舞台を飲み込む。既にそこ
に立っていたアンジュがこちらに手を伸ばした。それに応えて、ルパートも手
を差し伸べる……

 無人の舞台に立って客席を見渡す。がらんどうとした空間。寂しさ以外に何
もない、泣きたくなるような哀しい空間。
 アンジュとルパート。絶頂を目前として世を去った二人。薄野杏子と高見沢
春斗は既にこの場所から消えていた。
「名を残す事なく散った、天才シンガーとギタリスト。か」
 ようするに、そういう仕事だった。交通事故で死んだミュージシャンが、夜
な夜なコンサートホールに現われる。除霊をしてくれ。よくある、なんでもな
い簡単な仕事。だったはずだ。
「なんか、やりきれない」
 耳に、ルパートの声が残っている。「ありがとう」あれはただ、呼びに来て
くれた少年に対する簡単な労いだったのだろう。たったそれだけの事。しかし、
結夜の耳にはそうは届かなかった。
「あっ……」
 熱いものが目頭から溢れてくる。反射的に上を向く。それでも、瞳から一筋
の涙の粒がこぼれ落ちる。
「参ったな」
 おもわず苦笑がこぼれる。このまま、帰るわけにはいけないな。空虚な舞台
の上で、しばしの間結夜は何をすることも無く立ち尽くした。涙が、止まるま
での間。


$$
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# なぜか「ルパートさん」でシリアスです。感動が安っぽい気もします。
# 杏子(あんず)でアンジュはともかく、春斗(はると)でルパートは少々無理が
# あったかも知れないとか、思わなくもありません。


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