[KATARIBE 26679] [HA06N] 特別企画:いろはお題『に 二枚目と三枚目』

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Date: Fri, 12 Sep 2003 18:46:34 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26679] [HA06N] 特別企画:いろはお題『に 二枚目と三枚目』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年09月12日:18時46分34秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『に 二枚目と三枚目』:
From:月影れあな


 ども、月影れあなです
 いえ〜い、今日も流しますよ、いろはのお題

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特別企画:いろはお題『に 二枚目と三枚目』
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に 二枚目と三枚目
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 誰も知らないことだったが、高く育った薄に埋もれて、そこには陰の気の溜
まる古い井戸があった。井戸の底には女がいて、女は毎夜皿の数を数えていた。
「いちまあ〜い」
 怨念に満ちた暗い声が、ただ闇の中に響く。永い、永い間、女はずっとその
声だけを聞いて存在してきた。そして、これからもそのように在り続けるのだ
ろう。
「にまあ〜い」
 と、数えた時、一枚の紙がひらりと舞い落ちた。女は訝しげに眉をひそめる。
こんな事は初めてだった。何か不吉な予感がした。地に落ちた紙を手に取る。
湿気を含んで、少しにじんだ文字。おそらく水性のマジックによるものだろう。
ただ一言「ごめんなさい」と書かれていた。
「…………」
 手に取った皿をよくよく見てみる。それは、何故か紙で出来ていた。

 話は数時間前にさかのぼる。
 その場所で、二人の男が対峙していた。その両方が黒い影のようなマントを
羽織り、片方は疲労困憊といった風に荒い息をついている。
「残念であったな。愚かなる同胞」
 息を乱していない方の影が言った。
「身の程も弁えず、高貴なる闇の者を狩ろうとした教訓をくれてやる」
 追い詰められた方の影、結夜は答えない。なぜか口元ににやにやとした笑み
を浮かべ、真っ直ぐに狩猟者の瞳を見つめている。
「何がおかしい、子兎」
「いや、別に」
 興奮した心を落ち着けるときのように、深く息を吐く。
「ただ、人間どうしようもない時には笑うしかないってことを実践してるだけ」
「遺言としてはお粗末なものだったな」
「いや、遺言にするつもりも無いのだけどな」
 戯言を。と、笑い捨てる。刹那、黒い爪が結夜に止めを刺さんと薙ぎ払われ
る。二つの影は、一様に塵と化して消える様を思い浮かべた。
「なに!?」
 だが、狩猟者の爪は危ういところで宙を裂くだけに留まる。
「……っ!?」
 一方、間一髪窮地を逃れた結夜自身も驚愕に目を見開いていた。一言も声を
発さずにいれた事については賞賛すべきであろう。突然に地面が抜け、十メー
トル近くの距離を落下したのだ。一瞬、自らの状況がつかめなかった。
 当人ですらそうなのだから、追い詰めていた方もそう素早く気付けるはずも
ない。
「ぬぅ、どこへ行きおった小僧!」
 ぐるりと辺りを見回すが、当然の事ながら見付かるはずもない。思えば、こ
の時男はかなり焦っていたのだろう。気配を殺して背後に近付く一つの影に、
気付く事はない。
 唐突に、胸に白い手が生えた。
「ぐぅっ」
「注意力散漫よ、小父様?」
 背後で涼やかな女の声がする。
「貴様、な……ぜ……」
「私たちが、貴方のようなのをあんなぺーぺーの三下だけに任せると思う?」
「ぐ……」
 男は何か言おうと口を開くが、それは言葉になる前に塵となって崩れ落ちる。
女はパンパンと手を叩き、塵を払うと辺りをぐるりと見渡した。
「で、金眼。あんたどんな小細工であれ避けたの? っていうか、何処?」
「ここですよ、烏先輩」
 声は地面から聞こえた。深い草を掻き分けて、そこを見てみる。すると、地
面には何故か大穴が空いており、その奥で手を振る尻餅をついた後輩の姿。
「なにしてんの?」
「落ちました。なんか、古井戸みたいですね。ここ」
「……忍法、土遁の術」
「莫迦な事言ってないでさっさと引き上げてくださいよ〜」
「甘えんじゃない。自分で上がってきなさい」
「え〜〜」
 ぶつくさ文句を呟きながら、結夜は何とか飛び上がろうと、立ち上がる。ガ
シャンと嫌な音がした。
「え?」
 恐る恐る、音の出所を探る。足が何か白いものを踏みつけている。それは、
積み上げられていた所を崩れたのだろうと思える数枚の皿だった。二枚ほど割
れている。それはもう容赦なく。
「げ……」
 結夜は途方に暮れた。

 調べてみると、二枚目と三枚目の皿が使い捨ての紙皿に掏り替えられていた。
つまり、皿が二枚足りない。最初から一枚足りないので合計三枚足りない。そ
うすると、キチンと皿の数を数える事が出来ない。女は、その瞬間存在意義を
失った。
 ふつふつと、怒りがこみ上げてくる。自分が何をした。ただ夜中に皿の数を
数えて悦に浸っていただけではないか。そのささやかな幸せを奪った者が許せ
ない。
「こ、この怨み晴らさで置くべきかぁ〜」
 誰も知らない井戸の中で、女は未だかつて無い怨念を込めて、復讐を誓うの
だった。


$$
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# 何となくノリだけで作った短編。続きは考えてません。
# この井戸の人、お菊さんというより、そのイメージに依って具現化した陰の
# 気の塊みたいな存在です。歪んだ井戸の精。気が向いたら再登場させようか。


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         # 乱筆、乱文ご容赦下さりますよう #
         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
         # mail : tk-leana@jttk.zaq.ne.jp #
         # cogito,ergo sum by Descartes #
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