●六月はイニシャルトークDE連続誘拐/霧舎巧/講談社ノベルズ
霧舎巧氏はもしかして、ラブコメに関するイメージが酷く古いのでは無いだろうか。僕自身は、所謂ラブコメ漫画や小説にはとんと疎い。そんな人間が読んだにもかかわらず、恋愛部分の物語の流れがベタベタを通り越して、大時代的なものを感じてしまったのだ。毎月一冊ずつ刊行していくという、小説としては速いペースなのもあるのだろうが、全体的に筆者の他の小説に比べると粗雑な感じを受ける。逆に、全体を通して感じるアッサリ感は漫画を思わせ、ミステリを読んだことが無かった人でも苦労なく読めるのではないかと思う。新本格が流行って以来、ミステリというと迂遠冗長でトリックの説明もなんだか頭痛でも起こしそうな複雑さだったりするものが多かったが、そういった推理小説群にくさびを打つという意味では素晴らしい作品だ。ミステリと言ったら名探偵コナンか金田一少年の事件簿という人が「推理小説」の入り口として読んでみては如何だろうか。(三九六文字)
●天使/真野隆也/新紀元社
天使という言葉から想像するイメージは人によって様々だろう。敬虔なキリスト教徒ならば聖書に登場する様々な天使達、恋愛真っ最中の女性ならキューピットを、お菓子が好きな人ならばエンゼルマークを思い浮かべるかも知れない。そういった様々なイメージを持つ天使というものを、包括的に解説し分かりやすく分類してくれるのがこの本である。ユダヤ教と関係の強い幾つかの宗教に於ける天使像は相互に補完していたり矛盾していたりして、それぞれの聖典を読んでいたりすると混乱してしまうこともある。この本では、そういった矛盾・補完関係についても丁寧に一つずつ解きほぐし、より明確な天使像を与えてくれる。広く浅く扱っているため、個々の天使についてはそれほど詳しい説明は無いが、天使という存在について調べる初めの一冊にするには丁度よいだろう。より詳しく知りたい人の為に、参考文献についてもしっかりと記されているのはありがたい。(三九五文字)
●フェミニズム入門/大越愛子/ちくま新書
ペダンチズムという言葉がある。衒学趣味というやつだ。専門書なんかを読んでみると、ひたすら専門用語が羅列されていて、しかもレトリックで粉飾された文章であったりして読みづらくとても読者の存在を意識した本とは思えない書籍がある。何かを説明する本としては、こうの様にペダントリィとレトリックに満ちているというのは言語道断である。この本も入門と謳ってはいるが、専門用語が多くフェミニズムに関する知識が全然無い人が読んでもサッパリ分からないだろう。専門書ならばまだしも、想定読者が初級者であるはずの入門書としてはあるまじき行為と言えよう。基本的に、中に書かれていることは専門用語で叙述されたフェミニズムの歴史といったところで、フェミニズムの興りから現在までをざっと説明している。そういう点からも、どちらかと言えばフェミニズムやジェンダー学を専攻する学生が授業の副読書として読むのに適しているのでは無いだろうか。(三九九文字)
●プランク・ゼロ/スティーヴン・バクスター/ハヤカワ文庫SF
壮大の一言に尽きます。僕はこの作品で始めてバクスターを知りましたが、太陽系どころか銀河系、更には宇宙全体を巻き込む一大スペクタクルにはとても驚かされました。次から次と人類に攻まる地球外知的生命体達、人知の及ばぬ超知性ジーリー、果ては銀河を覆う空前絶後の大きさの虚空のリング。短編連作という手法で語られる雄大なクロニクルは思わず「流石ハードSFの雄バクスター」と唸らずにはいられません。本書に収められている12編の物語は、ジーリーモノの中でも分岐点となる重要な作品となっています。以前からバクスターのジーリーシリーズを読んでいる人なら当然の抑えるべき作品集と言えます。またバクスターを知らない人にとっては、この壮絶な「ジーリークロニクル」の玄関口として最適な本になるでしょう。惜しむらくは、幾つかのジーリーモノが絶版でになってしまっていることです。早川書房さんには是非再販をお願いしたいところです。(三九六文字)
●吸血鬼ドラキュラ/ブラム・ストーカー/創元推理文庫
有名すぎる為に書名だけが一人歩きしている小説というのは沢山あります。この『吸血鬼ドラキュラ』もそんな小説の一つではないでしょうか。吸血鬼を題材にした小説の元祖と言える本書は、今から百年以上も前に書かれた怪奇小説ですが、その構成や筆致は今見ても古びることはなく読めば読むほどブラム・ストーカーの凄まじい筆力を思い知らされます。年代的に多少古くささを感じるところはあるものの、翻訳が良い所為か今読んでも大きな違和感を感じることはありません。ドラキュラ伯爵の悪虐な罠、そしてそれに立ち向かうヘルシング教授と友人達と全体の構成は至ってシンプルですが、視点を変え日記調で語られる恐怖に満ちた日々、めまぐるしく舞台を移し展開する物語はけして読者を飽きさせることはありません。吸血鬼に関する小説や映画は数多ありますが、その源泉であるこの小説には吸血鬼の全てがつまっていると言っても過言では無いでしょう。(三九四文字)