エッセイ『冬きたりなば……』

エッセイ『冬きたりなば……』


 世間では胸踊る頃らしいが、このところのクリスマスは受難が続いている。
 毎年子供たちのハードな要求(レアグッズ等)に応えねばならない。「店で売っ てないものはサンタさんに頼めばいいよね」、困ったものである。

 今年もその季節。ポケットには情け容赦のない要求メモ。「TRPGなんかなら 1回買うとずっと遊べるのになあ……」そう思いつつも「確かに私がGMで何度 もモンスターメーカーRPG(旧版)とかやるよりは、TVゲーム等の方が面白いのは 否めないよな、向こうはプロの作品だし……」
 割り切れない気持ちを抱えつつ、足にまめをつくって何軒も店を廻って……、 やっと見つけた。

「やれやれ、今年も何とかなりそうだ。せっかここまで来たからホビーショッ プにも寄ってみるか」かなり散財したが懐にはまだ3000円くらいは残っている はず。「自分のためのプレゼントも少しくらいはいいよな」久しぶりにショッ プに入る。ボックスや書籍がズラリ。やはり、こういうところの方が落ち着く みたい。ざっと棚を眺めてみる。

 どうやら今の私はTRPGにはむいていないらしい……。

 いきなり眼に飛びこんできたD&Dの赤箱・青箱、各々20000円。天羅万象スター ター、8000円。いずれも私が(2002年末)ショップで実際に目にした中古品の価 格である。
 確かに日本語版は絶版になって久しいし、貴重なものなのだろう。オークショ ンサイトを見ても「その値段はつくだろう」くらいの価格が入っている。

 翻ってまだ買える作品のほうはどうだろう。さらに店頭をみる。

 テラ・ザ・ガンスリンガー、4000円。
 ブレイドオブアルカナ2nd、4000円。
 D&D3rdコアルール、各々3000円。
 ヴァンパイア・ザ・マスカレード、6000円。
 アルシャード、3000円。
 ナイトウィザード、3800円。
 ブルーローズ、4800円。
 特命転校生、4000円。
 モンスターメイカーリザレクション、3000円。
 ガープスベーシック、4800円。
 ソードワールド完全版、3600円。
 ウィッチクエスト、3500円。
 ゴーストハンター2、4800円。
 輪廻戦記ゼノスケープ、4000円。
 ダブルクロス、3600円。
 ドラゴンアームズ、3600円。
 そしてトーキョーN◎VA The Revolution REVISED、3800円。

 まだまだあるがコアルールの価格帯は似たようなものである。ひとつ買って しまえば帰りの電車代が……。そんなことを心配しなくてはいけないこと自体、 情けないことこのうえない。

 おまけに、TRPGにはコアルール以外に多数のサプリメントやアクセサリがあ る。それにかけるお金も馬鹿にはならない。
 何をいまさらこんなわかりきったことを書くのか不思議に思われるかもしれ ない。それは、私が現行ではコアルールすら満足に買えない状態であることを 再認識せざるをえなかったからである。先述のコアルールを単純に集計したら 七万円を超える。独身の頃ならまだしも、扶養家族を抱えていると可処分所得 が限定されていて買えない。あまり大きな声では言えないが、私の小遣いだと 冒頭の2つの中古品を買えば1ヶ月はゆうにダイエットができ、加えて禁酒禁 煙も実行(TRPGはとても健康的な趣味なのかも……)できそうだ。
 まあ、もちろん全部買うなんて方は希なのかもしれないけど、何人かはそう いった狂信者(失礼)もいないとペイしないジャンルなのかなあ、なんて感慨を もってもみたり……。

 また、ルール買ったら買ったでまずはきちんと読まないといけない。次にセッ ションするなら準備(場所、シナリオ等)が必要だ。これにかかる時間がまた結 構馬鹿にならない。それはGMとかやっている方(そうでない方でも推測は可能 でしょう)ならよりよくわかるはず。

 私は、趣味とは費消したモノ(金銭、時間等)に対する報酬が引き合わないも のだ、と考えている。消耗した分、その趣味をもたない人から見たら何の価値 も無いものを得る。しかしながら、今の私の場合、費消するモノがそもそも足 りない。まあ、熱意が足りないのかもしれない……。ただ、生半可な熱意では 金も時間も創り出すことはできない。あらためて「TRPGって贅沢な趣味なのか な」とも思ってみたり……。

 まあでも、いつまでも私の環境は同じじゃない(そのうちサンタも解任して くれるだろう)し、何より遊んでくれるプレイヤがいる。TRPG.NETに来るとそ う思え、そう感じる。その感触が欲しくて、私はTRPG.NETにきているのだろう な……。
 マスターカードのCMみたいに言うなら、ルールブックはお金で換算できるけ ど、プレイヤは「プライスレス」なのだろう。お金じゃ買えないものもある。 いつでも遊び続けている人が居る限り、私はTRPGに対して決して絶望すること はない。また、以前のようにプレイできる日がやってくる。冬きたりなば、春 遠からじ。

 そう考え直し「子供たちも大きくなったから、ぼつぼつ毛色の違ったもの(必 ずしも戦闘で勝てないようなTRPG)でもやらせてみるか。武器で殴って勝つだけ ならコンピュータRPGでもできるしな」つと手を伸ばして棚にあった日本語版ク トゥルフを手にとってみる。20000円也。

 やはり今の私はTRPGにはむいていないらしい……。


さいごに

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月刊TRPG.NET 2002年12月号

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