憂鬱 その2

 今日も、私は生きている。不思議だ。何故、この様な不連続な連続が存在しているのだろうか。
 今日は土曜日、つまり休日だ。19時から、オフ会がある事以外は予定は無い。起きたのは13時だっただろうか。ガヨマウンテンを一杯飲んだら、それで珈琲豆が無くなってしまったので買いに行くことに決めた。私が最近、珈琲豆を購入している店は遠い。小田急線の相模原駅から徒歩10分の所だ。1時間30分は掛かるだろう。普段は郵送して貰っている。
 買い換える事が決まったボロボロのリュックに、小説やら何やらを詰めて家を出た。駅までは自転車で8分で行ける。私は京浜急行線の赤茶けた車両が好きだ。理由は、速度と横揺れへの耐性。100km/hで走っても横揺れを感じさせない車輌は素晴らしい。京急蒲田で快速に乗り換えて、横浜まで行った。ここでJR横浜線に乗り換える。次の目的地は町田だ。ふと窓の外を見てみると、白い物が宙を舞っている。雪だ。今日はそんな予報はなかった気がするが、天候はカオスだし、予測は困難だ。そもそもパラメータが10万もある計算では、微量な誤差が結果に致命的な差異を生むことは往々にしてある。しかし、いつも折り畳み傘を持っているので大丈夫。寧ろ問題は気温にあるだろう、相模原は山の方だし此処よりもきっと気温が低い。対策は講じようも無い。耐えるしかないだろう。
 快速に乗れたので、28分で町田に到着した。電車の中で読んでいた『ホログラム街の女』もも、あと102頁だ。帰りには読み終わるかも知れない。町田で小田急線に乗り換える。JR町田から小田急線町田は少し離れている。少しだけ寒かった。相模原は二つ目だ。座らず本を数頁読んでいる間に着いた。駅前のロータリィは完全に雪で覆われていた。思った程寒くはなかったが、歩き難い。豆屋までの道は、住宅街を縫って進むので車があまり通らず、雪が残っている。
 目的の店に到着した。生憎、店長は居なかった。店長とは何度もメールでやりとりをしているので多少会話をして時間を潰すことができると思ったが、居ないのでは仕方ない。代わりに店番をしていた老人にオーガニック・ブラジル300gとコロンビア100gを焼き豆で頼む。それから、オーガニック・ブレンドの珈琲を一杯とクッキィを貰った。どうやら、この老人は店長ほど淹れるのが上手ではないらしい。私と同程度のレベルだろうか。兎に角、体が温まったのは有り難いことだ。17:30で喫茶部は閉店になる。その時間に出ればオフ会にも間に合うだろう。珈琲を飲んでいたら、1人の女性が店に入ってきた。22歳前後だろうか。言葉に訛りがあるのが伺えた。彼女も珈琲を頼んで、私の隣りに座った。そもそも喫茶部はテーブルが3つ。椅子は8つしかない。琥珀色の液体を見つめながら、頭を真っ白にしていたら、女性が話しかけてきた。
 「お暇ですか? 宜しければ一緒に映画を観に行きませんか」
 「19時から予定があるので残念ですがお付き合いできません。オフ会なのです」
 「それに参加してはまずいかしら」
 私には、判断しかねたので、何も言わなかった。彼女はどう理解したか知らないが、外を見て珈琲を飲んでいた。
 外の雪は、絶え間なく降り続けている。これも不連続な連続かもしれない。時間になったので、会計を済ませて店を出た。2940円だった。雪の道は歩き辛い。下を向きながら一歩一歩踏み場を考えながら歩く。足の裏に力を入れながら。雪道を歩く自分の姿が酷く空虚だった。理由は分からない。後ろを振り返ると、先程の女性がついてきていた。目が合うと、彼女は白い息を吐き微笑んだ。
 小田急線はダイヤが乱れているようだった。二駅隣の町田に到着するのに30分以上も掛かった。大きなロスだ。もしかするとオフ会の時間に間に合わないかもしれない。少し憂鬱だ。町田の駅でも横浜線が来るのを10分以上も待った。遅刻決定。結局、関内駅前のセルテの中にある魚民に着いたのは20時。1時間も遅れてしまった。雪も寒いのも嫌いではないが、ほんの少し、10秒間で地球が自転する角度位だけ嫌いになった。喫茶店の女性は、私の隣りに立っている。幹事に何か説明していたようだが、何故参加しているのかは不明だった。
 相変わらず、このオフ会の参加者数は多い。25名近く居る。半分は初めて会う人だった。オフ会の性質上、20歳の私が最年少だ。別に意味は無い。気が付けば、一気飲みを2回もしていた。それを含めて人生で3回しかしたことの無い一気飲みだ。前にした1回も、矢張りこのオフだった気がする。珈琲屋の女性は楽しそうに飲んでいた。参加費も払ったようだ。  22時まで魚民で飲んで、2次会に移った。残ったのは10人。私とあの女性以外は30代かもしれないが、何もトラブルは無い。HOGS HEADというショットバーで喋るともなしに喋り、私はソルティドック一杯を飲んで暇を告げた。23:30、京急の電車は既に動いていないだろう。JRから20分歩きだ。私がHOGS HEADを出たときに一緒に彼女もついてきた。桜木町から電車に乗る。
 予測は正しかった。大概、こういった予測は外れない。そもそも予想は無根拠だが、予測には事前に観測されたデータがある。つまり蓋然性が高い現象なのだ。私は途中で降りたが、彼女は上野まで行くようだった。降りる時に「では」と一言だけ言って別れた。
 場所も時間も変わったが、雪道を歩く自分の姿は矢張り空虚だった。果たして、明日は生きていけるだろうか。

 To Top