[KATARIBE 25228] [IC04P] エピソード『クリスマスの一騒ぎ』

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Date: Wed, 25 Dec 2002 23:37:32 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25228] [IC04P] エピソード『クリスマスの一騒ぎ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2002年12月25日:23時37分31秒
Sub:[IC04P]エピソード『クリスマスの一騒ぎ』:
From:月影れあな


 クリスマスイブのエピソード。はうぅ、疲れた

 24には間に合わなかったけど、クリスマス中には完成しました。ヨカッタァ

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エピソード『クリスマスの一騒ぎ』
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登場人物
--------
 玖々津好(くぐつ・よしみ)
        :白衣の鍼師。未だちょっと無限都市になじんでない

 六石神楽(むついし・かぐら)
        :好の友人で、ニンジャ

 花田飛竜(はなだ・ひりゅう)
        :自称焔獄のフェイロン。熱血系正義の人である

クリスマスイブの朝
------------------
 目が覚めると目の前に、赤い服を着た白ひげの男が白い袋を担いで立ってい
た。

 赤男     :「めりー……」
 好      :「それは明日だ」

 あたしはその額めがけて迷わず鍼を繰り出した。
 男はがくんがくんとなにやらものすごい痙攣を始めるが、あたしは気にせず
そいつを窓辺まで引きずっていく。
 窓を開けると、外の風景は異国の山の連なりだった。朗らかな朝に相応しい
ヨーデルの声が聞こえて、真正面からは巨大ブランコに乗った少女がすごい勢
いでこちらにせまり来る。
 何となく嫌な予感がしたので、男を外に蹴り出すと手早く窓を閉める。

 好      :「スウェーデンに帰れ(げしっ)」

 外の様相はあからさまにスウェーデンではなかったが、どっちにせよ厳密に
言えばアルプスでもないのでこの掛け声にそれほどの意味は無い。

 ――ふと、気になったので、一応壁にかけられた日めくりカレンダーを見や
る。12月24日、良かった。一応、昨日は死んでいなかったらしい。私は寒いの
もあって、さっさと制服を着込むと、いつもの白衣を羽織ってそのまま部屋を
後にした。


二学期、終業
------------
 教室にたどり着いた。途中、アストロ球団(野球関係の部活と思われがちだ
が、実はただの野球マンガ愛好集団である)とたけし軍団(もちろん自称である。
部員がすべてたけしのそっくりさんなのだ)の決闘に巻き込まれそうなったが
なんとか切り抜けてたどり着いた。

 好      :「はよ〜っす」
 六石     :「あっ、好さん。さすがに終業式の日は遅刻しないんです
        :ね」
 好      :「……まぁ、さすがにねぇ」

 教室には、いつもより空席が多かった。クリスマスイブという年に一度の行
事と言う事もあってはしゃぎ回っている人も多いせいか、教室にたどり着けな
かった人が多いようだ。
 人は少なくとも、当然授業は始められる。赤い服に鼻めがねというどう考え
ても何か勘違いをしている格好で担任が入ってきて、何故かノリノリのハイテ
ンションで一人コントなどをはじめ、長くなりそうだったところ、良いタイミ
ングでぶぉ〜〜と例のチャイムが鳴った。しぶしぶといった態で今学期最後の
授業を終わりにする。
 担任は話に夢中で気付かなかったようだが、、あの音実は現代音響研究部部
員岩波正のチャイムを真似た叫び声であり、つまり偽のチャイムである。気付
いた人はみな密かに喝采した。ナイス岩波。

 好      :「さてっと、六石、今日ヒマぁ?」
 六石     :「はい、特にこれといって予定はありませんけど」
 好      :「お互い彼氏無しだもんねぇ(くすくす)」
 六石     :「本当に……あ〜あ、どこかに素敵な彼氏いませんかねぇ」
 好      :「あれぇ? 六石でもそういう事言うんだ。以外だな」
 六石     :「それは、私だって年頃の女の子ですから」
 好      :「そりゃそうだね……って、あ゛〜何であたしみたいない
        :い女がこんな事言ってんのよ」
 六石     :「(くすくす)……あっ、それで好さん。何ですか?」
 好      :「ん? ああ、ヒマだったら、せっかくクリスマスイブな
        :んだし付き合ってもらおうと思って」
 六石     :「いいですね、それで、何処行くんですか?」
 好      :「う〜ん、とりあえず、この前見っけたいい感じの喫茶店
        :あたり行きたいなぁとか思ってんだけど……まだ繋がって
        :るかなぁ?」
 六石     :「いつ見つけたんですか?」
 好      :「三日前」
 六石     :「それは……微妙ですねぇ」

 などと言いつつ、教室を出るとそこは戦場だった。

 好      :「はっ?」
 男1     :「Freeze!(チャキ)」

 赤い迷彩という珍妙な格好をした数人の男が重火器でもって廊下を制圧して
いた。教室から出てきたあたし達に気付いて眼帯をつけたリーダー格であると
おとぼしき男が声高に宣言する。

 眼帯男    :「我々はクリスマスに際する昨今の風潮を嘆く秘密結社、
        :魔王十字団である!」
 好      :「昨今の風潮って?」
 眼帯男    :「無論、『恋人達の』だの、『家族で楽しく』だのいう
        :あれのことだ!」
 好      :「じゃあ、どんなのが良いのよ?」
 眼帯男    :「クリスマスはテロリズム!」
 好      :「なんでだ」
 眼帯男    :「なんでもだ」

 肩をすくめて六石を見ると、彼女も首をかしげている。

 好      :「で、あんたら具体的に何すんの?」
 男1     :「世間の愚民どもに警鐘を鳴らすため、諸君らに犠牲となっ
        :てもらう」
 六石     :「そ、そんな事。決闘監理委員会が黙ってませんよ」
 男2     :「我々はあのように偽善的な輩は恐れない」
 好      :「あたし、ただじゃ死んであげないわよ?」

 言うと同時に、袂から出した二本の針があたしらに銃を突きつけていた男二
人の額を貫いた。周囲の赤迷彩たちが動く前に六石の投げた煙玉が廊下の一角
に炸裂する。

 男3     :「撃てっ……いや、撃つな! 同士討ちになるぞっ」
 好      :「六石、こっち……」
 眼帯男    :「甘いわぁっ!」

 SE      :タタタンッ

 軽快な、といって良いようなリズムで銃声が響いた。あたしたちの目前に銃
弾が撃ちこまれ、つんのめって足を止めてしまう。
 廊下を、迷彩の男たちと同色の戦闘ヘリが爆音を立てて飛んで来た。当然、
六石の出した煙などいとも簡単に吹き払われてしまう。この廊下意外に広かっ
たんだなぁとか妙なところで感心している間に、眼帯の男が歩み寄ってきて、
あたしの額に銃口を突きつけた。

 眼帯男    :「ゲームオーバーだな」
 好      :「くっ……」
 声      :「ちょっと待ちな!」

 悔しさに歯を噛みしめていると、突然場違いな。いや、ある意味この場所に
最も似つかわしいといっていいような明るい声が高らかに響き渡った。

 声      :「はっはぁっ! 大の男がよってたかって女一人苛めてる
        :たぁ、情けのない事だな」
 眼帯男    :「貴様、何者だ」
 飛竜     :「オレか? オレは焔獄のフェイロン。ただの通りすがり
        :のお節介焼きさ。嬢ちゃん、助けは必要かい?」
 好      :「いらない」

 あたしは即答した。

 飛竜     :「……あ〜、でもそのままだと危ないだろ」
 好      :「でもいらない。なんか癪だし」

 ……一昔前のアニメなら、冷たい風の一つでも吹いたことだろう。

 眼帯男    :「(……コホンっ)小僧、余計な事に首を突っ込んだ授業料
        :は高くつくぞ」
 飛竜     :「えっ!? いや……ふんッ、言ってくれるねぇ」
 眼帯男    :「総員、構えっ!」

 赤迷彩の男たちがいっせいに銃を構える。

 眼帯男    :「Fire!!」

 ものすごい銃撃の雨がフェイロンと名乗った男に降り注いだ。

 飛竜     ;「はぁっ!」
 SE      :ギギギギギギギィンっ

 フェイロンが掛け声とともに黒い盾のような物をかざす。

 飛竜     :「……それで?」

 銃弾が止んだ後、盾のような物を背後に戻すと、フェイロンはまったくの無
傷で不敵な笑みを浮かべる。赤迷彩の男達から驚愕の声が漏れる。

 男3     :「くそっ」
 男4     :「バカな……」
 眼帯男    :「下がれ、俺がやる」

 たじろぐ男達の中から、眼帯男が一人歩み出る。手には一本の十徳ナイフ。
おそらくそれが彼の核アイテムなのだろう。

 飛竜     :「ふんっ、親玉の登場か。さぁ、その授業って奴を受けさ
        :せてくれ」
 男2     :「後悔しても知らんぞ、小僧」
 飛竜     :「フェイロンだ。あんた、物覚え悪いな」

 互いに得物を構え、そのままにらみ合いが始まる。

 好      :「…………?」

 じりじりと徐々に高まり行く緊張。その中でふと、あたしはそれに気が付い
た。

 SE      :――――…………

 好      :(何……地鳴り?)

 声      :「きゃあああああっ、トナカイの群れが!!」
 好      :「あっ……」

 SE      :…………どどどどどどどどっ

 突然押し寄せたトナカイの大群が全てを無茶苦茶に踏みつけてそのまま通り
過ぎていった。あたしはというと……

 六石     :「大丈夫ですか、好さん?」
 好      :「あっ、うん……」

 いつの間にか天井にへばりついていた六石に引き上げられ、難を逃れたのだ
った。

 好      :「え〜と……」

 辺りを見回す。赤迷彩の男たちとフェイロンは一緒くたになって全身に、墨
で塗ったようにはっきりとしたひづめの跡をつけてそこかしこに倒れ伏してい
る。あたしは、いつもの事だが何だかひどくばかばかしい気持ちになってきた。

 好      :「……まぁ、行こうか」
 六石     :「……そうですね」

 とりあえず、その場はそのままほったらかしにしておくことにした。


そして伝説
----------
 十分後、あたし達は東京らしき場所にいた。
 そう、東京らしき場所。正面を向くと東京タワーがあり、右を向けば東京駅
があり、左を向けば江戸城、後ろには東京ディズニーランド。遠くには何故か
富士山も見えてる。
 ……とりあえず、深くつっこまない事にしている。街行く人々の髪形が何故
かみんなちょんまげなのも、気にしなければ気にならない。気にならない。気
にならない……

 好      :「……ど―でもいいけど、何時までたってもここのでたら
        :め加減には慣れそうも無いなぁ」

 素直に負けを認めてため息をつき、グラスに残っていたアイスティを一気に
飲み干す。

 六石     :「そうでしょうか? 好さん、自分で気付いていないだけ
        :で結構環境に適応してきているように思いますけど」
 好      :「え〜、やめてよ」
 六石     :「だって、ここでいきなりとんでもない事が起こっても、
        :パニックにならないで冷静に対処できるでしょう?」
 好      :「とんでもない事ってどんな事よ」
 六石     :「そうですねぇ、たとえば……」

 声      :「うわあああ、怪獣だぁぁぁぁぁっ!」

 六石     :「そう、いきなり外で怪獣が暴れだしたり……」

 SE      :ずずぅぅん……ぎゃーんっす

 二人     :『……えっ』

 顔を見合わせ、窓の外を見る。ちょうどそこでは、トナカイをデフォルメし
た物と思しき怪獣が街を荒らしまわっていた。

 好      :「いやぁ、ほんとに怪獣だわ……」
 六石     :「ほら、冷静ですよ」
 好      :「いや、これはリアクションに困ってるだけ」

 むしろ、こんな状況で普通に対応できる六石に軽いショックすら覚える。

 好      :「……で、どうすんの?」
 六石     :「え〜と、どうしましょう」
 好      :「あっ、なんかこっち来たわよ」
 六石     :「何か溜めてますねぇ(汗)」

 とりあえず命名、しかゴジラ(仮)の背びれが青白く輝き始める。やつぁヤる
気だ。

 好      :「六石、耳塞いでっ!」
 六石     :「はいっ」
 好      :「どりゃあぁっ!」

 核アイテムでもある形見の鍼を前の空間に突き出すと同時に、しかゴジラが
しか火炎放射を繰り出してきた。

 SE      :うぉぉぉぉぉぉぉん

 鍼を突き出した場所を中心に大気がうなり声を上げ、迫り来る青白いしか放
射火炎を打ち消す。ばちばちと電光のようなものが弾けた。

 好      :「くぅ……」

 SE      :バシュゥッ

 気の抜けるような音がして、不意に放射火炎が止んだ。肩で息をしながら、
あたりを見回す。あたしと六石を中心とした半径2メートル程度の範囲をのぞ
いて、すべてが一瞬にして消え去っていた。

 好      :「(はぁはぁ)……あと、一発来たら、やばいかも……」
 六石     :「ど、どうしましょう」
 好      :「残念だけど、リセットかなー」

 声      :「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 好      :「……今度は何よ」
 六石     :「あっ、あそこに」

 六石の指差した左記、東京タワーのてっぺんでムキムキマッスルの全身赤タ
イツ男がニカッと笑っている。さわやかすぎる白い歯がやたらと眩しい。

 六石     :「あれは……」
 好      :「知っているの、六石」
 六石     :「あれは、クリスマスの前後にのみ出現すると言う、伝説
        :の怪人マッスルサンタ」
 好      :「捻りの欠片も無いネーミングね」

 はぁっと溜息をついて、観戦モードに移行することにした。
 しかゴジラとマッスルサンタがお互いに威嚇しながらにらみ合う。

 しかゴジラ  :「あんぎゃおおおおおおぉぉぉぉぉぉんっ」
 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
 しかゴジラ  :「うぎゅるるぉぉぉぉおおおおっ」
 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
 しかゴジラ  :「ぎゃるぅぅぅあああっ」
 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
 しかゴジラ  :「あぎゃぁ?」
 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
 しかゴジラ  :「…………」

 そのまま、しかゴジラは何か考えるように一度停止して、首を振ると、サン
タを無視して破壊行為を再開した。

 好      :「あんたは笑ってるだけかっ!」
 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 声      :「ついに、始まったのね。最後の闘いが」
 好      :「うわぁ、あんた誰、そして何時からそこにいたっ!?」

 突然耳元でささやかれた女の声にびくりと飛び上がる。

 静香     :「私は月見静香、ただの通りすがりの占い師よ」
 六石     :「ただの、というには怪しすぎる気もするのですけど……」
 静香     :「通りすがりの占い知って言うのは怪しい人の代名詞なの
        :よ。知らなかった?」

 占い師は目を伏せて無機的な声色を作り、語り始める。

 静香     :「始まりの書にはこうある。『世の再び黄昏の闇に閉ざさ
        :れし時、五つの光もまた再び集いて彼の者を滅ぼさん……』
        :あたしの占いによると、あなたこそが神話の時代に彼の者
        :を倒した五人の聖戦士の一人、アヴィケルの転生よ。そっ
        :ちの彼女は同じく聖戦士カルィーム」
 六石     :「ええっ、そうだったんですか!?」
 好      :「人違い。他当たって」
 静香     :「そんなはず無いわ! ええと、あなた誕生日は何月何日?
        :血液型は?」
 好      :「ええと、7月16日生まれのO型だけど……」
 静香     :「見てなさい……(ぱらぱら)……ほら、このページ」

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 12/24 O型の7月16日生まれの人の今日の運勢
  金運  中吉
    良いでしょう。道で拾ったお金はちゃんと交番に届けるといいかも
  恋愛運 末吉
    焦らず騒がず、気長に待とう。そうすれば活路は見えてくる。はず!?
  総合運 大吉
    あなたは聖戦士アヴィケルの転生です。怪獣を倒してこの世界を救
    えば、きっととっても幸せな出来事が待ち受けてる!? ラッキーア
    イテムは伝説の聖剣。
 ------------------------------------------------------------------

 好      :「んなわけあるかぁっ!!(ばしんっ)」
 静香     :「ああ、あたしの預言書を!」
 六石     :「というか、血液型占いの本じゃないですか、これ」
 静香     :「そんなこと言ってる場合じゃないわよ! ごらんなさい、
        :アヴィケル、カルィーム、もう他の聖戦士達は闘いを始め
        :ているわ!」

 飛竜     :「食らえ、爆熱メロンパン八連!(ずどどどどど)」
 しかゴジラ  :「ぐぎゃががががが」
 眼帯男    :「十徳レーザーっ(ヴィーー)」
 しかゴジラ  :「ぐげぇっ」

 静香     :「彼らも聖戦士、メルダとオクレペウスよ」
 好      :「うわぁ、あいつら生きてたんだ」
 六石     :「というか、一応あの人は敵じゃありませんでしたっけ?」

 マッスルサンタ:「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 静香     :「そして彼こそが、聖戦士たちのリーダー、疾風のマッス
        :ルサンタ」
 好      :「あたしらあれの部下なの!?」
 六石     :「彼だけそのままなんですね」
 好      :「って言うか、もうっ、ワケワカンネェ!!」
 六石     :「あっ、またこっちに来ますよ」
 好      :「くそっ、もういいわ、やったろうじゃない! 六石も手
        :伝いなさい」
 六石     :「はっ、はいぃ」
 好      :「どりゃあっ!」

 掛け声とともに、渾身の力で地面に針を突き刺す。

 SE      :どんっ

 六石     :「うひゃあっ」

 鍼に反応して、地面がぼこんと凹んだ。六石がバランスを崩してつんのめる。

 六石     :「な、なんっ……!?」
 好      :「大技かますわよっ、その辺にしっかりつかまっときなさ
        :い!」
 六石     :「はいぃっ」

 凹んだ地面を中心に、何百もの鍼を高速で突き刺していく。正確に、精密に、
手元の鍼が尽きかかった頃にようやく、地面に紋章のような図形が描きあげら
れた。

 好      :「仕上げ!」

 最初に突き刺した鍼を、一気に引き抜く。「がこん」と何かが外れるような
音がして、風が吹いた。

 六石     :「なに、ゆ、ゆれて……」

 ニンジャだけあって勘の良い六石は気付いたようだ。あたしはにやりと口の
端を上げた。

 好      :「来るわよっ」

 SE      :どごごごごごごごごっ

 しかゴジラ  :「ぎゃぁ? あんぎゅぉぉぉぉおおおぅ!!」

 いくつかの出来事が同時に起こった。あたしが鍼を引き抜いた場所から地面
がたわみ、爆音とともに巨大な地割れがしかゴジラを飲み込む。眼帯男の十徳
ナイフから飛び出した七色の光がしかゴジラを貫く。フェイロンの鍋から飛び
出した暗色の龍がしかゴジラを締め上げる。断末魔の悲鳴を上げ、しかゴジラ
は地の底へと落下していった。
 占い女はほうとため息を吐くと、きっと明後日を睨みつけてポツリと呟いた。

 静香     :「つらい、闘いだったわ」
 六石     :「あの、貴方は何もしてなかったような気が……」
 静香     :「気にしないで下さい」
 好      :「っていうか、なんで十徳ナイフなのに七色なのよ」
 眼帯男    :「不可視光線も含むんだ!」
 飛竜     :「正義は勝つっ!」

 ふと、日が翳った……

 好      :「えっ?」

 声      :「たーーおーーれーーるーーぞーーっ」

 上を見上げると、半ば傾いだ高層ビルと、その窓にへばりつきながらこちら
を向いているマッスルサンタ。さわやかすぎる白い歯がやたらと眩しい。

 皆      :『のわわぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 SE      :ずずぅぅぅぅぅん


 …………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………Black Out



クリスマス
----------
 SE      :ぼこんっ

 最後の瓦礫を押しのけて地上に出た時、もう空には白い月が浮かんでいた。
 あたしは、自分が惨めなモグラにでもなった気分で、呆けながらしばらく白
い月を見上げ続ける。月が笠をかぶっている。あしたは雨だ。苦笑してしまう、
ここではそんなことには何の意味も無かった事を思い出して。
 ふと、あたしは腕の中で眠る六石のことを思い出した。瓦礫に埋もれたとき、
一人分の空気が惜しくて合意の上で仮死状態にしたのだった。手早く額から仮
死の鍼を抜くとその辺にあった瓦礫を蹴散らして横たえる。数分も待つと、月
の光でも明らかにわかるほど、頬に赤みが差してきた。

 好      :「おはよ」
 六石     :「おはようございます……あの、他の方々は?」
 好      :「まだ瓦礫の下か、もうとっくに脱出して帰ったか、めん
        :どくさくなって死んだか、三つに一つでしょうよ」

 投げやりに呟いて、その辺に転がっていたコンクリートの破片を遠く蹴り飛
ばす。それを見て六石がくすりと笑った。

 好      :「(むっ)なによっ」
 六石     :「本当にそうですか?」
 好      :「当たり前じゃない」

 すると、また六石が笑い出した。

 好      :「だからなんなのよっ」
 六石     :「だって、好さん、笑ってるじゃないですか」
 好      :「ぇつ!? そ、そんな事無いわよう」

 手を顔をに当てる。たしかに、ほっぺたの辺りが引きつっているようだった。

 好      :「こっ、これは……」
 六石     :「本当は楽しかったんでしょう?(くすくす)」
 好      :「……ちょこっとだけ(小声)」
 六石     :「ちょっとだけですか?」
 好      :「ああっ、もう! 結構楽しかったわよっ!!」

 赤くなって声を張り上げると、六石は本当に屈託無く笑った。あたしはなん
だか怒る気も失せて、その場の瓦礫にすとんと腰を下ろす。

 好      :「まったくっ(真っ赤)」
 六石     :「ふふっ、ごめんなさい。ちょっと、好さんが可愛かった
        :から」
 好      :「……今日の六石、意地悪いよ」
 六石     :「そうですか?(くすくす)」
 好      :「うん、ぜったいそう」
 六石     :「だって、クリスマスイブの夜ですから」
 好      :「クリスマスイブの夜だから?」
 六石     :「いけませんか?」
 好      :「ん〜、そういうのもありかも」

 大きく伸びをして、月を見上げる。しゃんしゃんと鈴の音がして、一瞬月の
手前を何かが横切ったような気がした。無論、一瞬のことだったから、本当に
横切ったかどうか確かめるすべは無い。
 ふと、六石も同じように月を見上げているのに気がついた。それを見つめて
いると、視線を感じたのか六石もこちらを向く。視線が合って、数秒。どちら
ともなしに吹き出して。お互いに笑い合う。

 好      :「メリークリスマス」
 六石     :「メリークリスマス」

 悪くない。
 こういうのは悪くない。
 こんな場所でも、お互いに笑いあっていける間は、まだまだ大丈夫。
 あたしは初めてちょっとだけ、大工の息子に感謝した。


解説
----
 2002年という言葉が意味を成さないけど12月24日、クリスマスイブのコルチ
キンタワー、好たちの一日。


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         # 月影れあな明日も明後日もれあな #
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         # cogito,ergo sum by Descartes #
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