初心者KyrieのGURPS世界構築失敗記

初心者KyrieのGURPS世界構築失敗記


 私がTRPGを始めたのは今からおよそ三年前のことです。
 全てはあの日、謎の多いある友人の家に遊びに行った時から始まりました。
 私はいつものように彼と雑談とテレビゲームを楽しんだ後、友人の部屋にお 邪魔しました。そこで一冊の本を見つけたのです。
 それは、文庫版のガープス・ベーシックでした。
 そのときのかすかに残る記憶を掘り返せば…

「なあ」
「何? どうかしたん?」
「……これ何?」
 その怪しげな表紙に惹かれ、思わず手にとってめくりながら彼に私は尋ねま した。
 奴の顔に浮かぶ邪悪な微笑。
「TRPGって知ってる?」
「いや、ぜんっぜん」
 当時、私はTRPGというものの存在自体を知りませんでした。ましてやそれが どんなものであろうかなど、知っている訳がありません。今考えれば少し恥ず かしい気さえしますが、その時はそんな状態でした。
「えーっとね、まあ紙と鉛筆でやるRPGやね」
「紙と鉛筆?」
「そう。で、"なりきって"話を進めてくのな」
「なりきるって……"なる"っちゃどういうこと?」
「キャラクタを作って、それになりきって話を進めるんだよ」
「ふうん……」
 当時、私は余暇時間をどうやって使えば良いかに困るぐらいの暇人でした
(今思えば、もっともっと勉強しておくべきだったかもしれません)。こういっ た話に反応しないはずがありません。
「実際、どんな感じなの?」
「んー……」
 友人は言葉に詰まります。これは今思えば当然のことですし、私にも未だに 簡潔に説明するということは出来ません。それだけTRPGが多くの要素を抱えた、 奥深い趣味であるということなのでしょう。
 そして、彼のとった行動は。
「やればわかる」
 単純明快。これ以上の方法はなかったでしょう。
「やるって……まさか今から?」
「いいからいいから。はい」
 そう言って彼は私に半ば強引にキャラクタシートを渡し、ガープスのルール を説明していきます。彼の説明が上手だったこともあって、二時間ほどで(今 では苦い思い出の詰まった)初キャラクタが完成します。
 そしてそのまま、雪崩の様に初セッションへと向かいます。まったくの即興 シナリオで、進行もところどころ滞りがちでしたが、それでも初心者相手には かなり上手く回った方だと感じています。何故か深夜の街の中を女性が指輪を 探して匍匐前進し、それを手伝えば黒光りするカサカサ君(台所なんかにいる あいつです)を素手で握り締めたり、果ては有り金全部盗られたりと色々あり ましたが、とても楽しく、そして充実した時間を過ごすことが出来ました。
「どうよ?」
「いや、面白いなこれ」
 この瞬間、私はガープスに、そしてTRPGにはまってしまいました。
「借りてええか? これ」
「ええよ。ただし返せよ」
 かくして私は家でガープス・ベーシックを読み漁り、新しい刺激に満ち溢れ た時間を過ごすことになるのです。

 そしてある時ふと、思います。
 自分が永らく描いてきた世界を、これで再現する、表現するということはで きないだろうか?
 私は絵も描けなければ、小説も何も書けません。然しこれならば。これであ れば、打ち込む事が出来るのではないか。
 早速作業に取り掛かりました。文具店でルーズリーフを購入し、思いのまま に脳の中に蓄えられた情報を手から紙に投射していきます。みるみるうちにイ メージは文字となり、設定となっていきます。私は満足していました。

 然し次の日の朝、目を覚ましてそれを眺めて愕然とします。あまりに独りよ がりな内容、世界設定としての穴の多さ、そして絶対的な情報量の不足。これ では到底、実際に使ってプレイすることなど出来ませんでした。理由は色々あっ たと思います――TRPGやガープスについての理解の無さと経験の薄さ、狭い視 野と偏った知識、表現の貧弱さ。それら全てが重なって、実に陳腐な代物となっ ていました。
 そこで私は、どうやら先ずはルールを理解しようと努力することにしたよう です。ルールを叩き込むためにルールブックを読み漁りましたし、そうした本 が希少だったために行った「文庫版ルール要約写し取り」は頭にルールをこび りつかせるのに効果的でした。空で技能をすらすらと言えるようになると、設 定を考えたり書き上げたりするのがとても楽になった実感がありました。

 そうしてどんどん記憶の中にルールを詰め込んでいった私ですが、やがてそ れを日本語版についてやり終えると、何をしたら良いか分からなくなってしまっ たようです。この一年半ほど続いた時期は、とにかく思いついたことをひたす ら紙に書いては消す、といったことを繰り返していました。今ではその多くが 紛失してしまいましたが(実に惜しい損失です)、現在の設定にもかなり影響の あった時期であったと思います。
 そして最初の転機が訪れたのは、家にPCが入ってきたときでした。これはつ まり、Webを通して情報を集めることが出来るようになったということで、そ れまでとは比べ物にならない量の情報に圧倒されてしまいました。中には到底 自分には及びもつかないと思える様なものもあって、暫く間は自分の設定を書 くのではなくて、それらを見て回ることが日課となりました。TRPG.NETの存在 を知り、暴れまわったのもこの時期です(迷惑をかけてしまった方々、申し訳 ありませんでした)。
 次の転機はその半年後に訪れました。ただでさえ暇だった私は更に暇になり、 それを活用すべく自分のページを作ることしたのですが、その時に自分がこれ まで作り上げてきた設定をアップすることにしました。そこでテキストを打ち 込んでいくうちにまた穴が見つかりだし、作業は途切れ途切れになってしまい ます。結局内容は中途半端なまま作業が中断してしまい、暫く時間が流れまし た。

 最後の転機は、つい最近、今年の正月前後です。IRCで相談を持ちかけたと ころ、その設定の不完全さが改めて浮き彫りになり、現在大幅な見直しと増量 を目論んでいるところです。これまでの設定では詰めが甘く、「ではそこから 何が導かれるのか?」や「それはプレイにどう影響を与えるのか?」というこ とに答えることが十分にできません。また「PC達は何のために冒険を行うの か?」に上手く答えることが出来ず、「シナリオのネタになるような設定を沢 山盛り込んでいる」というわけでもありません。つまり、何のための設定なの か分からないぐらいの出来であった、ということです。今はこれを解決するべ く、少しずつ努力を重ねている段階です。

 GURPSの楽しみの一つは、膨大な量のデータと柔軟性を生かしての世界構築 にあると思っています。ゲームとして多少不完全な形に持っていくことまでし て、それを追い求めているのですから、これを活用しない手は無いはずです。
 もしも、自分の思い描いた世界を書き下すことが出来たら。
 そして、その中でキャラクタを動かしてもらうことが出来るとしたら。
 これはきっと素晴らしいことでしょうし、とても楽しいものであると思いま す。


 然し、世界構築の際にいくつか注意しておくべき点があるとも思います。

その1……
 先ず、思いついたことは必ず紙にメモしておくこと。
 後で書こうと思っても、絶対に忘れてしまいます。忘れてからではもう遅い のですから、とにかく思いついた瞬間に形にしておくことが大切です。私もこ れで何度も痛い目にあっています。

その2……
 メモした紙はきちんと整理しておくこと。
 いくらたくさんのことを思い浮かべることが出来て、それらを形にできたと しても、利用できないのでは話になりませんし、使おうと思ったことがメモさ れている紙がどこかにいってしまっては目も当てられません。ただメモするだ けではなくて、きちんと分かりやすいように整理しておくことも重要です。

その3……
 設定、特にプレイに関する設定を書く時は、具体的な例を挙げると分かり易 くなります。
 長々しい説明だけに終始してしまっては、読んでいるほうもうんざりしてし まうでしょうし、書いているほうも内容を掴み辛くなるかも知れません。"イ メージが湧くような"具体例をいくつか挙げれば、分かりやすくなる上に忘れ 辛くもなります。

その4……
 前述しましたが、出来るだけシナリオのネタになるような事柄を盛り込むと 面白くなります。
 対立や友好、交易や地理の特性、それに最近の情勢などなど、こういった要 素には事欠きません。書き手はとにかく出来る限り多くの事柄を詰め込んで、 より可能性の幅を広げるべきです。書き手の脳の中にあることは、読み手には 文字を通じてしか伝わらないのですから、多く書けば書くほど設定は使い勝手 が良くなり、またイメージしやすくもなるはずです。


 設定を書き上げるということはとても楽しい作業です。
 熟練者から私と同じ初心者の皆さんまで、一回世界構築を試してみてはいか がでしょうか?
 きっと楽しめると思います。

■GURPS情報倉庫
http://www.trpg.net/rule/GURPS/

さいごに

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月刊TRPG.NET 2003年01月号

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