[KATARIBE 25307] [IC01N] 小説『ゴンドラに乗った少女』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 10 Jan 2003 11:31:45 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25307] [IC01N] 小説『ゴンドラに乗った少女』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200301100231.LAA52051@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 25307

2003年01月10日:11時31分44秒
Sub:[IC01N]小説『ゴンドラに乗った少女』:
From:月影れあな


 ちょっとした無限都市のSS。なんとなく支離滅裂な感じになってしまったか
も。
 水の校舎です。色々考えたんで、また別のにも使うつもりです。

**********************************************************************
小説『ゴンドラに乗った少女』
============================

本文
----
 櫂に力を込めると、ゴンドラが水面を滑る。
 廊下には誰もいなかった。静寂の中でわたしは一人舟を漕ぐ。何に邪魔され
ることも無く、つぅぅと滑っていく。

「舟生徒は、この瞬間が楽しいから水の校舎に来るんだ」

 静かな廊下には流れが無い。風が無いから波すらも立たない。ただゴンドラ
の通った後ろにだけ、尻尾のような小さな揺らぎが残る。

 ……っぷん

 何かが跳ねた。魚だろうか。

『あれは潜水生徒ですよ』
「えっ?」
『知りません?』
「ううん、見た事無かっただけ」

 潜水生徒はわたし達舟生徒にとって伝説だった。
 水面に落ちた生徒が浮かんでくることは決して無い。どんな生徒でも、一度
水に浸かれば二度と這い上がる事が出来ない。そういう風に決まっているのだ。
 水中はわたし達にとって即、死に繋がる聖域のような場所だった。そこでは
さかな以外の存在は許されない、人の立ち入るべからざる場所。
 でも、時々見たと言う人がいる。私たちとは違う者が、水の中から這い出て
くるところを。

『……彼らは水の生き物なのですよ。ずっと水の底で暮らしているんです』

 初めにそう言ったのは誰だったか。いや初めなんて無かったのかもしれない。
そう、「最初から潜水生徒とされていた」と言った方がしっくりとくる。
 そういう場所だ。ここ、無限都市は。

 ・ ・ ・ ・

「ええっ、ゆっこ潜水生徒見たの!?」
「見たっていうか……何だったんだろうな。あれは」

 見た、とは言わない。ただ、水が揺れた事に気付いただけだったから。でも、
見なかったとも言わない。潜水生徒が揺らした水をわたしは確かに見たのだか
ら。

「秋枝さん、潜水生徒が好きなんだ?」
「好きも好きっ、だぁーいっ好き! だって、浪漫があるじゃん。潜水生徒っ
て」
「そうかなぁ」

 わたしには秋絵さんの言っている事がよく分からなかった。
 舟の上でしか暮らせない舟生徒のわたしにとって、水の中にいる潜水生徒は
なんだか得体の知れない怖いものでしかない。だから、秋絵さんの言いたい浪
漫というものが、どういうものなのか見当もつかないのだった。

「だって、水ってどうしても死のイメージと切り離せないじゃない? ほら、
潜水生徒って、言ってしまえばあたしたちにとって死の中を泳いでいるみたい
なもんだよ。だからきっと、潜水生徒なら本当の死って言うのを知ってると思
うんだ」
「秋枝さんはロマンチストだね」

『でも、それはきっと違います』

「でもね、秋枝さん。わたしはたぶん、潜水生徒も、きっとわたし達と同じ様
に、いろんな事を悩んだり、悔やんだりしながら生きているんだと思うな」

 たしかに、潜水生徒は死の中を泳いでいるのかもしれない。でも、それは結
局《わたし達にとっての死》でしかないのだ。《潜水生徒たちにとっての死》
はまた別にある。どんなに得体が知れなくとも、所詮は同じ無限都市を生きる
人間に過ぎないのだ。

「ゆっこはリアリストが過ぎるよ。もっと夢を持って生きなきゃ」
「この世界自体が、ほとんど悪い夢みたいなものじゃん」
「こりゃあ一本取られましたっ」

 あははと、秋枝さんは笑って私の背中を叩いた。
 ちょっとだけ、この人みたいに、ずっと笑って過ごせたら、そう思った。

 ・ ・ ・ ・

 それ以来、わたしは一度も潜水生徒を見ていない。ほんとうに、ただそれだ
けの話だ。
 結局、潜水生徒は伝説だった。それが本当であっても、嘘であっても、ただ
それだけの事。何かが変わると言う事も無い。

『でもね、雪子さん』

 ゴンドラの先に座った私の核アイテム、人形のリリィは言う。

『本当のところ、あなたは何か変わりたいから……今も潜水生徒を探している
んでしょう?』

 気のせいかリリィは、口元が少し笑っているようにも見えた。
 私は黙って櫂を動かした。

 長い髪を風になびかせて、ゴンドラに乗った少女は今日も、水の校舎を滑り
ぬけていく。


$$
**********************************************************************




          ================================
         # 乱筆、乱文ご容赦下さりますよう #
         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
         # mail : tk-leana@jttk.zaq.ne.jp #
         # cogito,ergo sum by Descartes #
          ================================


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/25300/25307.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage