ショートショート02
前回に続いてまたショートショートです。ネタが思いつけばすぐに書けるのでこういう短い話も楽しいですね。いろいろと細かい遊びもできますし。
私は一人でいるのが好きだ。今も誰もいない自分の部屋で寝そべって、いろいろな事を考えていた。テレビもオーディオも本すら無いような殺風景な部屋だが気に入っている。何より、ここに来れば誰にも邪魔されず一人になって好きなだけ物思いに耽ることができるのが素晴らしい。
別に私は人間嫌いで非社交的な人物というわけでは無い。逆にどちらかといえば友人は多い方だし、社交の範囲も広く外国人の知り合いも多く得意ではないが英語もしゃべることができる。
大勢の知り合いや友人、上司に囲まれて仕事をするのはそれなりに楽しいし、労働に汗を流すのも嫌いではない。お陰で模範的な働き手として評価され、部内の信頼も厚い。特定の女はいないが、これは私の周りに女性が極端に少ない所為だろう。仕事場は殆ど九十九パーセント男なのだ。
一人でいるのは好きだが、孤独は嫌いだ。矛盾していると言わないでほしい。私には私なりの論理があってのことだ。
孤独というのは群を成すという状態があって初めて成立する概念だ。仮に世の中に自分一人しか知的生命体が存在しなければ、孤独という状況も無い。しかしそんな時でも一人っきりという概念は存在し得る。
私は、自分一人で部屋にいるときではなく群衆の中に紛れ一人きりで歩いているときなどに孤独を感じる。だから私は群衆が嫌いだし、人混みや雑踏に飲み込まれるのなんてまっぴら御免だ。
職場なんかは構わない。周りにいる人間の殆どは知り合いだし、例え知己を得ていなくとも同じところで働いているというだけで、なにか安心を感じる。
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「おーい、秋山。ちょっと手伝ってくれえ」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。庭の隅に作る小屋の材料となる角材を運ぶ為に人が必要なのだろう。すぐに走って彼のところまで行って手伝ってやった。
「じゃあ、いくぞ。一、二、三、それっ」
長さ七メートルほどの角材を四本。かなり重く働き盛りの男二人で持つのも辛い。相棒と二人で、息を合わせながら足下の障害物に気をつけながら小屋の土台のそばに運んだ。
私の役割は、本来なら肉体労働ではなく図面を引いたり設計をしたりする方だが、うちの職場では役割分担の境界は緩やかで手が空いていれば誰でも可能なことは手伝うことになっている。
一人が好きな私は、製図板に向かって図面を引いたり立てる場所を確認してだいたいの完成図のラフスケッチを書いていたりする方が好きだった。同僚はみんなそれを慮ってくれて、他の仕事にかり出したりすることは少ないがそれでもやはり人手が足りない事はよくある。
それほど大きな小屋でも無かったので、一週間もすると大方完成した。倉庫にする予定の小屋だから内装はする必要が無いし、あとは細かな調整だけである。最後に内部を点検するときも、ゆっくり一人になって小屋の中で過ごした。
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一人でいるときは、部屋にいるときでも道を歩いているときでも様々な思索や空想が広がる。時には自己の存在について深く哲学的な思弁をしてみたり、時には理想の女とのめくるめく生活を妄想したりする。
最近は三次元時空体の四次元空間における連続構造を考えてみたり、神智学者シュタイナの提唱するアカシックレコードが存在する超世界を夢想したりすることが多い。どれも蠱惑的でいくら考えても結論が出ない愉悦の思考だ。
誰にも邪魔されない自分の部屋で、宇宙の深淵に思いをはす、最高じゃないか。
そんな私の生活も、ついに終わるときが来たようだ。幼い頃から今のような生活に焦がれ、苦労の果て遂に手に入れた環境なだけこれを手放してしまうというのは一時の事とは言え至極辛い。
沈痛な面もちで、最後の思索に耽るとあっという間に時間は過ぎた。
「囚人−八〇七七G五〇番。釈放だ。荷物はまとめたか」
私の独房の前に、看守がやってきて鍵を開けた。どうやら私は模範的でありすぎたらしい、折角懲役十年を受けゆっくりと一人の時間をかみしめられると思ったのに五年で出ることになってしまった。
次に入る時はもっと用心深く過ごさなければいけない様だ。
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