[KATARIBE 25653] [HA06N] 小説『霊組教室』

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Date: Wed, 12 Feb 2003 00:15:17 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25653] [HA06N] 小説『霊組教室』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200302111515.AAA99270@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25653

2003年02月12日:00時15分17秒
Sub:[HA06N]小説『霊組教室』:
From:月影れあな


 うぃっす、月影れあな。

 零組教室なショートです。学校の怪談っぽく書くつもりでしたが、なんか違
う風になってしまいました。これはこれでいいか。


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小説『霊組教室』
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幸子
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 あるはずの無い教室の話ですか? いえ、多分あれは夢だったんです。私の
願望が見せた幻覚か何か、そう思うことにしてます。
 ええ、去年の春です。その日私は、期末前の提出物を学校に置き忘れてしまっ
て夜遅く学校に行ってたんです。はい、怖かったですけど、幽霊とかあまり信
じない性質でしたし、それに提出日明日で、英語は成績も悪くて……あっ、関
係ありませんね。とにかく、それで学校に行ったんです。
 事務員さんに頼み込んで鍵を貸してもらって、プリントを見つけて、教室を
出たときでした。笑い声が、聞こえたんです。それも、聞き覚えのある声みた
いでした。時計を見たらもう零時零分になっていて、こんな時間にまだ人がい
るんだと思って、好奇心もありました。何故こんな時間に学校にいるんだろうっ
て。それで、ちょっと見てみたくなったんです。声の聞こえるほうに行くと、
それは一組の右隣の教室から聞こえてきてたんです。おかしいでしょう? 一
組の右隣に教室なんかあるはずも無いのに。でも、その教室はちゃんとあって、
二年零組って書かれていました。私が恐る恐るドアを開けると、教室には一人
の女の子が立っていたんです。それを見て、私は心臓が止まるかと思いました。
だって、そこにたっていたその人は、一週間前に交通事故で死んじゃった、親
友の美都子だったんです。私が唖然として立っていると、美都子はなんでもな
い風に手を振って「やっ、さっち」って言いました。それはとっても自然な笑
顔で、思わず私も「みっちゃん、こんばんわ」って返事をしていました。
 みっちゃん、生きてたのって聞くと、美都子は「何でそんな事言うかな?
あたりまえじゃん」って言ってまた笑いました。それで私はなんでだか本当に、
何でそんなこと思ったんだろうって、わからなくなりました。私たちはそれか
ら、ごく普通に世間話をしてと話をして、当たり前のように課題の分からない
ところを聞いて、セクハラまがいの嫌がらせをしてくる体育教師に対する愚痴
をこぼしあって……ふと、時計を見たら、零時零分ぴったりを刺してました。
それでようやく我に返ったんです。私は怖くて席を立ちました。腕の端に机が
当たって、大きな音を立てたのを憶えてます。美都子を見たら、相変わらずニ
コニコして「どうしたの?」と聞いてきました。
 「やっぱりあなたは死んだのに」私が言うと、美都子は頷いて言いました。
「そうよ、でも、それがどうしたって言うの? 私たち友達でしょ? このま
まずっと、一緒に面白おかしく暮らそうよ」私はそれを聞いて、ぞっとしまし
た。それは、私が考えた事でもあったからです。美都子が死んだとき、私も一
緒に死んで、天国で一緒に暮らせたらな。とか、本気でそう思ったんです。で
も……
 「ちがう、あなたはみっちゃんじゃない。みっちゃんなら絶対にそんな事言
わないもの。みっちゃんなら、そんなこと言った私をぶっ叩いて馬鹿な事を言
うなって言ってくれる!」私が叫んだ時、ずっと微笑んでいたその娘の表情が
一瞬だけ揺らいだ気がしました。なんだか、泣いているような、笑っているよ
うな、怒っているようなそんな風な。でもそれは一瞬だけで、すぐに元に戻っ
たんです。「そうよ」その娘は言いました「あたしはみっちゃんじゃない」
 それを聞いて私は駆け出しました。ここにいてはいけないと思ったんです。
後ろは振り返りませんでした。走って、走って、気が付いたら家でした。私は
何故だか涙が出てきて、迎えに出てきたお母さんに抱きついて泣きながら、そ
のまま持って帰ってきてしまった鍵を明日事務員さんに謝って返さなくちゃい
けないなとか、間の抜けた事を考えていたんです。

美都子
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「本当に、これで良かったの?」
 骨格標本の女の子が後ろで心配そうに聞いてきたので、あたしは精一杯元気
な声を作って答えた。
「当たり前でしょ。これでやっとさっちも吹っ切れただろうし」
「でも、もしもあの娘が、あそこで一緒に来たいって言ったら、あなたどうす
るつもりだったの?」
 息がつまりまった。そう、あたしはそうなったらどうしていたんだろう。
「どうだろうねぇ」
 曖昧に笑って誤魔化す。
「さっちがそう信じてるんだから、あたしはそんな事しないよ。しちゃいけな
いんだ。それが、あたしだから」
「そう……」
 あたしは明りの灯らない蛍光灯を見上げて考えた。幸子はもう大丈夫だろう。
あたしなしでも生きていける。あたしはここで、幸子が卒業するまで見守って、
それから成仏する。何の問題も無い。何の問題も、無いんだ。
「あなただって、泣いたって良いのよ」
 ふいに、骨格標本の女の子がそう言って、背中を撫でてくれた。
 そうしたら今まで我慢していた涙が溢れてきた。初めは小さな嗚咽から、次
第に大きくなってきて、最後は小さな子供みたいにわんわん泣いた。涙が、止
まらなかった。


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