[KATARIBE 25861] [IC04N] 小説『ホワイトデーのお返しは』

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Date: Sat, 15 Mar 2003 02:29:41 +0900
From: KATARIBE Designer  FURUTANI Shun-ichi <sf@kataribe.com>
Subject: [KATARIBE 25861] [IC04N] 小説『ホワイトデーのお返しは』
To: kataribe-ml@trpg.net
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 2003-03-14 21:00〜2003-03-15 2:30の実質4時間近くかな? うーん、い
ろいろと錆ついてる。
 まあ「すぐやる、すぐ出す」ということで。

 まあ、リハビリしよう。目標は100行ちょい原稿用紙10枚程度を一時間。あ
たりかな。これくらい書ければ、毎日量産できるでしょうとか目論んでみる。


[IC04N] 小説『ホワイトデーのお返しは』
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登場人物
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 西晴美(にし・はるみ)	: 
	:ネジ蒐集会(会員一名)会長。
	:外ズレした(無限都市なれし過ぎた)三年生。

ホワイトデーらしい日の放課後
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 寒の戻りなんてもの、季節なんて縁のないような無限都市にあるのが不思議
な気もするけど。あの日は、その寒の戻りの三月十四日だったわね。通ってる
教室や廊下ビルの日めくりカレンダーが三月十四日になっていて、校内ラジオ
が寒の戻りとささやいていた日。

 でさあ、本日は死亡逃亡あわせて五人なーりと、授業も平穏ご無事に終わっ
ちゃって。ふっとおつむのネジが緩んでたんじゃないかなと思う。待ち伏せに
気がつかないなんて、お外あがりの晴美さんとしちゃ情けない限りよね。そん
なことじゃあ、いくら死んでも死に足りないもの。

「これ、チョコのお返しです」と廊下の曲がり角から、出てきて一言。
「は?」と声を返すまもなく、男子生徒は逃げ去ってたわ。

 嫌よね、ネジの緩い時にはとことん緩いんだから。ひとつき前にはチョコ爆
弾が大流行してたってのにね。ま、あたしもチョコまみれで死ぬ男どもを見て
喜んでた口だけどさ。
 でも、そこはそれ。うっかり受け取ってしまった包みは躊躇なく放り出して
ドライバーをポーチから引き抜き。そこらへんの生徒を盾にしたらば準備万端、
生徒の背中のネジを、ちょいとばかり捻ってやれば立派な防爆生徒のできあが
りってのも、お手の物で。あたしを殺したいなら原爆でも持ってきなさい、っ
てとこよね。頼りになるわよ、あたしは。
 このドライバー、昔、無限都市に来るよりも前、普通に生活していた頃にさ。
はじめて買ってもらった工具セットの生き残りなんだ。あたしの、なんての、
“心のより所”なんだって。核アイテム、なんて呼ばれてるあれよ。おかげさ
まで人間をバリアみたいなモノのに改造できたりして、とっても便利。かよわ
い乙女が、こんな変な都市で過ごせるのも、このドライバーのおかげよね。

 そして、一秒、二秒……三秒と数えたけど。結局、包みには危険を示すネジ
も見当たらなくて、危険物じゃなかったみたいね。ちょっと過剰に対応しすぎ
たってわけ。だけど、無限都市で生き延びるにはこのくらい当然かな。いま居
る学園塔、コルチキンタワーとかいうとこは、死亡率が五割を越えないみたい
だし、外ほど危険じゃあないんだけど。やっぱ、昔の癖は直んないし、直さな
いほうがいいと思うのよね。あんたも気をつけたほうがいいよ。
 もう生きてない防爆(用に仕立てられちゃった)生徒くんには悪かったけど、
あたしの安心代になったんだから、おめでとうってとこでいいわよね。サイン
ペンを取りだして、お・め・で・と・う、と律義に書いといたの。あたしって
ば可愛いとこもあるでしょ。ね。


貰えるものは漁ってみよう
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 でさ、そのお返しとやらの中身を改めてみたわけよ。固く縛ったリボンも、
こんなふうにドライバーで一ひねりすれば、箱ごと解体できるってわけ。あ、
あのときは、こんなふうに中身まで解体はしなかったのよ、ごめん。
 中には、メッセージカード。平々凡々な、だけどちょっと高級な、シルクの
ハンカチ。そして長い髪を巻き上げてる人形が入ってたわ。その人形、やなこ
とに、ちょっぴりあたしに似ていなくもなかったの。

 困ったもんよね。「わたしも、あなたを愛しています。あなたを思い、大切
なこの人形を贈ります」とかメッセージカードに書いてたし。わたし「も」っ
て、このあたしが、あんな男に、愛していますとでも言ったっての? って、
もう、ちりちり来たわ。誰かに義理チョコだの、本命チョコだのを、あげたり
した記憶なんてのは、これっぽっちも思いだせなかったし。
 ぎりぎりぎり。っと頭のネジを閉め直してみたけど、やっぱ覚えがなくてさ。
この今の、あたし自身が渡したわけはないってことで、一安心。なんせ世界を
まともにするのに必要なネジを探して忙しいわけでさ、当然なのよね。

 ま、無限都市には「あたしじゃないあたし」が居るのは、戦ったり死体を片
づけたり、あげく食べる羽目になったこともあるんだから、良くわかってるん
だけどさ。……嘘じゃないわよ。コルチキンタワーでは、出くわす機会はほと
んどないみたいだけど、外ならもっと酷いこともあるみたいね。
 でもさあ、あたしでないあたしにしても、あの線が細くてひよった男に?
 なんか趣味悪っ。と自己嫌悪したものよ。ああ、あたしじゃないあたしでも
自己なのかなあ?


平凡な、03月15日っぽいある日
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 でまあ、ハンカチはありがたく頂いて、人形とカードは気持ち悪いので窓か
らポイ。悪用されるかもと思うと、なんかやだったし。

 で、とりあえず死なずに翌日を迎えて、いつものように教室へ向かううと、
空気の気持ち良い朝だったわね。昨日まで通っていた教室が行方不明になって
たので適当なクラスにまぎれこんだのも、いつも通りの無限都市の《学園》ら
しい日常ってとこよね。

 窓際の席を占拠して……奪い合いで三人ばかり窓の外に去ってもらったけど。
のんびり授業を受けて。前の席の生徒が担任に逆らって吊るされたのを掃除す
るのも手伝ってと、いたって真面目に学生らしく午前中を過ごしてさ。昼食を
確保すべく食堂を探してうろついていたらね。居たのよ。
 わかる? そう、あたしに人形を贈ってきた変態男。

 当然さっくりと尋問してみようと思ったわけ。でもね。うん、同一人物だっ
たのかはわかんないけどさ、エキストラになっちゃってたのよ。自我もなく、
ただ提携の行動を繰り返すだけのあれね。ロボットだとか人工無能だとか言わ
れてる、良くいるやつら。核アイテムとかいうやつを無くしてしまうと、ああ
なっちゃうんだってさ。気をつけたほうがいいよ。

 でさ、そこで知り合いだったって奴に聞いたんだけど、その男、“心の支え”
がその人形だったんだってさ。核アイテムなのに贈ってしまうくらいにあたし
に惚れてたってのは、正直悪かない気分だけどさ。やっぱ変だよねぇ。


ある男の日記
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 三月十三日。
 無限都市に来て、もう二ヶ月になるだろうか。バレンタインデーにチョコレー
トをもらった時の恐怖は良く覚えている。もらったからには、ホワイトデーに
プレゼントを贈らねばならない。たとえ、それが精神の死を意味していようと
も、僕の核アイテムを渡さねばならないのだ。
 そう、僕の核アイテムは「ホワイトデーのプレゼント」なんだ。
 渡さないと「ホワイトデーのプレゼント」としての機能を果たせなくて、存
在意義ごと崩壊してしまう。だけど、渡すと“心のより所”が失われてしまう
わけだ。渡しても渡さなくてもエキストラ行きじゃあないか……。


時系列と舞台
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 コルチキンタワーのどこか。
 気にいった新入りに無限都市の解説をしている西晴美。

解説
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 自分墓場に出くわし、あるいは自分自身との決闘を乗り越え、いささか狂っ
たところで執着にしがみついて自我を保っている人物像。といったところ。
 あとまあ、落ちの間抜けな核アイテムネタは、色々と話作りに便利そうです。


$$



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