[KATARIBE 25778] [HA20N] 小説:『雪に咲く花』(3)

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Date: Thu, 27 Feb 2003 23:29:00 +0900 (JST)
From: みぶろ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25778] [HA20N] 小説:『雪に咲く花』(3)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200302271429.XAA44748@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25778

2003年02月27日:23時28分59秒
Sub:[HA20N]小説:『雪に咲く花』(3):
From:みぶろ


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小説:『雪に咲く花』
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登場人物
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 当麻 漣(たいま れん)         
      :寄生した怪異を操って退魔稼業を行う高校生。
 大田 恭一(おおた きょういち)
      :大田家の戸主。妻が怪奇現象で衰弱していると考え、漣に依頼する。
    実可子(みかこ)
      :恭一の妻。怪異に悩まされる。
    美雪(みゆき)
      :恭一の義理の姉。
    節子(せつこ)
      :恭一と美雪の母。

時系列と舞台
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 冬 深夜 

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本文
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  美雪が出て行って三十分。実可子が眠るのを待っていたように、恭一が小
 さく聞いた。
  「あの、何かわかりましたか?」
  「は? いや、私は退治に来たので、正体だとかそういうことには興味は
 ありませんね」
  「はあ……」
  「病名や何故罹患(りかん)したかを知らなくても、的確な薬さえ処方す
 れば治るようなものです」
  「……そうですか」
  恭一の顔にはやや不満が残っているようだったが、漣は放っておくことに
 した。どのみち説明してもわかるまい。
  「それより、恭一さんもおやすみになってかまいませんよ」
  「いえ。起きてます」
  「ご自由に」
  そう言って漣は腕を組んで目を閉じた。こうしていても屋敷内のことは手
 にとるようにわかるし、眠ってしまうこともない。煙草を吸いたかったが、
 さすがに病人の前で吸うのは――正確にはその様子を見られるのは――はば
 かられた。
  恭一がちらちらと漣をのほうをうかがっている。儀式めいたことをするで
 もなく、眠ってしまったように見えるからだろう。
  「退屈ですか?」
  「あ、いえ」
  「……布団を見てください」
  恭一は実可子の布団を見た。掛け布団の上に二重の円と三角形を二つ組み
 合わせたような模様が青く浮かび上がり、消えた。
  「既に術はかけております。ご安心を」
  『夜光虫』にヘキサグラムの形をとらせただけの悪戯であり、実際の効果
 はない。しかし、こうしたケレンも依頼人の信頼につながることがある。事
 実恭一はやっと安心した表情で窓際にもたれ、実可子に集中し始めた。
  三人の呼吸音と時計の音だけが寝室を支配する。  
  漣は実可子に憑いているものの正体について考えた。興味は無いと言い切
 ったが、やはりわかっているのとそうでないのでは対峙した時に差が出る。
  呪殺。この可能性は低い。異変が起こり始めてから二週間というのは長す
 ぎるのだ。しかも日によって起きたり起きなかったりというのも珍しい部類
 であろう。可能性は皆無では無いが、とりあえず違うと考えてよい。
  土地あるいは家に憑く怪異。これも違いそうだ。『夜光虫』で捜査させた
 が、半径百メートル内にそうした存在や特異点は発見できなかった。
  結局、どこかで祟り神でも拾ってきた線が濃い。あるいは実可子の体内の
 モノか。どのみち、現時点では特定のしようがなかった。
  おかしなことはまだある。術師をその日のうちに殺す力があるのに、肝心
 の標的――この仮定が誤っていることもあるが――を殺すのに時間がかかっ
 ているのは何故か。
  (何か……見落としていることは無いか……?)
  煙草が吸えないので、考えがまとまらない気がした。

                 ※                 

  実可子さんがあんなことになってから、わたくしもなかなか寝つけないよ
 うになりました。次は、わたくしの番ではなかろうかと、とても不安で。
  今日は特に、家の中に何かが充満している気がして。
  余計なものが見えないように、目を閉じてしまいましょう。
  まぶたの裏に、舞い落ちる雪を思い浮かべます。ひつじの代わりに。外に
 は今も本物の雪が降っているのでしょうか。
  …………。
  ……そういえば、父の葬儀の時も雪でした。恭ちゃんが帰ってきてくれて
 嬉しくて。婚約者がいると聞いたときにはびっくりしましたが。実可子さん
 も明るい、いい人で。
  ああ、いけない。このまま眠っては。きっと夢を見てしまう。
  いやな夢を。

               ――続――               

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