最近、佐藤賢一にハマっています。一年位前に佐藤賢一さんの『傭兵ピエール』を読み、これがとても面白かった。だから、つまらない本を読んだ後に口直しとして読める小説として、一気に読むのは控えていました。 ところが、たまたま佐藤賢一さんの代表的な作品である「双頭の鷲」を読んだところ、これがまたツボにハマり、そこからはたがが外れたように一気に読んでしまいました。
現在、自分の部屋の本棚が埋まってしまい、入りきらない本が部屋に溢れている状態なので、できるだけハードカバーの書籍を買わないようにしています。しかしながら、佐藤賢一さんの作品で文庫・新書の物は、残すところ「ダルタニャンの生涯」だけです。果たして「二人のガスコン」や「カルチェ・ラタン」に手を出さずにいられるでしょうか。
よく『傭兵ピエール』と比較されるこの作品ですが『傭兵ピエール』をヒロイックとすれば、この作品はエピックな小説と言えるのではないでしょうか。一介の傭兵隊長からフランス軍の頂点である大元帥にベルトランが上り詰め、そして落ちゆく一生を描いたこの作品。騎馬試合に始まり、小規模な合戦、そしてフランス全土を巻き込む戦争を駆け巡り、縦横無尽に才を振るう様はまさに痛快の一言でしょう。彼を取り巻く人物も多彩で、克明に描かれています。名参謀のエマヌエル、好敵手のグライー、ベルトランを愛するティファーヌ等々。また、戦だけではなく、その裏に横たわる政治、陰謀、更には個々人々の人生などが、まるで当時のフランスの風景を目にしているかのように、情感たっぷりに語られています。少々長い物語ではありますが、佐藤賢一さんの作品の中では癖が少なく、読みやすいので佐藤賢一作品を知る最初の一歩にお勧めです。(三八三文字)
佐藤賢一さんのデビュー作。九四年に発売されたハードカバーの同作品を、大幅に加筆集成した物が文庫として登場しました。人称も一人称から三人称に変わっています。戦国時代の終わり、江戸幕府が始まったばかりの頃。九州は伊達政宗に仕える武士、斉藤寅吉。彼は、若き野望と希望、そしてそれに見合う藩内随一の剣術を手に、遙かイスパニアに渡ります。遠き欧州の地で、友と妻を得て寅吉はこの異国で暮らしていくことを決意します。戦地を転々とし、前線に在っては伝来の剣を縦横無尽に振るい、後方となれば独学で紐解いた孫子の兵法を用い獅子奮迅の如き活躍を見せます。ついには友に連れられ新大陸へ渡り、森林の奥にあると言われている黄金郷を求め旅をします。新大陸に来たかと思えば、原住民に神と崇められ、イスパニアを見限り原住民と共に戦い、鮮やかな勝利を見せてくれます。ロマン溢れる冒険小説を求めている方は、是非読んでみて下さい。(三九五文字)
「ジャックリーの反乱」と言われても、西洋史どころか世界史に疎い僕にはピンと来ませんでした。フランス全土を巻き込んだ、大規模な農民による一揆を主題にした話です。佐藤賢一さんの他の作品と比べると、全体的に暗い調子で話が進んでいきます。残虐な場面も多く、辛い方もいるかもしれません。であればこそ、フランスに出来した「ジャックリーの反乱」という現象が読者の眼前にハッキリと現われるのではないでしょうか。扇動を受け、理性を失い暴虐の限りを作る農民達。そしてそれに苦悩する、首謀者ジャックの側近たる主人公。天才というわけでもなく、英雄的でも無い、ましてや神掛かっている筈もない、極々普通の人達に焦点を当て、そんな彼等がちょっとしたことで狂ってしまう恐ろしさ。史実を元に、日本に於ける西洋歴史小説家の旗手によって浮き彫りにされたフランスの暗澹たる歴史の一部がここにあります。(三八〇文字)
西洋歴史小説家佐藤賢一の名を一躍有名にしたこの作品。他の作品に見られる、血湧き肉躍る冒険活劇から一転して、今度はフランスを舞台にした法廷劇です。しかも、原告はフランスの至高を頂くルイ十二世、一方被告はその二十年来の妻であるジャンヌ・ドゥ・フランスと来れば、一筋縄でいくわけがありません。そして、この法廷劇の主人公といえばパリの学級都市カルチェ・ラタンに伝説を残した男。二十二年も夫婦として生活を営んでおきながら、三行半を突きつけ「結婚を無かったことに」と言う王を相手取り、弁護士フランソワは民衆を味方に正々堂々と闘います。ルイ十二世は業を煮やして暗殺を試みるも、弁護士を慕う近衛兵によってそれを阻まれてしまいます。勝利は不可能だと思われていた裁判を、手練手管を用い徐々に徐々に形勢を逆転させていく様は嫌がおうにも読者を盛り上げてくれます。当時の裁判の様子を知る上でも良い資料になるでしょう。(三九五文字)
十四世紀のフランスを舞台にした作品を多数発表している佐藤賢一さん。その中にあって唯一舞台が十四世紀でもフランスでも無い作品です。かの有名なユリウス・カエサルが活躍したガリア戦争を舞台に、カエサルの敵となるガリア地域の王ヴェルチンジェトリスクを主人公に据えた物語です。不世出の英雄と言われ、偉大な人物として知れ渡っているカエサルを「悩める中年」として描かれているのが面白いところでしょう。ヴェルチンジェトリスクは、圧倒的なカリスマと恐るべき戦略をもって、分裂し、ひたすら内乱を極めるガリアを統一していきます。一方で、遙かローマから最強の軍団を連れガリアを征服せんと蠕動するカエサル率いるローマ軍。若きガリアの王と、悩めるカエサルが、ついに対峙します。常勝将軍と謳われたカエサルを最終決戦の場で追いつめ「カエサルを撃て」の号令の元、千を越える弓矢が一斉に放たれるのですが……。(三八六文字)