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Date: Thu, 27 Feb 2003 23:27:04 +0900 (JST)
From: みぶろ <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25777] [HA20N] 小説:『雪に咲く花』(2)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200302271427.XAA44648@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25777
2003年02月27日:23時27分04秒
Sub:[HA20N]小説:『雪に咲く花』(2):
From:みぶろ
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小説:『雪に咲く花』
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登場人物
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当麻 漣(たいま れん)
:寄生した怪異を操って退魔稼業を行う高校生。
大田 恭一(おおた きょういち)
:大田家の戸主。妻が怪奇現象で衰弱していると考え、漣に依頼する。
実可子(みかこ)
:恭一の妻。怪異に悩まされる。
美雪(みゆき)
:恭一の義理の姉。
節子(せつこ)
:恭一と美雪の母。
時系列と舞台
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冬 深夜
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本文
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「十日ほど前から、妻が夜うなされるようになりました」
応接間で漣の対面に座った男は、太田恭一(おおた きょういち)と名乗
り、ゆっくりと喋り始めた。大きな座卓には漣と恭一だけが座り、彼の母で
ある節子(せつこ)と姉の美雪(みゆき)は恭一の後ろに控えていた。漣を
除けば最も若い――美雪より2、3歳年下に見える――のだが。おそらく、
農家の戸主として、昔らしく立てられているのだろう。
彼らは漣の若さに驚いたが、依頼した退魔組織から聞いてはいるのだろう、
詮索してくることは無かった。
「うなされている物音で、目は覚めるのですが、体が動かないのです」
ここ十日の経緯を順序良く話していく。異変は毎日起こる訳では無いこと。
病院に連れて行ったが、効果のないこと。恭一の妻――実可子(みかこ)が
急速に衰弱していくこと……。
わけのわからない事態を、苦心して整理したようだ。恭一の話は要点を外
さず、理解しやすかった。妻の身を案じる様子も有り有りと感じられる。後
ろでは美雪が暗い表情で見守っていた。
漣は静かに訊いた。
「既に術師に見せたとか」
ええ……と恭一はしばらく言いよどむ。漣に遠慮したのか、その術師に起
きたことを思い出したのか。
「その、母のつてで、霊力があるという人に見て頂きました。祈祷中には
特になにも起こらなかったのですが……夜中にやはり実可子がうなされ始め
まして。……翌朝、その人は亡くなってました。心臓麻痺だったそうです」
昨日は警察の事情聴取で大変でした、とつけくわえた。
漣は恭一の話を聞きながら、そろそろと『夜光虫』を放った。人の目では
見ることの出来ない微細な蟲達は、大田家とその周辺に散らばり、漣にさま
ざまな情報を送ってくる。一階の奥に人間が一人。これは恭一の妻、実可子
だろう。その他不審物はない。
「恭一さん。以前はどこにお勤めでしたか?」
恭一は漣の見当違いな質問に驚いたようだが、すぐに微笑みながら答えた。
「大阪の医療器具メーカーに。営業をしていました」
漣は得心が行った。××町の人間には失礼な話だが、恭一の物腰は妙に垢
抜けており、話し方も、初対面の人間に対して説明するのに慣れた感じであ
ったからだ。
「あの……それが何か」
「いえ、この件が呪殺だとするなら、何かわかるかと思いまして」
「実可子は、誰かに恨まれるような女では……」
「そうですか。あとは、この土地に憑く何か、という可能性もあります。
恭一さんはどうしてここへ帰ってこられたのですか?」
漣としては、単に気になったので聞いただけであったのだが、今更後へは
引けない。正直全く興味はなかったのだが、できるだけもっともらしく訊い
た。
「ええ。父が亡くなりまして。農家の跡を継ぐつもりはなかったのですが
……やはり世話になりましたから。私は養子なんですよ」
そこで恭一は後ろを振り返り続けた。
「本当の子供はこの美雪ちゃんだけで」
美雪が会釈する。
漣は、何故婿養子にならなかったのかを訊きたかったが、さすがに失礼に
当る気がしてやめた。
「恭ちゃん。当麻さん、きっと」
美雪が恭一をうながした。
「あの、確かに血は繋がってませんが、私が養子にきたのは6歳の時でし
て……婿養子のこととか考えませんでしたか?」
「……図星です」
漣は照れ隠しに茶碗を取った。出された茶はとっくに冷めていたのだが。
場がほぐれたことに安心したのか、節子も口を挟んでくる。
「美雪が婿を貰やぁ、恭一が会社をやめんで済んだんやけど。お前がもて
んから」
「美雪ちゃん、美人なのになぁ」
恭一の言葉に、美雪は困ったような笑顔を作った。
「婿養子を条件に出したら、引かれちゃうんですよ。もてないわけじゃ、
ありません」
※
柱時計が十一時を告げた。
おそろしくアナクロながら、天井が高く、梁が剥き出しになったこの家に
は似合っている。
その音を潮にして、漣は話を切り上げ、実可子の元に案内してもらうこと
にした。
きい、きいと軋む廊下を恭一と歩く。実可子は三日前から寝たきりになっ
ているとのことだった。
「実可子、入るよ」
恭一が声をかけ、寝室に入る。
寝室には常夜燈がわりのグローランプだけがついていた。とても暗い。
黄ばんだ畳の上に布団が敷いてあり、恭一と同い年の女性が横たわってい
る。恭一が布団の傍に寄り、手を握ると、実可子はゆっくりと漣のほうを向
いた。
「よろしく……お願いします」
この切羽詰った状況で、頼みの綱が高校生の拝み屋とは、不安だろうなと、
漣は彼女らの心中を推し量った。
わざとそっけなくうなづき、『夜光虫』で実可子を精査する。特に不自然
な力は働いていない。ただ、鼓動が……二つ。これは?
寝室のふすまがノックされた。
「あの、お薬を。今晩はまだ飲んでないから……」
美雪が入ってきて、二人のほうを伺う。
恭一が漣に遠慮がちに聞いた。
「精神安定剤なんですが……不要でしょうか」
「いえ。お疲れでしょうから、どうぞ」
漣はあっさりと言い、美雪のために場所を空けた。
湯飲みと薬を盆に載せた美雪が静かに座る。漣はさりげなく薬の番号をチ
ェックした。夜目が聞く上に、夜は視力そのものも増大する。以前精神科に
通った時に記憶した、幾つかのマイナートランキライザーの番号と照合した。
美雪を疑っているわけでは無いが、さすがに目の前で毒や呪具を飲まされ
たのでは沽券に関わるからだ。
ただの精神安定剤――しかも気休めに近いもの――だった。
実可子の口元からたれた白湯を拭ってやる美雪。
「義姉さん、ありがとう」
かすれた声で礼を言う実可子に、元気出してね、と暖かく声をかけた美雪
は、漣に深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
――続――
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