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Date: Sun, 19 Jan 2003 04:23:31 +0900 (JST)
From: 月影れあな <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25380] [HA20N] 小説『赤く沈む池その１』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200301181923.EAA84353@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25380
2003年01月19日:04時23分31秒
Sub:[HA20N]小説『赤く沈む池 その１』:
From:月影れあな
月影美沙希の過去話です。
とりあえず、生まれてから楽鈴寺零霞に拾われるまでを想定
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小説『赤く沈む池 その１』
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月影美沙希(つきかげ・みさき)
：呪いの力を持つ、かなり薄幸の少女
本文
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今はもう珍しくなった、純粋な和風の建物の中。その薄暗い土間に一人の男
が無言で鎮座していた。右手には和弓、そして左の手元には何やら古めかしい
剣を置いている。
びょぉぅん
爪弾かれた弓の弦が大気を振るわせると、土間に澱んでいた負の気が弾けて、
辺りに清浄な風が巻き起こる。だが、それも一瞬の事だった。少々の間も置か
ず部屋の四方から薄い瘴気が滲み出てくると、たちまちに大気はまた、負の気
配を帯び始める。
「むぅ……」
男は小さく唸ると、また弓を鳴らす。すると、瘴気は一瞬祓われるが、その
また一瞬後には再び土間に充満する。何度鳴らしても同じ事だった。例えるな
ら、それは押し寄せる波を砂の堰で止める作業にも似ていた。
埒が空かない。さらに、滲み出る瘴気はだんだん濃くなっていくようでもあっ
た。男は諦めて溜息を吐くと弓を下に置く。手元にあった剣の鞘を握り締め、
右手ですらりと抜き放った。握り拳十個分ほどの長さをもった両刃の刃。西洋
風のものではなく、古代日本風のそれは、薄暗い土間の中でぼぅと赤い光を放っ
ていた。
「其は何ものぞ」
外にいる瘴気の元に問い掛けた。途端に戸が弾け飛び、赤黒く目に見えるほ
どの瘴気を伴った風が轟と音を立てて吹き込んできた。だが、男は顔もそむけ
ずにそれを真正面から睨みつける。真赤い闇。それの実体は、見えないものを
も見通す男の目をもってしても計り知る事の出来ない。まさに、深淵を覗き込
むようなものだった。
『我に名は無し。我は祟る物。我こそが汝の罪業なり』
男はそれを聞いて口元をゆがめると、右手に持った剣を振るう。赤い軌跡を
描いて、それは闇を裂くが、まるで水を切るように漠然とした感触しか得られ
ない。赤い闇は笑った。男は軽く舌打ちすると、剣を地に突き立て、両手で印
を切る。
びょおぉぉぅぅ
だが、赤い闇が行動を起こすのはそれよりも幾分か早かった。闇は男をすり
抜けると家の奥へと侵入していく。
「むっ!?」
慌てて剣を引き抜いて後を追うが既に遅い。後を追って男が家の奥の、男の
妻がいる部屋に押し入った時、ちょうどそこで赤子が産声をあげた。
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」
何も知らない産婆が、笑顔を浮かべて赤子を取り上げる。悔しさに男は、ぎ
りりと歯を噛みしめる。男の目は見ていた。その赤子から吹き上げる膨大な瘴
気の渦を。そして、赤子は口を開く。
『是が汝への呪い、汝の受ける祟り。是こそが汝の罪業』
ひィっと悲鳴をあげて、産婆が赤子を放り出す。だが、その赤子は空中に固
定でもされたように、そのまま落ちる事は無かった。赤子が目を開くと、血の
臭いのする赤い空間が、まるで溢れ出すようにして広がった。近くにいた産婆
は、その影響を真先に受けて、赤い血肉の塊と、白い骨となってその場に崩れ
落ちる。
『汝は己の子によって殺さるる』
男は黙したまま、手に持った剣を強く握り締めた。
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