[KATARIBE 26660] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ろ ろくな男じゃありません』

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Date: Thu, 11 Sep 2003 16:45:22 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26660] [HA06N] 特別企画:いろはお題『ろ ろくな男じゃありません』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年09月11日:16時45分22秒
Sub:[HA06N]特別企画:いろはお題『ろ ろくな男じゃありません』:
From:月影れあな


 いろはお題の二つ目。どんどん流しますよ〜

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特別企画:いろはお題『ろ ろくな男じゃありません』
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ろ ろくな男じゃありません
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「――――」
 急に巻き上がった風に気を取られて、六兎結夜はその決定的な一言を聞き逃
していた。
「えっ……」
 白磁のように透き通った頬を赤く染めて、銀色の髪の少女が潤んだ瞳でこち
らを見つめている。結夜はそれを、素直に綺麗だと思った。
「だから、連れて行ってよ。ネヴァーランドへ、貴方にはそれが出来るんでしょ
う?」
 不意に、強烈な既視感が結夜を襲う。交錯する藍と金の瞳。銀色の月。闇色
の森に揺らめく、無数の松明の光。血に濡れた短剣、約束、冷たくなって良く
彼女の身体。
(君はどっちを選ぶのかね?)
 知らない声が耳の奥で再生される。
(お父様。私も、いっしょに連れて行ってください)
(主よ貴方は決断をしなくてはいけない。すべてはあの、月も出ぬ深い夜の日
より定められていた事)
(我の口出すべき所ではない。が、君自信彼女と共に歩みたいと考えているの
では無いのかね?)
(それでも、私は……)
(約束、人と共に、共に……)
「……っ!?」
 刺すような鋭い頭痛が 意識を表層へと引き上げる。ああ。結夜は溜息をつ
く。答えなど初めから決まっていたのだ。私はそう在ると決断した。幾重の時
が流れても、それは変わらないのだ。
「連れては、行けない」
「どうして!?」
 半ば悲鳴のようにして彼女は叫んだ。ああ、泣かないでいとおしい娘よ。決
断が揺らぎそうになる。
「人として生きていくんだ。私には貴方を連れて行っても責任が取れない」
「そんなもの、取ってもらわなくっても構わない!」
「私が構うんだよ。そう、これは単なる我侭に過ぎない。でも、私が関与する
事で訪れる不幸を考えると、私には貴方を連れて行くことは出来ない。もしか
したら、ただ臆病なだけかもしれない」
 彼女が泣いている。私も、涙を流していた。同時に、頭のどこか冷静な部分
で自らを糾弾する。勝手な男だ。泣いてしまえば、彼女は私を責めることが出
来なくなろう。だから私は、闇の中でこの涙に気付かれぬよう、必死で冷静な
声色を装う。
「卑怯者、貴方は逃げているだけだわ」
「返す、言葉も無い」
「私にどうしろって言うのよ。だって、私、あなたのこと……」
「それ以上は言わないで」
 結夜は、彼女の唇に軽く手をあてがい、言葉を押し留めさせる。我ながら残
酷な事だ。自嘲する。
 月の光にきらきらと光る藍色の瞳。どんな宝石よりも美しい大粒の涙が頬を
伝っている。ぐっと、抱き締めたいという衝動が湧き上がる。だが、それこそ
結夜には許されない事だった。
「さようなら。貴方に会えて、良かった」
 黒い影の吸血鬼はそれだけ言い残すと暗い夜空に飛び上がる。少女が顔を上
げたときには既に闇の奥へと消えていた。
「酷い人……」
 涙はまだ枯れない。悲しみはまだ失せない。だが、そんなものでうじうじと、
いつまでも悩んでいる事は、少女のプライドが許さない。
「絶対に、追いかけてやる」
 銀色の月の許で、少女は虚空に向けて誓いを呟く。その越えは風に溶け、誰
の耳に届く事も無かった。


$$
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# めずらしくシリアス。
# 実はこれ、『窓に降る塵の雪(仮題)』のラストシーンだけです。書きあがり
# そうに無いし勿体無いので転用。
# え? 万一書きあがったらどうするかって? 何食わぬ顔でこれもちゃんと
# 引っ付けとくさ〜。



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         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
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