第17章:エリネの悪夢  エリネの目の前に、母が立っていた。もちろん、エリネ自身は現実にそんな事が ある訳がない事を知っている。なぜなら、エリネの母は2年ほど前に死亡している からだ。家の裏手で大爆発があり、たまたま洗濯物を干していた母がそれに巻き込 まれたと言われている。  爆発の原因は不明だが、何らかの魔道が行われた形跡はあったらしい。それ以来、 父親のエリネに対する態度がおかしくなってきた。今回エリネが家出してきた原因 の1つである。  しかし、夢だと分かりきっていても、それは妙に現実味のある光景であった。 母「エリネちゃん。あなたを巻き込みたくは無かったけど、仕方が無かったの。ご   めんなさい………」 エリネ「え?何を言ってるの?私には何の事だか分からないわ………」 母「ごめんね。本当にごめんね。」  母の姿がどんどん遠ざかっていく。エリネは必至になって追いかけようとするが、 いくら走っても追い付けない。  突然、父親の姿がエリネの母親との間に割り込んで現れた。 父「おまえは忌まわしき存在なのだ。貴様が生きている事で、自然のバランスがく   ずれ、さらには人類の滅亡を引き起こしかねないのだ。すなわち、おまえが生   きている事自体が、そもそも間違った事なのだ。」 エリネ「私は私よ。今現にこうやって生きているじゃない。生きようと努力する事     は悪い事だというの?」 父「そうだ」 エリネ「いやだっ。そんな事絶対認めないからっ!」  がばっ。目が覚めた。側にキリがいた。ずっと見続けていてくれたらしい。 外はまだ暗いが、朝焼けのきざしが見えはじめている。 キリ「気がついたかい?気分はどう?」 エリネ「う、う〜ん………」 キリ「昨日の夜、何が起こったのか覚えている?」 エリネ「うーん。何がなんだか。黒い球がみるみる近づいてきて………それでも死    にたくないって思った途端に気を失ったみたい………」 キリ「そう、その時に白い光が貴方から出てきて、あの魔術士を追っ払ってしまっ    たの。」 エリネ「白い光?」 キリ「そう、何か心あたりでもある?」 エリネ「………いいえ。」  しかし、明らかにエリネは動揺しているようだ。心あたりがあるには違いないが、 まだ確信が持てないのだろう。しかし、確信が持てたら話してくれるだろうと、キ リは楽観視する事にし、今は無理して聞く事も無いと思った。 キリ「ところで、動ける?とりあえずは馬車に乗って移動してもらわないと、ここ    に残って貰う事になるわよ。つまりは、ここでお別れ、という事になってし    まうのだけど。」  もちろん、本当にエリネが動けないようだったら、キリは一緒に残るつもりだっ た。もともと8人とメンバーが多いので、1人くらい減った所で普通の追いはぎに は充分対処出来るだろうし、多少遅れる事になっても、馬を飛ばせば充分間に合う と思ったからだ。 エリネ「それは大丈夫です。心配してくれてどうもありがとうございます。」  しかし、エリネの顔は非常に青ざめて見えており、見るからに無理している事が キリにも分かった。 キリ「そう、でもまぁあまり無理をしない事ね。まだちょっと出発まで時間はある    から、もう少し寝ていた方が良くない?」 エリネ「そうね………それじゃお言葉に甘えて………」  そして、空が白みはじめた頃に、皆が起き出してきた。 ユノー「お。エリネ、もう大丈夫か?」 エリネ「皆さん、どうも心配をおかけしました。私は大丈夫です。」  誰も昨晩起こった事の理由を聞かない。今はとにかく依頼された荷物を安全に運 ぶ方が先である。エリネの問題はその後からでも遅くは無い。  そして、前日と同様の構成で馬車は続いた。ただ、エリネはやはり調子が良くな いらしく、馬車の中でややぐったりしているようである。  この日は何事もなく街道を行く事ができ、夕方になってまた野営の準備を始めた。 今度は開けた丘の上で、遠くが良く見渡せる。目立つ分、普通の盗賊に襲われる可 能性は高かったが、例の魔道士にはこの方がすぐ対処出来るとユノーが判断しての 事である。 サイバラ