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Date: Sat, 5 Jul 2003 02:44:32 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 26366] FW: [HA06P]エピソード:『相合傘の二人 ─ 買い物帰りには ─』
To: "Kataribe-ml" <kataribe-ml@trpg.net>
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桜井@猫丸屋/Catshopです。
このあいだのエピソード、みぶろさんからの指摘およびイメージの補強を受けて手
直しを
いれたので送りなおします。
ではでは。
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エピソード:『相合傘の二人 ─ 買い物帰りには ─』
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登場人物
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西園寺 遙 : 伝明寺幼稚園の保母さん。日曜日は買い物の日らしい。
男運が悪いためか、男性に対して厳しい。
http://kataribe.com/HA/06/C/0366/
藤咲 千緒 : 私立春日高校の二年生。やっぱりお休みの日はお買い物♪
昔、ツライ別れがあって以来、男性不信。
http://kataribe.com/HA/06/C/0336/
買い物帰りの二人
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雨上がり、吹利市内の公園。
まだ東屋の軒や植えられた木々の葉から雨垂れが、とつとつと落ちている
夕方。
コツコツとカラー煉瓦を踏んで響く足音一つ。
遙 :「──ここのところ、日曜になると雨に降られるな」
右手に傘、左手には大きく膨らんだ買い物袋。
買い物袋の中は、日用品や食料品ではなく洋服や小物らしい。
遙 :「ボーナスが入ったとは言え──ちょっと買いすぎたかも
: しれない」
買い物袋に視線を落として、ため息。
ショップのロゴがプリントされたビニール袋。いわゆる大人の女性向け,
少しクセは強いが割合にタイトなシルエットでシックな雰囲気のデザインが
売りのブランドだ。
遙 :「──またか。これだから梅雨時は」
足を止めて空を見上げれば、ぽつり、ぽつりと雨粒が額に当たる。
諦めたようにため息。それから東屋に向かう。
そこへ──
ぽこぽこぽこ。
足音が近づいてくる。
視線を向ければ、傘も差さず東屋に向かって走る女子高生が一人。
後を追うように遙が東屋につけば、先に辿り付いた女子高生が
はうはうと整わない呼吸をおさえつけるようにしている。
東屋の下で
-------------------
遙 :「──ふぅ。梅雨時は、これだから厭だな」
先客の女子高生に気を使いつつ、雨滴を払いながら呟く。
それから失礼にならない程度に視線を向ければ──
視線が合った。
どうやら遙の呟きが、独白か話し掛けられたのか──
判断に迷っているらしい。
遙 :「こんばんは、かな。もうこの時間だと」
同じ不運に見舞われた同士,同病相憐れむと言った感じの軽い親近感を
こめて、軽く会釈。
千緒 :「こんばんは〜」
女子高生──千緒も会釈を返す。
手に提げた買い物袋は雑貨屋のもの。遙と同様、お買い物三昧の日曜日
だったらしい。
買い物袋からは新品の和傘が覗いていた。
柄も骨もしなやかな竹。傘に張った紙は深い蘇芳の油紙。
ふと、遙は思い出す。
傘に付けられていた値札兼説明書きには──
『中骨と柄の洞にはグラスファイバーを使用してます。丈夫で長持ち,
浴衣にもぴったり \5,800-』
そんな風に書いてあった。
雨滴があたる音が優しそうで悪くないな、と思って手にとろうとしたら、
ちょうど同じタイミングで手を出した女の子が居た。
遙 :「あぁ──もしかすると、あの時の?」
千緒 :「えう?」
不意を突かれたように千緒。
会ったことがあったか──慌てて記憶を手繰る。
和傘を買ったとき、同時に手にとった女の人がいた。一点物だったから
取り合いになるかと思ったら、あっさり譲られて無事に購入──
その時の女の人だ。
千緒 :「あーっ、あの時の。ほんまにおおきにぃ。奇遇ですねえ」
遙 :「やっぱり、その和傘はさすのは勿体無い?」
にこにこと千緒が笑顔を向ければ、遙も優しい笑顔で返す。
千緒 :「そうですよー。濡れるやないですか」
遙 :「傘は濡れるためにあるんだ──なんて男なら言うところだろう
: けど。
: もったいないよね。そんなに綺麗な傘を雨にぬらすなんて」
千緒 :「あほやねん。それはそれとして、おろす時の心の準備が」
遙 :「──わたしもそう思う」
千緒の言葉に、遙は共感したように頷いた。
千緒 :「ねー。はよやまへんかなー」
遙 :「やまない──みたいだな」
二人揃って雨を見上げる。
遙 :「家は、どっちの方?」
千緒 :「京大のほうです」
遙 :「もし良かったら、わたしの傘に入っていかないか? お互い
: 荷物が多いから、少し狭いかもしれないが」
千緒 :「あ、ほんならお願いします」
相合傘
-------------------
ばさっ。
アイスグレイ地に薄紫の花柄の傘が広がる。
女性二人でも荷物が入れば手狭なサイズ。それでも肩を寄せればなんとか
なる。
遙 :「なら、行こう」
千緒 :「はーい」
千緒を招き寄せて歩き出す。
遙の身長は172cm,千緒の身長が159.5cmだから、その差は10cm強という
ところ。見るからに千緒の方が歩幅が小さい。
それで、千緒はそれとなく頑張ろうとした──けれど遙の方でも、千緒の
歩幅に合わせて、スローダウン。
千緒 :「あ、おかまいなく」
遙 :「──ムリはしない方がいい。転んだら、お気に入りの服が
: 汚れるよ?」
それとなく千緒の洋服を見て、あたりをつけて。
千緒 :「転びませんよう。早足くらいで」
千緒は、誤魔化すように照れるように、てへへと笑う。
遙 :「──そう?」
遙は微妙な表情で頷いた。
それから少しだけ──ほんの少しだけ足を早めた。
ダンディレディ
-------------------
遙 :「わたしの名前は西園寺 遙。あなたの名前を聞いてもかまわない
: かな?
: 同じ肩を寄せるなら、名前を知ってる人の方が嬉しいのだけど」
千緒 :「あ。えーと、藤咲千緒です」
遙 :「いい名前だね」
また優しい笑顔で頷く。
千緒 :「やー、それほどでも。なんか渋いですねー。映画の俳優さん
: みたいやー」
遙 :「──」
不意の一言に、遙は面食らった表情。
遙 :「そう──? そんなことないと思うけど」
: それに──俳優って言われるよりは女優と言われたほうが
: 嬉しいな。どちらかといえば」
千緒 :「なんか台詞回しが色男な感じ」
遙 :「そうだね──少し、喋り方が女らしくないとは弟にも言われる」
弟のことを思い出して、遙の表情が優しくゆるむ。
千緒 :「見た目は女優みたいですよー」
: 背ぇ高いし、女子高とかおったらキャー言われますよ」
自分の言葉に合わせて、千緒はキャーっと表情を作る。まるで人気俳優に
でも出会った時みたいな顔だ。
遙 :「女子高生にもてても嬉しくないかな」
遙は苦笑い。
千緒 :「あははは」
遙 :「まぁ、妙な男にもてても、やっぱり嬉しくないけれど」
千緒 :「あー、寄ってきそう寄ってきそう」
遙 :「でも、そういう千緒ちゃんももてるんじゃないか?
: たいていの男は、千緒ちゃんみたいに可愛らしい女の子の方が
: 好きみたいだし。わたしみたいな大女だと、男のほうが怖がって
: よってこない」
今度は冗談を言って含み笑い。
千緒 :「やー、そんなことないですよ。見た目に騙されない人がきっと
: います」
遙 :「そうかな? そうだと嬉しいね」
ぶんぶんと頭を振って言う千緒。
横目にほんの一瞬だけ何かを思い出したような遙の顔を見た。多分、むかし
自分をこっぴどく振った男を思い出したのだろう──それを読み取った。
自分も似たような思いをしたことがあったから。
ハンサムガール
----------------
千緒 :「(きゃー。オ・ト・ナ☆な表情やー)」
遙 :「──どうかした?」
ぶんぶんと頭を振る千緒に、遙が声を掛けた。
自分でも、表情に出たのが分かったのだろう。少しバツの悪そうな顔を
している。
千緒 :「えう? ううん?」
ナニモナイヨー。
なんて、千緒は誤魔化そうとしたけれど、しっかり顔に出てしまって誤魔化
しようもない。
それで遙は思いついて──
遙 :「わたしに隠し事する気だね? いいから白状してごらん」
おどけて、芝居がかったように言ってみる。
千緒 :「いや……そんなの恥ずかしい……」
すかさず遙の意図を読んで千緒も乗ってくる。高校の友達とよくやるから、
こういうコトは慣れている。
遙 :「さぁ、怒らないから。子猫ちゃん」
そうなれば遙も悪ノリしてしまう。じっと瞳を覗き込んで囁きかける。
千緒 :「……そのムネ、養殖じゃなくて自家栽培なのかなって……」
千緒もさるもの。唐突なことを言って、恥ずかしそうに目を背ける。
表情は真剣そのものだ。
遙 :「────?」
一瞬、遙は千緒の唐突さについていけずフリーズ。
それから──
遙 :「──ぷっ。わはははははっ」
お腹を抱えて笑い出す。
お手入れと男を見る眼
-------------------
千緒 :「勝った〜〜〜♪」
遙 :「千緒ちゃんの勝ち。いきなりそんなコト言い出すなんて
: 反則だよ」
笑いをこらえて──でも、目の端に涙をためて。
千緒 :「えへ」
遙 :「ちなみにご期待に添えるかは分からないけれど、この胸は自前」
千緒 :「うーわー。おがんどこ。なむなむ」
遙 :「千緒ちゃんもよく食べて、よく運動すれば、すぐにこうなるよ」
千緒 :「がーん。ほな運動部の人はみんなやーん」
遙 :「特に中国拳法なんか良いと思うな」
千緒 :「むう。中国とか漢方とかって得体の知れない説得力があります
: ねぇ」
遙 :「そんなに得体のしれないものでもない、かな。わたしのやった
: 感じだと。
: ちゃんとした老師につけば、ちゃんと納得がいくように教えて
: くれる」
千緒 :「中国拳法とかやってはるんですか?」
遙 :「どう、やってみる?」
また冗談めかして言ってみる。
千緒 :「体動かすのはちょっと」
千緒は誤魔化すようにまた、てへへと笑って応えた。
遙 :「中国拳法はともかく、少しは運動しておいた方がいいと思うな。
: 10代のうちはともかく、20代も半ばを過ぎると、非道いコトになる
: から」
やっぱり冗談めかして遙。
千緒 :「ど、どんな?(どきどき)」
遙 :「お肌のトラブル,下腹のゆるみ,二の腕のたるみに、胸のたるみ
: ──まだまだあるけど、聞きたい?」
ちょっと迫力のある笑顔で、にっこりと千緒に問う。
千緒 :「ぎゃー」
遙 :「大人の女、からの忠告」
ちょっと大げさな仕草で千緒。そんな千緒にくすりと笑いかけて遙が畳み
かける。
遙 :「お手入れは10代のうちから欠かさないことだね。あとは男を見る
: 眼も、かな」
言葉の後半で、一瞬だけ陰りを見せて。
そんな遙に、千緒はただ「うんうん」と頷く。
陰りには気づいたけれど、そこには触れない。
お見送り
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遙 :「──さて。駅につきましたよ、お嬢さん」
屋根のあるところまで行って足を止め、中に千緒を促してから傘を閉じる。
千緒 :「はい。ありがとうございました」
遙 :「また会えるといいな」
ぺこりと頭を下げる千緒に、遙がナンパ男みたいな台詞。
千緒 :「ご縁があればー」
ひたすらにこにこ。ナンパ男はスルーって顔で、千緒が応える。
千緒 :「こんな感じ?」
遙 :「そうそう。悪い男に引っかからないようにね」
千緒と遙、二人で悪戯っぽく笑いながら顔を見合わせる。
まるでちょっとした秘密を共有しあった姉妹みたいに。
千緒 :「まーかせてっ。ほなおおきにー」
遙 :「じゃぁね」
Vサインして駅の構内に走っていく千緒。それを見送って遙は軽く手を振る。
それから千緒の背中が構内に消えたのを見届けて、背を向け──
傘を広げて遙は雨の中、歩き出した。
時系列と舞台
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2003年6月後半、とある雨の日曜日。
吹利市の商業地区近くの公園にて。
解説
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とある雨の日曜日、少女漫画みたいな1コマ。
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