霊機装甲 召還 ----  突然、目が覚めた。  硬い床、眩しい日差し。  寝起きは、悪い方じゃない。すぐに、目を覚まし、情況を把握する。  俺は、妹の、美和の姿を探した。  俺の眠っていたところは、15m程度の部屋の奥、少し上がった、いわば祭壇 のようなところらしい。  その俺を、じっと見ている一人の老婆。……目があってしまう。  しばし、見詰め合う俺と老婆、その瞬間に、二人に愛が芽生えない事を俺は 真剣に祈ってしまった。 「現実界の、お方ですな?」  老婆が、口を開く。澄んではいないが、生気に満ちている。  そう言えば、格好もちゃんとしている。と言うより、そこそこの地位にある のかもしれない。  丁度、教会の神父(女だが)のような格好だ。 「聞こえていますか?」 「あ……ああ」 「そうですか、混乱しているのは分かりますが、いかんせん時間が無い。貴方 は、現実界の人ですね?」 「現実界?何処だ?そこは」 「……こことは違う世界です」  ……理解した。どうやら俺は、異世界に来たらしい。この世界とは違う世界 から来た事を、ばあさんは確認しているだけだ。大方、魔法なんかで召喚した んだろう。良くある話だ。……ゲームや小説なら……な。 「あんたは、何者だ?」  どうせ、魔術師とか、女王とか、大神官とか言うのだろう。「私ですか、ウ ロボロス神殿大神官、メディアと申します」  ほら、やはり大神官か、パターンだな、パターンすぎる。 「俺は、地球人、日本と言う国に住む大学生、秋山良(あきやま・りょう)だ」  軽く、挨拶をする。同じ人間としか思えない奴相手に、“地球人”という挨 拶もどうかと思ったが、ここが違う世界なのなら、名乗っていた方がいいだろ う。  ドグォン!  な!……なんだ!  突然、建物全体がゆれる。地震じゃないな、近くで爆発した感じだ。 「フム、時間が無いです。貴方に頼みたい事があるのです」  ほら来た。どうせ、世界を救えだの、魔王を倒せだのと来るんだろう? 「貴方には、霊機装甲に乗り、この神殿を守っていただきたい」  ……似たような物か……。霊機装甲? 「頼みましたぞ」 霊機装甲 -------- 「おい、ちょっと待て!」  俺が、そう言いおわらないうちに、周りの景色が変化する。 先程よりも広 い空間、気温はそんなに変わらない。  しかし、人のざわめきと、金属のすり合う音、打ち付ける音が聞こえてくる。 「お待ちしていました、リョウ・アキヤマさん……ですね?」  俺が、部屋(と言うには大きすぎるが……)の隅で腰を下ろしていると、黒 髪のショートカットの女が話し掛けてきた。 ……美和?……こいつ、妹の美 和に似てやがる。 「君は?」  俺は立ち上がりながら言う。目の前の女は、作業衣のようなつなぎを来てい る。黒髪、黒目、立ち上がると身長も美和と同じくらいか? 百五十センチく らいだ。俺を見上げる仕種もそっくりだ。 「私は、ミリエラ・マースティン。ここの整備士をしています。ごめんなさい、 時間が無いの、早く、アーマーへ」  そう言うと、俺の手を引いてゆく。声も似てるな。  俺は、そこで周りを見渡す余裕が出来た。  ……。  こりゃ、すげぇ。ここまで来ると、笑えもしねぇ。  この部屋は、どうやら格納庫と言う言葉が一番会うだろう。  高さは数十メートル。広さも、体育館が2つばかり入るくらいの大きさだ。 そこに、いかにもな巨大ロボットが……5体。全て、人型をしていて、頭があ り、手足があり、二足歩行が出来そうだ。 「なあ、『あーまー』ってのは、あれの事か?」  俺は、手を引かれ、早足で歩きながら壁によりかかるようにして置かれてい る巨大ロボットを指差し、聞いた。 「そうです。アーマーと私たちが呼んでいる、霊機装甲です。ここにあるのは、 C級霊機装甲ばかりです」 「で、あれに乗って、どうするんだ?」 「とりあえず、神殿を守ってください」 「何から?」 「ドール……霊機人形からです」 「それも、巨大ロボットなのか?」 「ろぼっと?……無人の巨大ゴーレムです。大きさはアーマーと変わりありま せん。基本性能はこちらの方が上です」  ほう。この娘、結構頭良いな。ロボットという単語は知らないみたいだが、 俺の知りたい事は大体つかんでいるらしい。 「動かしかたは?」  その質問を聞いた途端に、彼女は立ち止まった。 「分かりません」 「え?」 「分かりません、大神官様の話では、選ばれし人のみが動かす事が出来ると……」 「君は、整備士なんだろう?動かし方も分からないで整備しているのか?」 「……はい」  彼女は、少し沈んだ表情になり、俺の顔を見詰めながら言った。 「……分かった。時間がないんだったな。あとで説明してもらうからな」 「はい。がんばって」  俺は、その言葉を聞くと、昔のロボットアニメの女性クルーの言葉を思い出 して苦笑した。しかたねぇ、元の世界に返る為にも、やってやるか。 始動 ----  俺は、手近な白い霊機装甲についている足場を駆け上り、7m程度はある胸 の部分まで来た。そこは、開いた装甲板の奥に一人用の座席があり、周囲には モニターのようなものがついている。  俺は、座席に腰掛け、周りを見回す。それほど、いろいろスイッチがついて いるわけではない。気になるのは、両手を下ろした所にある水晶球。 「これか?」  手を触れた瞬間に『思い出した』。突然、記憶がよみがえったかのように、 霊機装甲のしくみ、操作法、武装、そして名称までもが理解できる。 「ヴァリアード」  機体名を呼んだ途端。全てのモニターに光がともり、周囲を映し出す。胸の 装甲板が閉まり、中は密閉された。装甲板の裏面に光が点り、外の映像を映し 出す。 「よし。いくぞ」  俺の意志を読み取るかのように、ヴァリアードが動き出す。格納庫は登りに なっていて、その向うは空が見えている。 「神殿は……」  右端に、上空からの平面図が表示される。用意の良い事だ。東か。距離もそ れほどない。  エネルギーは?……OKだ。充分飛べる。  そう。こいつは飛べる。俺が飛べると思うなら。  ヴァリアードは背中から翼をだし、上空へと軽くジャンプ。そのあとは、滑 空するかのように翼も動かさず、飛翔する。  なかなかに速い。これなら数十秒で神殿まで着ける。  今のうちに、使用可能武装のチェックをする。接近武器は……剣か。引き抜 いてみると大体俺が剣道で使ってる木刀程度の重さと長さか。まあ、何とか行 けるだろう。  あとは……霊操武器? 長射程エネルギー武器か……。このエネルギーの減 り方じゃ、2発が限界か……。  ……おいおい、接近武器と弾数制限のある武装だけかよ……武器の格納スペー スはあるってのに、装備してない。整備士が動かせないってのは本当かもな ……。  神殿が見えた。石で出来た巨人が3体、殴り合いを展開している。2対1か ……たしかに分が悪そうだな……。 「生体反応チェック……」  声に反応し、生命があるところを光点であらわしてくれる。神殿内に一つだ け……信じるしかないか……。  俺だって、どこぞの訳の分からない施設を守るために、人殺しまでしたくな い。……まあ、自分の命は危険でもいいのか? と聞かれれば首を振りたいが、 自分で関係ない人を殺すよりマシだ。 「よし……いくぜぇっ!」  3体が格闘戦を演じるところに上空から切りかかる。狙いは2体のうち1体。 戦闘開始 --------  ドンッ……ズウウゥゥン  ……なんだ、もろいな……一撃かよ。  上空からの奇襲で1体を倒され、残る2体が反応して来る。襲われていた1 体は神殿の前に仁王立ちとなり、片割れを失った1体がこちらへ向かって来る。 「向かって来るなら……やっちまうぜっ」  剣を構え、迎え撃つ。殴り掛かって来る拳を剣で受けつつ、間合いを計る。 「もらいっ」  ギイイィィン!  金属的な音が響いた。全身が石で出来た巨人である。何処が弱点かも分から なかったので、まず腕を落とすべく肩口を狙ったのだが、まんまとはじかれた。 「さっきは斬れたのに、今度は傷一つつかねぇのか?」  先ほど倒した奴と形状は同じだ。材質の違いかと思って検索をかけたが、出 てきた答えは同じ物だと言う。  2度、3度切り付けるが、何処にあたってもはじかれてしまう。  先ほどは飛行中の速度をのせた斬撃とはいえ、それほどまでに威力が変わる とは思えない。 「ちっ……何が足りないんだ?」  答えのでない疑問を口にする。結構焦ってるな。俺。 『きあいです』  なっ……誰だ? 『プラナの集中が足りないのです』  このしゃべり方……最初にあった大神官とかってばあさんだな……。 「ぷらなぁ……えーと……“気”って意味だったな。気なんて使えねーぞ、俺」 『使えないわけがありません。霊機装甲を動かせるのですから』 「んなこといったって……」  闇雲に殴り掛かって来る敵をいなす。受け止めるのではなく、受け流すよう にすると体制の建て直しの時間が稼げる。動きの切れはこちらが圧倒的に勝っ ていた。 「気合か……やってみるか……」  幾度目かの突進を剣でいなし、更に背中を蹴り飛ばしてやる。石の巨人はつ んのめって倒れた。 「はああぁぁぁっ!」  空手の呼吸法に、“息吹”ってのがある。剣道でも声と共に息を吐き、気を 溜める事がある。剣を正眼に構え、全身の力を抜いた後に下腹部へ呼吸を集中 させる。剣道の場合、そこから感覚を剣先まで伝わらせるのだ。 「ん?」  刃から、光が放たれる。材質は良く分からないが金属で、しかも特に機構は 組み込まれていない同一物質の筈だ。光を放つような機構はない。  モニターからの情報だと、充填30%だそうだ。エネルギーを溜めているの か? 「これなら……行けるかっ?」  背中の翼を大きく開き、低空飛行に入る。相手はようやく体勢を立て直した 所だ。 「いけぇぇっ」  迎撃のために殴り掛かって来る拳を首を傾けて躱し、すれ違いざまに胴を凪 ぐ。抵抗感はない……かわされた?  ズズウゥゥン  後ろで聞こえる崩れる音。モニターの危険表示はクリアされている。 「おわった……のか?」  周囲を見回す。生体反応は変わらず、他に動く巨大な物体はない。 「おわったな……」 『おみごとです』  また、先ほどの声が響く。 「ありがとよ、さて、これであんたの要求はのんだ。事情を聞こうか?」 『その前に、降りてこちらへどうぞ、簡単ですがおもてなししましょう』  ……やれやれ、長い話になりそうだな……。 「わかったよ」  胸部の操縦席から、巻き上げ式のワイヤーを使って降りる。上るときにもこ いつを使えば地上からでも乗れるわけだ。  俺は、正面にヴァリアードを残したままで、神殿の中へ入っていった。 異界 ---- 「さて、話を聞こうか?」  机に並べられた「おもてなし」を口にしながら聞く。なんだか良く分からな い果実だが、一口で食べられるし、噛むと果汁が甘くて食べ易い。 「何から話せば良いやら……」 「……とりあえず、俺は元の世界には戻れるのか?」  言いよどむ大神官をみて、こちらから質問する。大体、「魔王を倒さないと 戻れない」とか言うのか? 「戻れます……いや……正確に言うと、戻っても意味が無い……ですな」  お?ちょっと予想と違う答えだな……。 「どういう事だ?」 「貴方の世界は、こちらより具現値が高いため、全てを召還する事は出来ませ ん」  具現値? 分からない単語は後で聞くか……。 「よって、今の貴方の存在は、現実世界でいた貴方の数万分の一のかけらでし かないのです」 「……」 「従って、貴方を元に返しても、今の貴方の意識が数万分の一となって現実界 へ戻るため、結局はこの体験を忘れてしまいます。しかも、現実界の貴方は今 でも変わらぬ生活をしている……」  ……なるほどね。俺の一部だけを召還したって訳か……。だから、元の俺は そのままで、戻っても覚えてないって訳だ。 「実際、貴方の具現値の数万分の一は、既に復元されています。ですから、現 実界の貴方に戻しても、全く意味が無い。その割に、こちらは送還に多大な労 力をかけねばならないのです」 「多大な労力……ってのは?」 「そうですね……力ある術者の命……といえば分かり易いでしょうか?」 「……なるほどね」  命……とは、随分な労力だ。確かに、戻っても意味が無いわ、戻るのに犠牲 が出るわでは、戻る必要性は感じないな……。  自分でも、このばあさんの言ってる事に疑問を持たないのが不思議だ。身に 纏う雰囲気なのか、嘘をついているとはとても思えない。だまされてる可能性 だってあるよな……。 「証拠は?」 「証拠……ですか……現実界の貴方をわずかな時間見る事は出来ます。しかし それを見て信じられますか?」 「……いや、良いや。あんたを信じる」 「ありがとうございます……で、どうします? 元の世界へ帰りますか?」  ……そこまで聞いて、帰りたい……と思わないところが、俺もまだまだだっ て事かも知れない。  実際、あの巨大ロボットを動かしたときは興奮したし、不思議と恐怖感も無 かった。しかも、客観的に考えれば俺が帰るのはただの無駄でしかない。 「俺のやるべき事……ってのを聞いてからじゃ駄目かい?」 「それでも構いません。ただ、聞く気も無く帰るとおっしゃるなら、時間の無 駄ですからね」 「それはないって事だ。続けてくれ」 「分かりました。さて、貴方を読んだ理由は、霊機装甲に乗ってもらうためで す」  んなことは分かってるよ……。 「何故霊気装甲に乗ってもらいたいのかというと、さきほどの“ドール”を退 治していただきたいのです」  退治……? 「いずれも、私たちが招いた事ですので、私たちだけで処理したかったのです が、いかんせん、霊気装甲は我々の世界のものは操縦する事ができません」 「それで、俺を呼んだって訳か」 「そうです。現実界の方は、具現値が高い為に強力な能力を有しています。そ の能力を持ってないと、霊気装甲を操る事はできません」 「具現値……と言ってたな。それは?」 「世界に具現する際の値。言い換えれば、“存在感”でしょうか。この値が高 いほど、強い力を行使する事が出来ます。ただし、具現値の低い存在を認識す る事は、余程の感覚を持っていないと不可能です」 「う……まあ、存在感ねぇ……何と無く分かった。つまり、俺が居た世界の方 が“濃く”って、この世界の方が“薄い”。だから、俺の一部だけで俺がこの 世界に存在する事ができる……訳だな?」 「ふむ……正確ではありませんが、その程度の認識で良いと思います。完全に 説明するには一晩では足りないですからね」 「……分かった。そいつは遠慮する。で、俺が“帰る”と言い出したらどうす るつもりだ?」 「別の方を召還します」 「そんなにすぐにできるもんなのか?」 「いえ、少なくとも数週間はかかってしまいます」 「その間、どうするんだよ」 「先ほどのようなゴーレムで対処するしかありますまい」 「……」  無理だな……。その“ドール”ってのがさっきのと同じ程度の強さで、複数 いるなら、この神殿の“ゴーレム”ってやつでは防ぎきれないだろう。