[KATARIBE 26403] [HA06P] エピソード『宵の口の姫君』

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Date: Sun, 13 Jul 2003 21:17:27 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 26403] [HA06P] エピソード『宵の口の姫君』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年07月13日:21時17分26秒
Sub:[HA06P]エピソード『宵の口の姫君』:
From:月影れあな


 ちょっと前のチャットログから打ち立てたエピソード。
 編集途中で止まってた。危うくお蔵入りになるところだった。危ない危ない

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エピソード『宵の口の姫君』
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登場人物
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 兎夜宵姫   :飢えた吸血姫。吹利の宵闇を闊歩する
 里見鏡介   :なにかと吸血鬼に縁がある人

本文
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 刻は宵の口。日のほとんどは既に沈み、西の空は紫色に染まっている。薄く
長い影の刺す街の通りを、宵姫は一人歩いていた。
 街灯はポツリポツリと等間隔に灯り、薄暗い宵闇の中で輝いている。街行く
人はただ前だけを見つめ帰路に急ぐ。誰もが、すれ違う人が一体何を考えてい
るかなど気にも留めず、通り過ぎていく。

 宵姫     :(血が、血が欲しい……)

 頭の中では何故か、REBECCAのMOON English Varsionがエンドレスで流れ続
けている。空腹の苛立ちが徐々に脳のテンションを上げ、音楽は徐々にテンポ
を速くする。

 宵姫     :「のど、渇いた……」

 考えが口をついて出ている。ぐるりと周囲を見渡すと、時間帯の所為か、辺
りには不健康そうな青年がぼーっと突っ立っているだけだった。生唾がこみ上
げてくる。少し血の気は無さそうだが、何となく退廃的で、ちょうど宵姫の嗜
好に合っていた。知らぬ間に口の端が上がる。
 ふと、青年がのそりとした動きでこちらを向く。目が合った。さっと表情を
消す。何か感付かれただろうか?

 鏡介     :「……口、開いて、空を眺めていてごらん」

 言われたとおり上を向く。ただし、口は開けていない。何となく間抜けっぽ
くて嫌だったからだ。

 鏡介     :「もうすぐ雨が降る」(ぼー)

 確かに、東の空から雲が広がっていた。そのため、さっきまで瞬いていた星
は既に半分も見えない。宵姫は、何となくばかばかしい気持ちになってきた。

 宵姫     :「雨で、渇きは潤せません」

 悪戯心が湧いて来る。この、少し変わった青年を脅かしてやろう。何ならや
はり血も吸ってしまおう。そうしよう。ちょうど喉も乾いている。血を飲むの
は久しぶりだった。すっと、逃れられないよう細心の注意を払って、近寄って
いく。

 宵姫     :「……わたしの渇きは、もっと甘美なものでしか、潤せま
        :せん」
 鏡介     :「……甘美なもの、快楽、饗宴、美、鮮血」

 青年の口から出てきた単語に思わず身を震わせ、驚いて顔を見つめる。その
目は、宵姫の方は見ていない。

 鏡介     :「あは、あはははッ、あはははははッ」
 宵姫     :「はぁ、はぁ、はぁ」

 久しぶりの獲物を前にした所為か、息が、動悸が、心が乱れる。まるで恋を
する乙女のように、潤んだ瞳でその首筋を、見た。

 鏡介     :「ヒィ……ヒィ……まあいいや、これも星の巡りだ。好き
        :にすればいい」
 宵姫     :「……ああ、あああああ」

 口から惨めったらしい声がもれる。鏡介の越えなど最早聞こえていない。容
赦なく牙を突き立てると、溢れ出す地を残らず口ですくった。
 ごくりごくりと、嚥下する音が酷く耳に響く。

 宵姫     :「うっ……けほっけほっ」

 焦った所為か、血が器官に入った。口を抑えてむせると、抑えた手が血に濡
れる。ぺろりと、皿をなめる犬のようにそれを舐め取り、また首筋に口をつけ
る。

 鏡介     :「僕の血は、苦いよ」

 一気に血液を抜き取られた所為か、鏡介の声に力は無い。さすがにやばいか。
宵姫は口を離した。黒い糸が傷口からずるりと引く。

 宵姫     :「ちゃんと、おいしいですよ」

 未だ冷めぬ吸血の興奮を、深呼吸して押さえ、宵姫は微笑む。

 鏡介     :「そうかい。それはよかった」
 宵姫     :「うふふ、あなた変な人ですね」
 鏡介     :「世界がまともすぎるんだよ」
 宵姫     :「そう……そんな風に考えるんですね」

 突然、鏡介の膝が折れる。

 宵姫     :「あっ」

 慌てて支える。顔色は悪い。まず間違いなく貧血による立ちくらみだろう。

 宵姫     :「吸いすぎちゃったかな。ごめんなさい」
 鏡介     :「吸いたければ吸えばいい、弱者の論理にばかり耳を貸す
        :必要はない、君たちは美しい生き物だ……」

 よろめきつつながら鏡介は言った。しかし、それに対して宵姫は自嘲するよ
うに短く笑う。

 宵姫     :「それは皮肉ですか? 大局を見れば、私たちはその弱者
        :の論理を逸脱したところで生きる事を許されない。結局は
        :私達の方こそ弱者でしかない」
 鏡介     :「機会がないだけさ。きっかけがあればどうとでも変わる。
        :ほら、雨だって降ってきた」

 言われてみて手を翳す。ぽつぽつと冷たい感触が手のひらに心地良い。

 宵姫     :「きっかけ……そんなものが、起こりうるんでしょうか?」
 鏡介     :「起きるさ。忘れないで、これは啓示だ。思ウガ侭ニ混沌
        :ヲ振リ撒ケ」

 虚ろに呟いて、鏡介は宵姫から身を離した。そのまま、足を引きずるように
して横を通り過ぎ、離れていく。

 宵姫     :「あなた、名前は?」
 鏡介     :「……なんだっけ」

 惚けた言葉。振り返ると、鏡介の姿はもう無かった。そのまま呆然と立ち尽
くす。笑いの衝動が、こみ上げてきた。

 宵姫     :「名無しの君。か……面白い人と知り合っちゃった」


場所・時系列
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 吹利市内のどこか、宵の口、曇りのち雨

解説
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 喉が乾いて町を歩く宵姫。その目の前に鏡介が現われて……
 それにしても、千影ちゃんに惚れて奈津ちゃんの惚れられ、宵姫ともなにや
ら厄介な事になりそうで、鏡介さん数奇な運命ですねぇ
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