【SWキャンペーン:始源の竜の物語】
プロローグ:冒険者達の過去



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 ここで掲載されているプレイヤーキャラクター達の過去は、キャンペーン開始時に事前情報無しで、キャラクターに「冒険者になった理由」というものをA4一枚程度で考えてもらい、各キャラクター毎に30分から40分程の時間を使って個別にミニセッションを行っています。(その為に一日使いました)

  そして、その後に個別のミニセッションの結果を踏まえて、プロローグとして簡単な小説調で収録しました。ちなみにこの後、色がついているキャラクターは、セッション前に出会い共に旅をするようになっています。(冒険者となってからセッション開始までの年数を考慮してボーナス経験点もあげています)

ルーク=デラハム=カモミール 名誉を求めて旅に出たラムリアースの騎士
アーシュライン=シスト 恋人を追い旅に出たベルダインのラーダ神官
フーズ=ラング 両親の生死を知る為に冒険者となった狩人
パルサス=アイアルス 妻を殺した人間を探し続ける戦士
フェンリル=アルハザード 自分の内に眠る何かを恐れる戦士
ハインド=ハボック 人間としての生き方を求めた暗殺者
セリシア=ヴァナ 妹を救う旅に出た魔法使い

 

ルーク=デラハム=カモミール
(人間・男・16歳・168cm・62kg)

 ラムリアース騎士の一人息子として、彼は生まれた。

 父の名は、クステファン=デラハム(商人の生まれ)旧姓クステファン=ムトシング。母の名は、ミーシャ=デラハム、代々騎士の称号を持つ家の一人娘であった。

 二人がどの様にして出会い、そして、恋に落ち、彼が生まれたのか......それは、いずれ語る機会もあるであろう......ただ、燃えるような恋であったとだけ、今は言っておこう。

 とにかく、彼はそうしてこの世に生をうけた。しかし、それは一つの命、母であるミーシャの命と引換にしての生誕であった。

 父は、その後も母を愛し続け、男手一つで騎士の家を守ると共にルークを自分の跡継ぎとして、時には厳しく、そして、時には優しく育てた。

 ルークは親として、また剣の師として父を尊敬し、愛していた。彼にとっての最大の喜びは父に誉められる事であった。

 ルークが、16の誕生日を迎える一週間前の日の事であった。

「父さんはこれから一週間の間、国王の命である任務につくが、お前の誕生日には必ず帰ってくる。なにせ、お前が16になる、めでたい日だ。共に祝杯をあげるとしよう」
「うん、必ず帰ってきてね。父さん」
「大丈夫だ、心配するなルーク」

 だが、これが彼の耳にした父の最後の言葉であった。

 父は帰ってきた。しかしルークを前にしても父の口からは一言も発せられる事はなく、あの慈愛に満ちた笑みを彼に向ける事はなかった。

 父は、死んだのだった。

 どのような任務かはルークには知らされなかったが、数人の騎士が命を落としたらしかった。その中で、ある事実がルークを愕然とさせた。父は背に切り傷を負っていたのだった。

 そのために父は、『逃亡を謀ろうとして切られてしまった』と決めつけられ、デラハム家は、騎士の家名を剥奪された。

 だが、世間の白い目と心無い非望中傷を防ぐ手だてはなく、彼は父の汚名を晴らし名誉を取り戻すために、旅立つ決意をしたのであった。

 どうすればいいのか、本人にも分からない、あての無い旅へ。

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アーシュライン=シスト
(人間・女・20歳・165cm)

 アレクラスト大陸西方、ベルダインにて生まれ、母はベルダインのラーダ神殿の司祭キュラレスト=シスト。父は物心ついた時には既にいなく、母が言うには、アーシュラインが生まれてすぐに死んでしまったらしい。

 そして、それ以上の事を母は話そうとはしない。
 ただ、母の持っている肖像画を幼い頃に一度見たきりだ。それも良くは覚えていなかったが。

 16歳の時に、アーシュラインは、ベルダインの町外れでサイレンスという青年と出会った。彼は、旅の詩人であり、アーシュラインに唄を教えてくれた。

 その唄は、天上の調べのごとく美しく、唄う者もまた神の子のごとく美しかった。透き通るような藍色の髪に何者をも見通すような銀の瞳。

 また彼は、どんな人の前でも笑顔を絶やさなかった。
 だが、どこか影があった。

 アーシュラインは、彼が笑顔を絶やしたのを一度だけ見た事がある。

 彼は、橋の手すりにほうずえをついて海を見ていた。アーシュラインは、彼を見つけて声をかけようと思ったが、できなかった。

 彼は、泣いていた。
 溢れる涙を拭おうともせず、ただ流れるのに任せて......。
 その瞳はただ、海を見ていた。

 彼は、アーシュラインの事をアーシュと呼び、妹のごとく愛した。

 アーシュラインも毎日の様にサイレンスの唄う酒場に昼間から行き、サイレンスの語る唄を聞き、そして唄を習い、そして彼を愛した。それは妹が兄に持つ愛情とは違うものであったが。

 アーシュラインの17歳の誕生日であった。

「ほら、アーシュ。これを君に」
「サイレンス、なにこれ?」

 それは、ハープであった。小さなハープであったが、アーシュラインの素人目にもかなり高価な物というのがみてとれた。

「アーシュ。君も、今日で17だろう?これは、そのお祝い」
「いいの、サイレンス?こんな高価な物......」
「アーシュは、そんな心配をする必要はないさ」

 突然、アーシュラインは告白を思い立った。
 なぜか、今、言わねばいけないような気がした。

「......好きなの......サイレンス。」

 しかし、サイレンスはにっこり笑ってこう言った。

「僕もだよ、アーシュ」

 この時アーシュは悟った。彼は、私を恋愛の対象として見てくれてはいない。愕然としたアーシュの目に映ったサイレンスの笑顔が、しかし、妙に寂しげだったのは気のせいだったのだろうか?

 次の日、少し目を腫らして、それでも元気に酒場に到着したアーシュラインの耳に、いつものサイレンスの曲の音は響いてはこなかった。

「サイレンス......?」
「あれ、お嬢ちゃん?どうしたんだい?」

 酒場のマスターが、カウンターから顔をのぞかせた。

「あっ、ダルシーさん......サイレンスは?」

 この次に聞いたマスターの言葉は、アーシュラインが今までに聞いたどんな言葉よりも大きな衝撃であったであろう。

「あれ?サイレンスなら、また旅に出たよ。聞いてなかったのかい?何でも、北に行くって言ってたけれどな......」

 その日の夜、アーシュラインは母、キュラレストと初めての大喧嘩をした。いままで母に反抗した事がないアーシュラインの初めての抵抗であった。

 数時間に及ぶ口論でも、母は折れなかった。
 だが、あきらめたような表情をしてアーシュラインに言った。

「流れ者に惚れちまうなんて、やっぱり血筋かねえ。アーシュライン、どうしても旅に出て、そのサイレンスという男を追うんだったら三年間、我慢をおし!!三年間、みっちりと修行をして、そのサイレンスを助けてあげられるぐらいの法力をつけな」
「お母さん......」
「アーシュライン、私はね、自分が世間知らずで、力が無いばっかりに、お前のお父さんを死なせてしまったんだ。お前にはね、そんな思いをさせたくはないんだよ。わかっておくれ」
「うん......」

 三年の月日は、あっという間に過ぎた。20歳の誕生日の日にアーシュラインは旅仕度を整え街道に立っていた。

「お前も、もう立派な一人前だ。後は、どんな事があっても一人で生きて行ける。これから、どうやってサイレンスを見つけるつもりだい?」

 アーシュラインは、にっこりと微笑んで母に言った。

「まずは、北に行くわ。そして、旅をしてれば会える気がするの、私」
「よし、じゃあ行ってきな!!」
「おか〜さ〜ん、行ってきま〜す!!」

 それが、アーシュライン=シストの旅の始まりであった。


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フーズ=ラング
(人間・男・21歳・175cm・70kg)

 出身は、リファールの西方のスフィール村。

 父は、ケルトスという名の薬剤師。母は、フェミルナという名の狩人の娘である。父は流れの薬剤師で、母が狩りの時に誤って射って怪我をさせてしまったのがきっかけで知り合ったのだそうだ。

 フーズは、生まれてから父と母とそして祖父、祖母に囲まれて幸せに暮らしていたが......フーズが、10歳の時であった。

 父と母がいなくなった。誰にも知らせずに旅にでたのか、それとも、神隠しにあったのか?何の手がかりも残す事無く、父と母はフーズの前から消えた。

 それからは、祖父と祖母と共に暮らした。

 20歳の時に、祖父の部屋でたまたま父の残していた日記を見つけた。それには、父の冒険の日々が克明に書かれていた。

 それは、フーズには信じられないような大冒険活劇だった。他人がみたらホラ話と思うかも知れない話であるが、フーズは、父が嘘をつくような人間ではない事を知っていた。

 その日記を見たフーズは、様々な事を知った。特に父が追っていた宝物の事を。

 その昔、古代魔法王国時代に西方に存在していたと言われる大魔導師。西方の大守だったらしい、その大魔導師が残したと言われる禁断の魔導書『ユセリアウスの魔導書』......それを父は『始源の竜の教団』と争って追っていた。

 日記で判ったのはここまでであった。フーズは、ある決意をし、そして、実行に移した。ある日の晩、フーズは旅の支度をして、家の前に立っていた。

「ばあちゃん、じいちゃん......ごめん」

 フーズは、リファールに向けて走りだした。祖父も、祖母も起きはしなかった。走って、走って、走り通してリファールにフーズは辿り着いた。そして、ある宿屋に入って自分の荷物を確認したフーズは愕然とした。

 自分の背負い袋に入れたはずの無い、いくばかりかの金貨が入っていた。

「..........じっちゃん」

 旅をした。手がかりは『始源の竜の教団』という名前だけであった。

 そして、一年が過ぎた。


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パルサス=アイアルス
(人間・男・32歳・173cm・63kg)

 生まれは、オーファンのセレス村。

 父、イクス=アイアルスは冒険者。母、ヴィオン=アイアルスはセレス村の娘であった。母は病弱で、パルサスがまだ幼い頃に他界し、母が争いを嫌っていた事もあって、小さい頃は剣の練習よりも本を読んでいる時間の方が多かった。

 しかし、冒険者をめざし、日夜剣の修行をしているゲインという名の友人に影響され、剣の勉強を始めた。

 17歳の時に、父がターシャスの森でのゴブリンとの大紛争で命を落とした。そして、天涯孤独となったパルサスは冒険者となって生きる決意をした。

 旅立つ日の事であった。

「ゲイン、どうしたんだ?」
「いやな......お前をほってけはおけなくってね。友人だからな」
「ゲイン......」

 パルサスとゲインは、冒険者となった。西方諸国を中心にして暴れ回った。パルサスが21の時、ガルガライスでニーナという女性と出会った。二人は恋に落ち、結婚した。

「幸せになりなよ、二人とも」

 そう言い残して、ゲインは旅立って行った。

 パルサス=アイアルス23歳、ニーナ=アイアルス20歳の時に、娘エセナ=アイアルンが生まれた。
 彼ら三人は、幸せな日々を送った。

 だが、パルサス=アイアルス32歳、西方諸国の一年の家族旅行から帰ってきてから一週間後のある日の事であった。

 その日は、パルサスは薪割りをしていた。しかし、家族の待っているはずの小屋には、誰もいなかった。

「お〜い、ニーナ、エセナ?あれ、どうしたんだ?」

 その時、南の崖の方で誰かの叫び声を聞いたような気がした。

「ニーナ?」

 すぐさまパルサスは、薪割り用の斧を持ったまま、崖に向かって走り出した。崖に向かう道の半分まできた時、ある男とすれ違った。

 その男は、普通の格好をしている旅人のようであった。パルサスがすれ違う瞬間、尋常ではない殺気と、短剣が襲いかかってきた。血の臭いと共に。

「な、なんだ!?」
「ほう、よく避けましたねえ。私の剣を避けるとは。あなた、ただの木こりじゃぁ、ありませんね」

「き、貴様何者だ?」

「もしかして......あなたが、パルサスさん?ニーナさんの夫の?」
「な、なぜそれを?き、貴様、ま、まさか、ニーナをどうしたぁ!!」

「殺しました。そういえば満足ですか?」

「うおおぉおぉおお!!」

 片手の斧を振りかぶって、目の前の男に叩きつけた。だが、たたきつけたと思ったのは、気のせいだったのか?男は、易々とパルサスの斧を避け、代わりにパルサスの腕に切りつけていた。

「か、体が」

 動かなかった。

「いやあ、よく効きますねえ、この毒は。このままあなたを殺してしまってもいいのですが、それではおもしろくありませんねぇ」
「くっ......くうっ!!」

「......そうだ、おもしろい事を思いつきました。ゲームをしましょう。あなたに残された手がかりは、この私の顔だけ。そして、あなたは妻の仇のこの私を追いかけるんです。何年かかるかわかりませんですけどね」

「き、貴様の名は何という!!」
「教えるもんですか、ヒントが多くてはゲームは面白くありません」

 そして、パルサスは気を失った。
 気を失う瞬間にパルサスは、男の指に竜の紋章の指輪を見たような気がした。

「あれ、ニーナ....どうしたんだよ。また、いつもの冗談だろ?」

 崖の上、パルサスは、血の海に倒れているニーナを抱き抱えながらそう呟いた。しかし、いつもの冗談ではない事は、誰よりもパルサスが一番良くわかっていた。

 ニーナは、動かなかった。パルサスが何回、何十回、何百回、何千回と呼ぼうともニーナは返事を返す事はなかった。

「ニーナァ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 エセナの姿も消えていた。
 パルサスは決意した。
 男のゲームに乗る事に。

「必ず、必ず探し出して、殺してやる」

 手がかりは男の顔と、そして、指につけていた指輪に彫られていた見た事もない竜の紋章。


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フェンリル=アルハザード
(人間?・女・19歳)

 彼女の父は、プロミジーのデルヴァの森と呼ばれている森の外れにひっそりと住む、アドレス=アルハザードという名の賢者であった。賢者は、魔法使いでもあったが、決して彼女には魔法を教えようとはしなかった。

 彼女は色白で、長い黒髪に黒い瞳が印象的な、清楚な感じの美人であった。だが、フェンリルの住んでいる村の青年達は口を揃えて彼女の事をこう言った。

「彼女は羊の皮を被った気高き銀狼だよ......」

 彼女は強くて、美人で、優しく、村の人気者であった。そんな彼女の運命はある日を境にして突然動き始めた。

 その日は嵐であった。いつもと変わらぬ生活を送り、夕食の準備をしていたフェンリルに、突然強度の頭痛が襲った。

「い、痛い......お、お父さん、助けて......」

 駆けつけたアドレスの目の前で、フェンリルの髪は銀に染まった。

「フェ、フェンリル......」
「ふう、やっと出れたか......これからは、私は自分の力を使って、好きな様にさせてもらうからな」

 全ての情景をフェンリルは自分の目を通して見ていた。

 彼女の全ての力が自分の目の奥の空間に閉じ込まれてしまったようであった。自分ではどうしようもないままに物語は動き始めていた。

「フェンリル。どうしてしまったのだ......まさか、まさか!?」

 とっさに、アドレスは魔法を唱えようと身構えた。

「魔法か?そうはさせない!!」

 魔法をかけようとしていたアドレスの無防備な胸に、渾身の力を込めたフェンリルの手刀が突き刺さった。その情景を見たフェンリルの中で、何かが弾けた。

「う、うわぁあ!!ま、まさか、これほどの力がまだ?」

 しばらくフェンリルは苦しみ、苦しみ抜いて......フェンリルは、フェンリルとなった。

「お、おとうさん。しっかりして......おとうさん!!」

 だが、既に、父は虫の息であった。フェンリルにはどうしようもなかった。もしも、自分に癒しの力があればと、自分自身を呪った。

 そんな彼女に、アドレスは隠していたある真実を語った。

 彼女が自分の娘でない事。彼女は、17年前の今日の様な嵐の日に家の前に置かれていた捨て子であると言う事。その赤子を拾ったアドレスの耳に響いたある男の声............。

「その声は、お前を普通の子として幸せに育ててほしいと言ったよ。許しておくれ、その声に約束を誓った私が、お前を残して死ぬ事を......」
「父さん!!私の父は、父さんだけよ!!だから、だから死なないで!!」
「お前が赤子の時に持っていたペンダント......これが、お前の父の唯一の手がかりだ......フェンリル、この17年間、私はお前という娘を持って、しあ、わ、せ、だったよ......」

 そう言って、父は眠るように動かなくなった。

「おとうさ〜〜〜ん!!」

 ........彼女は、思い出の詰まった家に火を放ち、そこを後にした。
 嵐は止み、空には燃える炎に彩られた赤い月があった。

「我が娘フェンリルへ、キール=ブラッシェル......」

 ペンダントには、この言葉が彫られていた。

 運命の歯車は廻り始めた。それは、フェンリルの望む形ではなかったのだが。

 彼女は、冒険者となって暮らし、それから二年の年月が過ぎた。


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ハインド=ハボック
(人間・男・24歳・168cm・50kg)

 生まれはオランのカトル村。

 ハボック家の五番目の子供として生まれるが、12歳の時に家の借金がどうしようもなくなった父と母は自殺をし、六人の子供達は路頭に迷った。

 子供達は、自分達で生きる決意をし、村を出た。しかし、ハインドは運悪く奴隷商人に捕まりロドーリルの盗賊ギルドへと送られ奴隷としてギルドの暗殺担当の長である『黒蜘蛛』ダールの元で暗殺者として修行をさせられた。

 それはまさに地獄の様であった。暗殺者となれるか、それとも死か?常にダールはそう言い、ハインドを血も涙もない暗殺者として扱った。

 『隠者』の暗号名を持ち、十数人もの人間を殺していたハインドだが、盗賊ギルドの命でギルドに逆らった家族の家に忍び込んだ、ある晩の事であった。

 既に一人を残して全員殺していた。その一人とは......4歳の少女であった。ハインドには、その少女が妙に自分の妹に似て見えた。

「どうなさった、ハインド?お主が殺さぬと言うのであれば、私が殺すが?」

 隣に控えている『死花』と『稲妻』が声をかけてくる。殺さない訳にはいかなかった。もし、ここで躊躇すれば二人に弱みを握られる事になるから。

「安心しろ......」

 ゆっくりと、ハインドのダガーが少女の無防備な首筋に突き刺さった。

 ビクンッ。

 少女は、一瞬だけ体を震わせ、動かなくなった。涙に濡れたその瞳が、見開かれたまま、いつまでもハインドを見つめていた。

「ハインド、どこへ行くつもりだ?」

 そこは、ギルドからかなり離れた街の郊外であった。

 ハインドは、人殺しに嫌気がさしていた。ギルドを抜けるために今は歩いていた。自分の穏行の術は、完璧なはずであった。誰にも気がつかれてはいないはずであった。しかし、実際には背後に男が立っていた。

 『銀糸』......暗殺者の中でも1、2を争う実力の持ち主であった。今のハインドの実力では到底かなう相手ではなかった。

「シルバー......スリッド......あんたか......」
「ハインド......『隠者』の暗号名まで持つお前なら知らぬ訳ではあるまい。【ギルドを抜ける者には死を】......」

 闇にまぎれて『銀糸』の顔は見る事はできなかったが、なぜか、その声は悲しげに聞こえた。

「知っているさ、掟は。だが、俺は抜ける。もう、こんな所とはおさらばだ。相手が、あんたであろうとも、俺は必ず逃げてみせる」

 汗が頬を伝わって、地面に落ちた。

 強がってみせても、それは、不可能な事であった。
 しかし、次のシルバースリッドの言葉は、ハインドを驚かせた。

「ギルドを抜けるか......それもまた一つの生き方だろう......ならば、抜けるからには捕まるなよ、必ず、逃げのびろ」

 シルバースリッドは、クルリと背をハインドに向けた。

「シルバースリッド......あんた......」
「何をしている、早く行け」
「............すまない」

 そして、ハインドはロドーリスの盗賊ギルドを抜けた。顔を変え、姿を変え、諸国を放浪した。盗賊ギルドの追手はことごとく倒していた。

 運に助けられた時も多かったが、ハインドは生き延び、西方諸国と呼ばれる地に辿り着いていた。既に追手は半年前に倒した『稲妻』以来襲ってくる者はいない。

 そろそろ顔を隠さず、本名を名乗る事ができるのだろうか?

 ギルドを抜けてから、五年の年月が経っていた。


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セリシア=ヴァナ
(人間・女・20歳・160cm)

 父は、オランの貴族、ナヴァエル=ヴァナ。
 母は、シャレスという名の、オランに住んでいた平民の女性であった。

 父と母は、魔術師ギルドの私塾で知り合った。そして愛し合い、結婚し、セリシアが生まれた。両親は、セリシアを溺愛した。

 過保護とも思われる育て方であった。セリシアはそれに反発して12歳の時に家出した。昔から憧れていた冒険者として生きる決心をした。

 だが、世の中、そんなには甘くはない。泣きながら家に帰れれば運の良い方で、時には奴隷商人に連れさらわれる事もあるのだ。そして、人生というのは運の良い事よりも悪い事の方が多いものだ。その例に漏れず、セリシアも奴隷商人に捕まったのである。

 泣き叫ぶセリシアを、好色そうな笑みを浮かべて抱き抱える奴隷商人。

「かっかっかっ、お嬢ちゃん。世の中を甘くみていたねぇ。世の中を甘くみた代償は、少々高くつきそうだけどもなぁ」
「いやっ!!離して!!誰か〜〜!!」
「こんな所を助けてくれる奴なんかいないよ、お嬢ちゃん。えっへっへっ」

 セリシアは、絶望で目の前が真っ暗になった。ここで自分の人生は終わりなのかと、このままこの男のなぐさみ者になってしまうのかと思った。

 その時であった。

「いやいや。正義の味方っていうのは、結構いるもんだよ」
「カリディアも、物好きな奴だよなあ。ま、俺達もそうか」
「お、お前らは何者............うげっ!!」

 悪者がふっとび、ふと、顔をあげたセリシアの視線は、涙にぼやけながら一人のハーフエルフの存在を認めた。

「大丈夫?あらあら、こんなに汚れて」

 そう言って現れた、同じ様なハーフエルフの女性の姿を見つけた瞬間....セリシアは、その女性の胸に飛び込んで、おもいきり泣いていた。

「びえ〜〜ん!!おね〜ぢゃ〜〜ん!!」

 セリシアを助けてくれたハーフエルフの精霊戦士、カリディア。
 人間の精霊使い、フィラレイン。
 グラスランナーの盗賊、シャミノ。
 ハーフエルフのお姉さん、エルメス。
 ドワーフの神官戦士、カイヤン。

 彼らと共に五年の冒険をした。東方諸国を股にかけての大冒険であった。最初は、ただのお荷物のセリシアであったが、エルメスに魔法を教えてもらって、何とかお荷物にならないように努力した。

 彼らは、セリシアに何も聞かなかった。
 ただ、優しかった。
 五年たったある日、六人はオランへと戻ってきていた。
 そして、カリディアは、セリシアを前にこう言った。

「セリシア、もう、両親のもとに帰って貴族としての生活に戻ってもいいんじゃないかな?」
「カリディア......どうして?」
「わかるさ......五年間も共に暮らしていれば、隠しているつもりでも、分かってしまうものさ、とっさの言動とかでね」

「でも、カリディア......私....」
「セリシア、実はね。僕達は、これから西方に行くんだ」
「それで、私がじゃまになったの?」

 セリシアは、信じられなかった。五年間、心の底から信じていた人達に裏切られると言うのが信じられなかった。いや、信じたくなかった。

「そうじゃないのよ、セリシア」
「嘘よ!!みんな、私の事が嫌いになったんでしょ!?」

 エルメス姉さんの言葉も聞こえなかった。
 そんなセリシアの肩に、カリディアは優しく手を置き、声をかけた。

「君も知っての通り、僕達は、南の呪われた島からこのアレクラスト大陸に来た......だけどね、僕以外はその呪われた島、ロードス島の出身なんだけれども、僕は違うんだ。僕は、西方の出身なんだ」

 初めて聞く事実だった。いままでカリディアを初めとするみんなは、全員呪われた島の出身だと思っていた。

「西方のね、タラントという国の出身なんだ。そこのカパールというエルフの集落で、僕は生まれたんだ。」

 そして、カリディアは語った。カパールで片親に人間を持った為に迫害され、それに耐えきれずにカパールを飛び出して冒険者となった事を。

「でもね、セリシア......僕は帰ろうと思うんだ。僕の故郷であるカパールにね。今ならば、僕は負けない、そう思う。だからセリシア、君も自分の運命に負けずに立ち向かってほしい。今を逃せば、もう、君は立ち向かえないと思うんだ......」
「だいじょ〜ぶだよ、セリシア。何かあったら僕達を呼びな!!何があっても飛んで来るよ、このリュートを片手にね」

 横から草原の妖精であるシャミノが、笑いながら声をかけた。
 その声を聞きながら、目に涙を浮かべながらもセリシアは微笑んでみせた。

「そうね、カリディアもがんばっているんだもの。私も、がんばってみるわ」

 カリディアは、微笑んでセリシアを抱きしめた。

 だがしかし、帰ってきたセリシアを迎えたのは、両親ではなかった。父の弟であり、セリシアの叔父にあたるザレス=ルーマンであった。

 ザレスからセリシアは重大な事柄を聞いた。

 両親が、数日前に謎の事故で死んだ事。妹のイリアが何者かにさらわれて、どうやら西方のドレックノールに奴隷として連れて行かれてしまっていたらしいという事。現在、継承者がいないために、ザレス=ルーマンが財産を管理しているなど。

「おうおう。しかし、セリシアが帰ってきて、ほんと〜に良かった。これで、ヴァナ家も安泰ではあるな。は〜〜、しかし、両親と妹ぎみの事は残念ではあるなぁ。妹は全力を尽くして捜索中ではあるのだがなぁ」

 その時、セリシアはこの叔父にひどく嫌なものを感じた。それは、五年間の冒険者家業で培われたカンであったのか......。

 その夜、セリシアの枕元に二つの影が立った。白くぼんやりとした影は、はっきりとした声でセリシアにこう告げた。

「セリシア......ここにいてはいけない。セリシア......ここにいてはいけない」
「お、お父さん。お父さんとお母さんなの?」

 一方、その頃、ザレスの書斎では。

「ついにセリシアが戻ってきてしまったではないか......一体、貴様らロドーリスの暗殺者はいったいどうなっているのか!!道楽で貴様らを雇っているのではないのだぞ!!」
「し、しかし、オランの盗賊ギルドの守りが強く......」
「だから、わざわざお前達ロドーリスの暗殺者を雇ったのだ!!だがしかし、なぜオランの盗賊ギルドがあんな小娘を......」

「それに、あの五人の者達」
「そう、あのボディーガードきどりの五人。セリシアの素性を知って、金でもせしめてくるかと思ったが、そういう訳ではなかったようだったがな。ともかく、なんとしてでもお前達、あの小娘を殺せ。手段は問わぬ!!」
「御意」

「なんと、西方に行くと申すのか?」
「はい、両親亡き今、貴族としてまだまだ私は世間知らず。それならば見聞を広めるためにも諸国の様子を見て回りたいと思いまして。それに、妹を探し出したいのです」
「ふ〜む、そうか......心配ではあるが、見た所決心は固まっている様子。それでは、これを持っていくが良い」

 そうしてセリシアに渡された皮袋には金貨が50枚入っていた。

「叔父様......」
「うむ、セシリア。道中、気をつけるのだよ」

 そうして、セシリアは旅に出た。目指すは妹が連れ去られたというドレックノールである。家の門をくぐるセリシアを窓から見ながらザレス=ルーマンは邪悪な笑みを浮かべていた。

「家を自ら出ていくとは、非常に都合が良い。だが、ロドーリスの暗殺者にはそろそろ愛想がつきてきたのぅ」
「それはご安心をザレス様。西方に行くのなら都合良く、現在西方には我がギルドでも、一、二を争う暗殺者、<銀糸>がおりますゆえ......」

「それならば良いがのぅ」
「それにしても、ザレス様も悪ですのぅ」
「それをいうならば、ロドーリスも、最近なにやら良からぬ計画を立てているそうではないか?」

「これはこれはザレス様、お耳が早い」
「のう、そち、山吹色の饅頭でもどうだ?」
「いや、私、饅頭には目がなくて」
「そうか、そうか、あっはっはっはっは!!」

 と笑い声が、いつまでもヴァナ家の屋敷に響きわたっていた。


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