[KATARIBE 26689] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ち ちらちらと瞬くひかり』

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Date: Sat, 13 Sep 2003 19:39:46 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26689] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ち ちらちらと瞬くひかり』
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2003年09月13日:19時39分45秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『ち ちらちらと瞬くひかり』:
From:月影れあな


 二つ目〜
 全お題中、たぶん一番出来の良い作品です

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特別企画:いろはお題『ち ちらちらと瞬くひかり』
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ち ちらちらと瞬くひかり
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「ううむ、どうしたものか」
 手に持った藍色の宝石を弄びながら、結夜は途方にくれていた。
 そう、問題はその手に持った宝石である。十数分ほど前、どこか怯えた雰囲
気の依頼者の男に押し付けられた、遠目にはただの硝子玉としか見えないよう
なそれ。間近で見ると、素人目にもものすごい価値のある石であるとわかる、
禍々しい念の篭った石。
(これは、死者の遺品です)
 あの男の声が耳に蘇ってくる。
(近くで船の沈んだ数日後に浜に流れ着いた物で、あまりに綺麗だったから、
祖母がもって帰ってきてしまったんです)
 祟りがあるといけないから、どうにか処分してほしいという事だった。
 簡単なくせに、深入りは危険な依頼。理性は、そんな石など海にでも放り投
げて日常の生活へと戻っていけばよいと告げている。だが、なぜか手放せなかっ
た。
 と、突然視界に白い塊がにゅうと飛び込んでくる。
「うわぁっ」
 いつの間にか近寄ってきていた巨大な白い犬が、藍色の石に頭を近づけて臭
いをかいでいる。首輪が無いところを見ると、野良だろう。だが、それにして
は警戒心が薄いような気もする。
「こらこら、これはあかんって」
 あわてて犬の鼻の届かないところまで手を上げる。すると犬は不満げにふす
んと鼻を鳴らした。なにか人間臭い犬だな。そんな事を思いながら、宝石に視
線を戻す。
 ちらりと光が瞬いた。なんだろう。疑問符が沸く。初めは太陽の反射だと思っ
た。しかし、よくよく見てみると明らかに違う。それは、宝石の中でちかちか
と定期的に瞬いていたのだ。 
 さらに詳しく確かめようと顔を近づける。光の瞬いている部分は、影のよう
に暗くなっていた。と、唐突に意識が遠のいていく。やばい、引きずり込まれ
る。そう考える間もなく、視界が暗転した。
 どこかから波の音が聞こえてきた。

 目を開くと、目の前には暗黒があった。
「……っ!?」
 声を上げようと口を開くと、その中に塩っ辛い海水がなだれ込んでくる。周
りの状況がつかめない。ただ寒く、体がだるく、息苦しかった。驚愕する。
 息苦しい。吸血鬼となった今では呼吸をする必要も無いはずなのに、肺は必
死に酸素を要求していた。唖然として思わず、足の動きが止まる。すると、当
然のことながら沈みそうになる。そこでやっと、結夜は自分が荒れ狂う海の中
にいて、必死で立ち泳ぎをしていたと言う事に気付いた。
 辺りを見回すと、偶然同じように波間を漂っている人間と目が合った。苦し
いよ。助けて、死にたくない。嘆き声が聞こえるようで、思わず反射的に目を
そむける。ふと、目の端に光が瞬いた。あの光だ。
 ああ、あれは陸地だ。灯台だ。誰かの声が聞こえた気がした。手の届きそう
なところにその光はある。だが、絶対にそこにたどり着く事は出来ない。誰も
がそれを理解した。このまま自分達は、海の底へと沈んで死ぬのだ。その瞬間、
体が急に沈んだ。慌ててもがいても一向に浮き上がる事が出来ない。口の中に
海水が浸入する。嫌だ、嫌だ、死にたくない……
「おんっ」
 突然、犬の鳴き声が聞こえて、気がつくと黒い空間に立っていた。辺りを見
回す。さっきの白犬がすぐ脇に座っていた。
「今の鳴き声、君が?」
 念のためにたずねてみると、犬はゆっくりとした動作で肯いた。軽く礼の言
葉を口にして、もう一度辺りを見回す。どこまで言っても真っ黒な空間。だが、
暗いわけではないようだ。その証拠に、隣に座っている白い犬の姿ははっきり
と見える。
「お兄ちゃんは死なないの?」
 声が聞こえたのは後ろからだった。慌てて振り向く。和服を着た、十歳前後
の幼子がそこに立っていた。
「生憎と、丈夫なだけが取り柄でね」
 と、言っても犬の助けが無かったらおそらく今頃は水の底だったろう。とり
あえず、虚勢を張って不敵な笑みを浮かべる。たぶん、ただのにやにや笑いに
しか見えないだろうが。
「そう、よかった」
 そう言って、少女は無邪気に微笑んだ。その反応に、結夜は軽く目を見張る。
てっきり、この少女が原因だと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
「きみは?」
「私はとうだい」
「とうだい?」
「うん、灯りで照らすの」
 にっこりと笑って、少女は片手を上げた。指が、ある一つの方向を向く。
「どうしたの?」
「出口、あっち」
 少女の指差した方向には、ちかちかと光が瞬いていた。宝石の中に見たもの
と同じ、波間から見えたものと同じ、灯台の光。
 唐突に、結夜は悟った。石の中心に宿っていたのは溺死者の霊ではなかった。
彼女は、それを手の届くような近いところから見つめていて、助ける事の出来
なかった灯台の無念だ。決して届く事の無い手。伸ばしていたのは死者だけで
はない。それを見つめる物もまた……
「おにいちゃん、行かないの?」
 気がつくと、少女が不安げに結夜の顔を覗き込んでいる。白犬は、すでに光
に向かって歩き始めていた。結夜は少女を安心させようと笑みを浮かべる。
「いや、行くよ」
 光に向けて歩き出す。ちかちかと瞬く光は、どこか誇らしげだった。結夜は
忘れていた事を思い出し、一度だけ少女を振り返った。
「ありがとう」
 導いてくれてありがとう。手をさし伸ばす事が出来なくても、私たちはいつ
も貴方に感謝しています。
「ん……」
 少女ははにかむように微笑んだ。

 目が覚めると、もとの公園のベンチだった。日の角度はほとんど変わってい
ない。恐らく、眠っていたのは一瞬だったのだろう。
 白犬は既に背を向けて去っているところだった。軽く手を振って別れを告げ
る。彼が気付いたかは知らないが、また会うこともあるだろう。御礼はその時
に、ビーフジャーキーでも持ってくることにしよう。
 ふと手元を見る。藍色の宝石がぱしゃんとはじけて水になった。浄化された
から、石として存在する力もなくなったのだろう。少し寂しい気もしたが、そ
れが彼女の望んだ事なのだ。
 なんとなく清々しい気分で、結夜は立ち上がる。時間もあるし、軽い依頼を
一つこなしたから懐に余裕も出来た。IC水島に行って、今日は紅茶でも飲もう。
 そうして、結夜はまた彼の日常へと戻っていく。


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# またシリアスですね〜
# シリアスで、一人だと微妙に性格変わります。いつも道化てる反動ですかね。
# そして、一人称だか三人称だかよく分からない書き方になってしまった。
# 臨場感が出ないよ。ぐう
# 今回は白雲さん借りました〜。いえ〜
# 次は誰出すかな〜


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         # 乱筆、乱文ご容赦下さりますよう #
         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
         # mail : tk-leana@jttk.zaq.ne.jp #
         # cogito,ergo sum by Descartes #
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