[KATARIBE 25550] [IC02N] 小説『列車』

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Date: Thu, 30 Jan 2003 06:49:16 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25550] [IC02N] 小説『列車』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2003年01月30日:06時49分16秒
Sub:[IC02N]小説『列車』:
From:月影れあな


なんとなく小説
よくあるループ系のオチですね、むぅ、ダメダメかも

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小説『列車』
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本文
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 たたったたん たたったたん

「相席、よろしいですかな?」
 落ち着いた声に、私は顔を上げた。見ると、いつの間にかそこに初老の紳士
が立っている。
 私はあわてて、だらしなく散らかしてあった荷物をまとめる。紳士は軽く会
釈すると、私の正面の席に腰をかけた。タキシードにシルクハット、手に持っ
ていたステッキを座席にもたれ掛けさせて、そこにさりげなく帽子を引っ掛け
る。あまりに紳士然とした紳士であった。
「……どうぞ」
 気恥ずかしさと、気まずさから、何か言葉は無いか捜す。口をついたのは、
結局「旅は道連れといいますからね」という、なんだかわかったような、わか
らないような、そんな台詞だった。

 たたったたん たたったたん

 特に言うべき言葉も見つからず、長く続く沈黙。だが、間断なく響く線路の
音と、目まぐるしく変わる窓外の風景がそれを埋めてくれるので、あまり苦に
はならない。
「一人旅ですか?」
 何故か自然に、そんな問いかけが口をついた。紳士は突然の問いかけに驚く
事も無く、口ひげに隠された口元に柔和な笑みを浮かべて気軽そうに答えてく
れた。
「連れがいましたが、つい先程はぐれてしまいましてね。何、心配する事もあ
りません。長い旅、同じ列車の中にいるんですから、いつか見つかるでしょう」

 たたったたん たたったたん

 そのまままた、沈黙が続く。私は何することも無く、ただ窓外の景色を眺め
ていた。満面に咲き誇る火炎樹の絨毯が、連なる山々を覆って無限に広がって
いる。何かおかしかった。トンネルに入った。暗い空間を抜けると、白銀の世
界が広がっていた。遠くで、狼の群が氷河の上を渡っていく。目をこすって見
ても、その風景に変わりは無い。またトンネルに入った。海辺の町だった、砂
丘を走り抜け、そのまま海の中へと沈む。窓の外は水族館のように様々な姿形
の魚達で彩られている。幻覚を見ているのだろうか、それらしい心当たりは無
い。またトンネルに入った。窓外の様相が、機械の身体を貰う人専用アンドロ
メダ行き鉄道のそれと酷似した物に変わったところで、わたしはやっと事態の
ばかばかしさを確信した。向かいに座る紳士の顔を見るが、それら一連の風景
を見ても彼はなんら反応を示さない。
「あっ、あのっ、次の駅はまだですかね」
 焦って時計を見ながら、わたしは思わずそんなことを訊ねていた。初老の紳
士はその顔に相変わらず柔和な笑みを湛えて、わたしには信じられない事を平
気で言って放った。
「次の駅なんかありませんよ」
 わたしが絶句していると、それを見た紳士は始めてその顔に、少々の哀れみ
のような色を浮かべると、確かめるようにもう一度言った。
「次の駅はありません。意識している分だけで、もう十年以上も前になります
かな」
 紳士の語り口は非常に分かりやすく、丁寧であった。
「今はもう知らない人も多くいるんですがね、元々この列車はあの忌まわしい
街、無限都市を走る列車の一つに過ぎなかったのです。終点の無い、未来永劫
走り続ける列車、そういう性質の物でした。ところがある時ね、車掌がつい口
を滑らせてしまったんですよ。『次は終点』とね。以来、この列車はずっと駅
に止まっていません」
 駅には止まらず、ずっとあるはずの無い終点を目指して走り続けているのだ
という。にわかには信じがたい話だったが、信じない事にもいかない。
「この場所では死すら救いにならない。あるのは永劫の絶望だけ」
 老いた言葉を紳士は溜息と共に吐き出した。わたしはがくがくと震える全身
を抑えるのに必死になりながら、これは夢だと思った。
「夢だと思うならそう思いなさい。放り出したくなれば窓の外に身を投げなさ
い。それが確実に死ぬ方法です」
 言うだけ言うと、初老の紳士は席を立った。わたしは、後に一人取り残され
て、必死で考えを整理していた。私はただ旅が好きだっただけのはずだ。ただ
普通に列車に乗っただけのはずだ。矢張り間違いなく、これは夢だった。夢だ
というのに、この全身の震えはなんだろう。

 たたったたん たたったたん

 相変わらず線路は続く。果てなく続く。
 窓の外を見た。夢ならば、夢の中で死ねば覚めるに違いない。わたしは窓枠
に手をかけると、がたんと窓を上に上げた。音を立てて風が吹き込んでくる。
身を乗り出すと、地面は妙にリアルに通り過ぎていく。それでも、わたしはそ
こから飛び下りた
 それで、全てが無くなった。

 たたったたん たたったたん

「相席、よろしいですかな?」
 落ち着いた声に、私は顔を上げた。見ると、いつの間にかそこに初老の紳士
が立っている。私はあわてて、だらしなく散らかしてあった荷物をまとめる。
紳士は軽く会釈すると、私の正面の席に腰をかけた。タキシードにシルクハッ
ト、手に持っていたステッキを座席にもたれ掛けさせて、そこにさりげなく帽
子を引っ掛ける。あまりに紳士然とした紳士であった。
「……どうぞ」
 わたしはそう答えて、次に続ける言葉を捜した。


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