[KATARIBE 25776] [HA20N] 小説:『雪に咲く花』(1)

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Date: Thu, 27 Feb 2003 23:24:40 +0900 (JST)
From: みぶろ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25776] [HA20N] 小説:『雪に咲く花』(1)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200302271424.XAA44562@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25776

2003年02月27日:23時24分40秒
Sub:[HA20N]小説:『雪に咲く花』(1):
From:みぶろ


 みぶろです。
 小説など書いて見ました。
 学園退魔じゃない気がする。

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小説:『雪に咲く花』
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登場人物
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 当麻 漣(たいま れん)         
      :寄生した怪異を操って退魔稼業を行う高校生。
 大田 恭一(おおた きょういち)
      :大田家の戸主。妻が怪奇現象で衰弱していると考え、漣に依頼する。
    実可子(みかこ)
      :恭一の妻。怪異に悩まされる。
    美雪(みゆき)
      :恭一の義理の姉。
    節子(せつこ)
      :恭一と美雪の母。

時系列と舞台
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 冬 深夜 

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本文
----

  さら、さら、さらさらさら、さら、さ。
  退魔師の方を出迎えようと、玄関に出ましたら、雪がうっすらと積もって
 おりました。
  天気予報では、明朝まで降り続けるとのこと。
  雪など見慣れておりますが、わたくしは傘を差して、しばらく庭に降る雪
 を見つめておりました。
  無限に落ちてくる白い切片が、門灯の明かりに照らされる様。
  庭木に積もる時に立てる、わずかな音。
  ツバキ、クチナシ、キンモクセイ。ヒイラギ、ナンテン、ユキノシタ。
  さら、さら、さらさらさら、さら、さ。

  吐く息が白くなくなった頃でしょうか。
  バスが獰猛な音を立てて通り過ぎ、ほどなくして退魔師の方がいらっしゃ
 いました。
  すぐに、わかりました。身にまとう雰囲気が違うというのでしょうか。も
 ちろん、思い過ごしかもしれませんが。黒いインバネスコートを羽織ってら
 っしゃったので、本当に闇の中から現れたように思えたのです。
  まだ若い方です。煙草を吸ってらっしゃったから大学生でしょうか。犀利
 な表情の下に、やや幼さが残っているように見えました。

  「お疲れ様でした。コートをおかけしましょう」
  「当麻です」

  彼は短く挨拶をして、咥えていた煙草を右手で握りつぶしました。あんな
 ことをして熱くないのでしょうか。
  わたくしは母を呼び、退魔師の方のご案内をまかせ、彼が捨てた吸殻を探
 しました。
  見つかりませんでした。

  ふいに、怖くなりました。
  バス停からわたくし達の家まで五十メートル程度。どうしてコートに雪が
 積もってないのでしょう。
  どうして煙草の匂いがしなかったのでしょう。
  そして、どうしてあの人の体はぼやけて見えたのでしょう。
  開いた右手に吸殻がなかったのは何故でしょう。
  息苦しくなりながらも、なお吸殻を探すわたくしを、中から恭ちゃんが呼
 びました。わたくしはやっとあきらめ、玄関に入りました。雪は降り止みま
 せん。
  さら、さら、さらさらさら。

  このくらい怖くなくては、悪霊などと戦えないのでしょうね。
  わたくしは、そっと玄関を閉めました。さら、さ。

                 ※                 

  バスは折からの積雪で徐行運転を強いられていた。××町に入ってから、
 ビルはおろか、民家ですらまばらになっている。たまにある街灯に、広大な
 雪原がそこだけ白く白く照らし出されている。段差に積もった畝やあぜ道の
 名残から、かすかにその雪原が畑だと知れた。
  教えられた停留所で降りる。バスは慌ただしく発車し、道に黒い排気ガス
 の跡を残した。やがて、降りそそぐ雪がそれを隠していく。
  漣は停留所から一番近い家に向かって歩き出した。ポケットから煙草を取
 り出し、火をつける。車内で一時間半禁煙を強いられたのだ。そして、依頼
 者の家で吸えるとは限らない。自分の煙草から煙など出ないのに。
  さく、さくと、歩く度に小気味良い音がする。傘は差してないが、雪が漣
 を濡らすことはなかった。彼に近づき、注意深く観察するものがいれば、雪
 の小片が、彼にかかる直前に次々と消えていくのが見えただろう。暗く、淡
 く、青い光が踊っているのも。

  到着したのは大きな農家だった。庭もなかなか広い。塀に沿って内側に、
 様々な庭木が植えられている。雪が積もっていて、椿と柊程度しか見分けが
 つかなかったが。もっとも、雪がなくとも漣には分からなかったに違いない。
  玄関で女性が傘を指して待っていた。二十七、八くらいだろうか。儚げな、
 美しい女性だった。
  「お疲れ様でした。コートをおかけしましょう」
  「当麻です」
  短く挨拶をして、着ていたコートを手渡す。煙草を右手に握り、彼の飼う
 妖魔に喰わせる。
  案内されるままに、家に入った。
  もし霊感のある人間ならば、必ず拒んだであろう。それほどまでに、この
 農家は重い雰囲気を放っていた。霊気と言うか妖気と言うかは、人によって
 違うだろうが。
  しかし、漣に霊感は無い。彼にできるのは霊的存在を感知すること、そし
 てそれを消滅させること。
  彼は、除霊にきたのだった。

               ――続――               

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