エッセイ『時の過ぎ行くままに』

エッセイ『時の過ぎ行くままに』


 TRPGを遊びたいのである。
 いきなり何だとお思いかもしれないが、遭難とは唐突に襲ってくるものであっ て、いや違う、無理矢理なボケをかましている場合ではなく、つまるところ、 いてもたってもいられず、干天に慈雨を求めるが如く、無性にTRPGを遊びたい のである。

 思えば学生時代は幸福であった。
 授業にも出ずバイトもせず、暇さえあればのべつまくなしTRPGのことを考え ていたのである。
 迷宮に潜り、幽霊屋敷を探索し、巨大ロボットの操手となり等色々だったの である。頭上からスライムが落ちてきたり、邪神に遭遇して発狂したり、巨大 ロボットの操縦がうまくいかずにコケまくって自滅したり、これほど多様な体 験をした大学生なぞ、きっと私以外にも沢山いたに違いない。今はもっといる のではないか。何と言っても1人のかげに30人である。ぞろぞろ。
 ちなみに、なんか負けてばっかりいたようではあるが気のせいである。気の せいと言うことで、その事実はぜひ忘れていただきたい。

 さて学校というところは理不尽なものである。
 試験を受けたら、どういう訳か、卒業できることになってしまったのである。 卒業したら、もはや学生ではなく社会人なのである。信じられない、何と奇想 天外な変転なのであろうか。こんな無体を人民は決して許しはしないのである が、ひねくれて星を睨んでみても仕方がないのである。人はTRPGのみにて生き るにあらず。自分の食い扶持は自分で稼がねばならないのである。

 TRPGを遊びたいのである。
 就職後の茫然自失を過ぎた頃、その衝動は唐突にやってきた。
 しかし、何と言っても学生時代の遊び仲間とはお別れであり、遊ぶ時間もま まならない身の上である。
 やむにやまれぬ衝動のまま、本屋を歩き回ってTRPG関連の雑誌を探したり、 電話帳を繰ってゲームショップを探したり、休日には電話帳から抜き出したリ ストを片手にさまよい歩いたりし始める羽目に陥った。ショップに行けば、コ ンベンション情報のチラシがあったり、口コミによる情報が得られたりするか も知れない、それをあてにした行動であった。
 今なら、TRPG.NETがあるからそんな苦労をしなくても済む。今の人達が羨ま しい。有難う、TRPG.NET。

 CMはさておくとして、かような苦労をしてコンベンションに参加し始めると コレが滅法面白いのである。
 まず、遊ぶ相手が不特定なので極めて新鮮である。無論、とんでもない奇人 変人に遭遇することもあるが、なに、そういう面では当方にしたところで似た り寄ったりなのである。他人様のことだけ悪くは言えない。馴れ合いのない緊 張感あふれるセッションになっちゃったりして、何故かGM置き去りとか言うワ ケワカランことになったりもするのである。テンション上がりすぎの阿呆とし か言いようがないことであるが、若気の至りということで小さな声で懺悔する のである。ここだけの話と言うことで是非オフレコでお願いしたい。
 次に、今まで遊んだこともないシステムに遭遇する事だってあるのである。 これによって新しい世界が開けてきたりもするのである。新しい世界が開けた のは良いが、実は既に絶版とかいうようなこともあって、何処が新しい世界な んだと思いつつ、これは実に悔しい。悔しさのあまり、プレミアつきまくりの 中古品を買い漁って支払いに途方にくれることも少なくはなかった。人、これ をバーサークと呼ぶのであるが、ちなみに、これも秘密である。特に、妻には 是非内密にお願いしたい。
 最後に、遊ぶ内容が濃密なのである。学生時代とは違って遊べる時間が極め て限定されるので、TRPGを遊んでいる時にはソレに集中したくなるのである。 時間が惜しいのである。セッション中に漫画読んだり眠ったりしている余裕は ないのである。学生時代はそんなプレイヤーだったのか、という問いには一切 ノーコメントである。予断はよろしくないので是非この件は速やかに忘れてい ただきたい。私なぞもうすっかり忘れてしまった。何の話だったっけ?
 コンベンションでプレイヤーばかりしていた訳ではなくGMもやった。これが 実は身内でやるのに比べて格段に緊張感が違うのである。勉強になるのである。 GMとしての技量を磨きたい人は、是非、コンベンションでGMをやってみるべき だと思うが、一方私の場合、練習台にされたプレイヤー達もたまらなかったで あろう。南無阿弥陀仏。

 TRPGを遊びたいのである。
 独身時代は、それでも月1回程度には遊ぶことができたのである。
 今や、日本は未曾有のデフレに突入し、労働時間はひたすら長く長く長く長 くなっている。
 更に我が家には、TRPGを遊ばない妻がいるのである。とにかく、妻が大事な のであり、自分の健康だって少しは大事なのである。数少ない休日は家族サー ビス(これが結構楽しい)や親戚関連(あまり楽しくない)やその他諸々の雑用に 充当され、疲労回復(これが一番不愉快)にも消費されてしまうのである。

 今ではTRPGを遊ぶことができるのも年に数回程度、色々と時間をやりくりし て遊ぶTRPGは凄く面白い。毎回が実に新鮮なのである。砂漠で出会ったオアシ スのように素晴らしい時間なのである。

さいごに

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月刊TRPG.NET 2003年03月号

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