[KATARIBE 25464] [HA20P]エピソード『幼なじみの双子』

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Date: Sat, 25 Jan 2003 16:53:36 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 25464] [HA20P]エピソード『幼なじみの双子』
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
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gallowsです。昨日のチャットログをEP化。葬希と故の紹介に丁度いいかなあと
思いつつ、九法くんを借りちゃいました。
クロウさん適当にチェックよろしう。

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エピソード『幼なじみの双子』
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登場人物
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 小暮九法(おぐれ・このり)
  :高1ながら、身長2mを越す大男。実は知性的。
 里見葬希(さとみ・そうき)
  :普段はごく普通の高校生で九法の幼なじみ。
 里見故(さとみ・ゆえ)
  :葬希の双子の姉。

本編
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 その日、私は幼なじみの里見葬希の家で夕食の席に同伴することになった。
 葬希の家は私の通う高校からそう離れていないところにあるマンションだ。
彼の一家が住むには充分なスペースがあったが、並の人間より大きい存在であ
る私には手狭に感じる。鴨居をくぐる度に腰を曲げなければならない。とはい
え身長2mを優に越してしまったこの体躯ではそれも習慣となっているのだが。
 私は到着するとそのまま葬希の、そして故の部屋に通される。故というのは
葬希の双子の姉だ。ベッドと机と本棚があるだけの簡素で荒れた部屋。床や壁
には刃物が刺さったような痕がそこかしこに残っている。
 私は葬希の部屋に入るととりあえず部屋の隅であぐらをかく。いつもこの姿
勢であまり動くことはない。私が自由に動くには5畳間では不十分なのだから
仕方が無い。葬希は着くなり洗面所に顔を洗いに行ったきりだ。おそらく故と、
なにか話しているのだろう。
 半年振りくらいに来る部屋をざっと見渡す。なにも変化は無い。昔はよくこの
部屋で葬希や故と遊んだものだ。

 葬希     :「父さんも母さんもまだ帰ってない。故が起きてるから夕
        :食当番はあいつってことで」
 九法     :「む。そうか」
 葬希     :「僕は居間で少し寝てくる。また」

 葬希は一度顔を出すとまたすぐに出て行った。
 葬希と故は昔から酷い面倒くさがりで、どちらかが動いている時はもう片方
は眠っている。そうすることであまり長く生きないで済むらしい。本人達はシ
フト制の人生なんて素敵だろうと言っていたが、食事もシフト制ではたまらな
いと私は思う。
 やることもなくしばらくぼーっとしていると(なにしろこの部屋の本棚には
私が興味を持てそうな書物がない。私は世界の処刑器具の歴史を日常生活に活
かす術を知らないのだ)、故が音もなく扉を開けて入ってきた。器用なものだ。

 故      :「久しぶり」
 九法     :「うむ」

 この女はかすれた細い声を抑揚も無く出す。慣れた者でないと聞き取れない
かもしれない。そして私を一瞥すると、無言で居間のほうを指差した。食事の
準備をするからこっちに来いという事だろう。私は物理的に重い腰を上げ、足
元と鴨居に注意しながら部屋を出た。



 居間の蛍光灯がちかちかと時折点滅している。この家は私の家よりこういっ
たことに無頓着なようだった。テレビをつけ、チャンネルをとりあえずNHKに
合わせる。私も故も、そして本当は葬希もあまり話すほうではないので、とり
あえずテレビをつけておくのは間を持たせるのに楽で有効な手段だ。退屈なの
はよろしくない。

 故      :「夕食。ご飯はあるから……」

 と、そのにもなにか独り言を言っていたが聞き取れない。難儀そうに戸棚か
らレトルトのカレーを2袋、冷蔵庫からハムの塊を取り出している。相変わら
ず料理をする気はないらしい。鍋に水を汲み火をかけた後、どこからか見慣れ
ない曲線を描いたナイフを取り出してハムを丁寧に切り刻む。
 それから6分間、交わした会話はこれだけ。

 故      :「また大きくなった?」
 九法     :「む。そうかもしれない」



 故が食パンにハムを挟んで食べている間に私は出されたレトルトカレー2人
前をたいらげる。どうやってあんなにゆっくりモノを食べられるのかが理解に
苦しむが、おそらく私が食べるのも幾分早いのだろう。
 作業的に食事を済まし、しばらくテレビを見る。途中ぽつぽつと故の方から
葬希の学校での様子などを聞かれるので答えてやる。意外なことにこの二人は
学校での出来事をあまり話し合ったりはしないらしい。しかし私も妹に高校の
話などしたことがないな、と思い直す。あまりこの双子を特殊なものに見すぎ
るのもうまくない。

 故      :「今は、何ミリ傷つけると出血にいたるのか」

 テレビに飽きたのだろうか、故は思い出したように立ち上がり近づいてくる。
 トストストス。
 故の制服の袖口からナイフが次々と落ち、テーブルにこぎみよく突き刺さる。

 九法     :「この間包丁で切った時は七ミリくらいは平気であった」

 私ものっそりと制服の腕をまくる。乱暴にやるとこの布はすぐに裂けるので
注意が必要だ。

 故      :「久しぶり、この感覚」

 つーつつー。
 故が手術に取り組む外科医のような手つきで私の腕にナイフを走らせる。先
ほどのハムを切っていたものとは違うデザインだがこれもまたあまり見ない形
状をなしている。
 これは、私が身長180を越えた小学生の頃、故が考案した秘密の遊びだ。どれ
だけ深く刃物を入れると私が出血するかを試す。この単純な実験が故は好きだっ
た。私も自分の体に刃物が入り、なかなか血が出ないという感覚は面白くもあ
り、この儀式めいた遊びがしばらく続いたのを覚えている。
 そんな私も今年でジュウゴサイである。思えば長い時を生きたものだ。

 故      :「このままだと身長差が50cmくらいつきそうね。……あっ、
        :ちょっと深く入っちゃった」
 九法     :「む」

 かすかに痛みが走る。とはいえあまり気にならないのだが。

 故      :「昔はあまり変わらないくらいの虚弱体質だったくせに」
 九法     :「むしろ、私の方が低かった」
 故      :「子供の頃は外に出ること多かったから、あなたを助けた
        :りもしたのに」

 昔の記憶を掘り起こす。そう、私は虚弱児で、今でも標準よりか細い葬希や
故よりもさらに小さい子供であった。野良犬に追いかけられた時や年長者にい
じめられた時など幾度か故に助けてもらった記憶がある。気が付くと犬や年上
の子を故は連れ去ってしまうのだ。

 九法     :「今度は私が、オウ」
 故      :「あ、血」

 私の下腕部からかすかに赤いものがにじみ出る。故はそれをぎゅっと絞りだ
す。

 故      :「あの時の子、どうしちゃったっけね……」

 にじみ出た血が雫を作り、ゆっくりと皮膚をつたってテーブルに落ちていく。
故はそれを目を細めてじっと見つめ、ナイフをテーブルに置く。ゲームエンドだ。

 九法     :「そろそろセンチ単位かな」
 故      :「おめでとう。記録更新。11mmで血がでました」

 なにがおめでたいのかはわからないが、記録達成の賞品はバンドエイド一枚
らしい。それを傷跡におざなりに貼り付ける。

 九法     :「……む」

 くいくいと腕を動かす。放っといてもすぐに出血は止まるだろう。皮膚のし
まりが違う。収まりもいいのでそのまま制服の袖を下ろし、またテレビに視点
を戻す。故もテーブルの定位置に戻り、ぼーっと先ほどまで私の皮膚の上を
滑っていたナイフを眺めていた。その後はまたいつもの無言の時間だ。



 故      :「そろそろ変わる時間」
 九法     :「む、またいずれ」

 小一時間ほどたって、唐突に宣言すると、故はそのまま居間のソファにうつ
ぶせに倒れた。そろそろ葬希が起きる、『交替』の時間らしい。

 ビキ……バリバリ……ミシ……ミシ
 故が背中から裂けていく。私は反射的に背を向ける。あまり見てはいけない
気がするからだ。
 ガバッ……ビチャ……ミシ……ミシ
 骨のきしむ音。皮膚や服が裂ける音。全てが裏返る音。そしてまた再び縫合
されていく音。それらがテレビの音の合間に断続的に聞こえてくる。いつ聞い
てもあまり気持ちのいい音ではない。基本的に私は何かに対して恐れを抱くこ
とはない方だが(この体躯でなにに恐れる必要があるだろう)、これはなにか
人間の尊厳を侵害する音に聞こえる。

 九法     :「……」

 沈黙。
 数秒後、低いため息が漏れる。葬希が起きた。

 葬希     :「……気分が悪い」
 九法     :「む」

 不機嫌そうに頭を振っている。『交替』がうまくいかないと時折こうなるらし
い。こうなると私もすることがない。手近にあったタオルケットをかけて部屋を
出る。
 マンションを出ると外はもう真っ暗だった。青い月明かりを頼りに私はその
まま家路についた。

時系列
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 4月、ある平日の夕刻。

解説
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 小暮九法は久々に里見葬希の家に遊びに行く。
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gallows <gallows@trpg.net>

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