[KATARIBE 25408] [HA20N] 小説『赤く沈む池その2』

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Date: Mon, 20 Jan 2003 22:10:20 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25408] [HA20N] 小説『赤く沈む池その2』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200301201310.WAA02857@www.mahoroba.ne.jp>
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2003年01月20日:22時10分20秒
Sub:[HA20N]小説『赤く沈む池 その2』:
From:月影れあな


 うにゅ〜、つなげにくい〜
 まぁ、そんな感じで、やっと名前の出てきた美沙希ちゃん

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小説『赤く沈む池 その2』
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 月影美沙希(つきかげ・みさき)
        :呪いの力を持つ、かなり薄幸の少女

本文
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「いやああああああああああっ!」

 雄叫びと共に一閃された剣先は、闇を切裂いて赤子の首を跳ばした。断末魔
の叫びか、赤い闇が大気を震わせる。その拍子で、床に突き立てられた四本の
懐剣が弾け飛び、空間がみしりとなまなましい音を立てた。血塗られた空間の
拡大を抑えるために張っておいた結界が壊れたのだ。しかし、男はそれにかま
う事も無く、そのまま赤子の胸に件を突き刺し、地に引きずり落とす。

 どっ ぶつ ざぐり

 狂ったようにその身体に剣を突き立てているうちに、いつしか断末魔の叫び
も消えていた。男はそれでやっと手を止め……自分に向けられる視線に気付い
た。

「人殺しっ! 私の赤ちゃんを返してぇ」

 見ると、妻が部屋の隅で縮こまって、怯えた視線をこちらに向けている。男
は弁解のための言葉を捜し、妻の目の色にそれが不可能である事を悟った。居
た堪れなくなって、ついと目をそむけると、ちょうどそこには先程きり飛ばし
た生首が転がっている。
 生首の瞳がギロリと動いて、こちらを見た。

『無駄だ。このような事、全くの無駄だ。汝の罪業は、このような事で消える
筈も無い』

 耳の奥で、冷たい声がそう告げる。それは空耳だったのかも知れない。反射
的に、剣を投げつける。ぞぶと低い音を立てて、件は生首の頭を二つにかち割っ
た。
 早くしなければならない。早く、これをどうにかしなければならない。男は
焦燥に駆られる。そうしなければ、今にも、既に肉片となったあれが立ち上がっ
て、襲い掛かってくるような、そんな恐怖が男を焦らせる。

 はあっ、はあっ、はあっ

 荒い息遣いが耳のすぐ近くで聞こえる。五月蝿い。だが、男の意思ではそれ
を止めることが出来ない。ならば、それは無視するより他無いのだ。ふらりと
身をよろめかせると、赤子の肉片を塩によって清められた袋に詰め始める。こ
れは何処か安心できる場所に封印して捨てなければならない。幸い、それに適
した場所には心当たりがあった。以前、仕事の関係で偶然見つけた、陽の気が
溢れる場所。あそこなら、きっとこの邪悪な物も封じる事ができるだろう。
 若干の希望も込めて、男はそう思うことにした。

「ねぇっ、それをどうするつもりなの!?」
「うるさいっ!」

 縋りついてきた妻も張り飛ばして、作業を進める。夜が来るまでに全てを終
えなければならない。あんなものには構っていられないのだ。

 はあっ、はあっ、はあっ

 粗い息遣いを耳の近くに利きながら、機械的に作業を進める。


 つい、先程までそこは気持ちの良い場所だった。
 薄暗い森にふとある、明るい陽だまり。その場所にいると安心するような、
そんな雰囲気を持つ、聖域と言っていいような、そんな場所。
 だが、今はもう違う物になっていた。
 空気は重く澱み、比較的開かれた場所にあるにも関わらず、何故か森の中よ
りも薄暗い。周囲の木々は怪奇的に変形して、大きく開かれていた蒼い空に侵
蝕している。もし、この場所を知っているものが、全く変質してしまったここ
を見たとしても、同じ場所だとは信じられないだろう。
 否、信じたくないだろう。

 ごぶり

 ふと、その場所の中心で、赤い血が湧き出し始めた。

 どぶんっどぶんっ

 鮮血は止め処無く溢れ出し、見る間にその場所に小さな淵を作り出す。いつ
の間にか、空気までもが赤く染まり、吐き気のする血臭が大気に充満する。
 赤一色の世界だった。
 しばらくして鮮血の止まった後、とぷんと音を立てて、何かが血の淵より浮
かび上がってくる。それはぎょろりと目を見開き、頭だけが存外に大きく、仰
向けになって、短く小さな手足を放り出している。人間の赤子だ。

 …………

 それは言葉無く空を見上げる。昼間にも関わらず、夕暮れ時のようなえげつ
ない赤色に染まった空。空虚な目で、ただ何と無しにそれだけを見つめる。
 それしか見るものが無かったから。
 半開きになった口から声が鳴り始めた。

 ――ぁぁぁあああううぅぅぉぉおおおぅぅ

 何に聞かせるためなのか自分でも良く分かっていない、叫び。

 ――うううぅぅぅぁぁぁああおおおおぉぉぉぉああああぅぅぅううう

 泣いているような、怒っているような、それが月影美沙希の産声だった。


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