インターミッションその2:南方神話


今は昔。
私達中央大陸の人々が、国というものを作り出すより遥か以前の物語。

その頃の南方大陸には、後に『神人』と呼ばれる人々が君臨していたの。
彼等は、色黒の今とは全然違って白色人種だったらしいわ。髪の色も十人
十色。とにかく、人種的に今とは異なっていたの。そして、一般には不老不
死とも言われていたわ、神の血族だったって。
まだまだ創{はじめ}の頃の物語は判ってないから、その頃の名前で、判っ
ているのだけ言うわね。
まずは女神フェルシュブルクトゥーネ。南方大陸で最初に居た神。これに
ついては、本当に神なのか、それとも、後の世の創作なのか、全然判ってな
いわ。今後の調査待ちってことね。
そして烈王グロヴァレンディ。かなり高位らしくて、色んな物語の端々に
名前があがってる。
それから哭鯨王モルヴォティッシュ。名前から察するに、海に由来するよ
うね。実際、船乗りとか漁師とか、海に関る人達の間で、今でも信仰されて
いるの。
で、熾禽王ロルディオレ。炎関連の魔道に通じていたようね。モノによっ
ては、天を司る者とも言われているわ。
これ以上は判らないんだけど、この中でも特に烈王グロヴァレンディは民
衆受けしているわ。本当に色々な物語の、色々な部分に名前が出るの。今で
も、神様っていうと、ファリス様でもチャ・ザ様でも、ましてやファラリス
でもなくって、烈王グロヴァレンディが十中八九挙がるくらい。

時代が下がると、複数の神人が大陸を分割統治するようになるの。その頃
になると色々な物語があるんだけど、本当に色々あるから省略するわね。
烈王グロヴァレンディの子供達が大陸を統治するの。それぞれ、支配する
土地と個人の性格から、色々な別名で呼ばれる。
まずは主に草原地帯を治める、深緑の娘、春をもたらす者、四天翠王エル
ヘレーネ。常に若々しいと伝えられているわ。
主に海岸地帯を治める、四天蒼王ヴァルテレアス。四天王の内で唯一の男
性。哭鯨王グロヴァレンディと仲が良かったとも伝えられているの。
主に森林を治める、紅の淑女、白狼従えし者、四天煌王ロアーヌ。収穫を
司ると伝えられてる。
そして主に高山地帯を治める、白き乙女、死を抱く者、四天白王ヴォーレ
ンゾーグ。はかなさを秘めた美女として知られているわ。
この四人、四天王は兄弟だけあって仲が良かったの。少なくとも、戦いは
一度も起こってないわね。むしろ、南方大陸の黄金期と見なされているくら
い。
ただ、黄金期には断崖が付き物。この次の世代で神人の時代は終わるわ。
総ての滅びの始まりは、ヴォーレンゾーグが双子を身籠って産んだ事。彼
女の相手が誰だったのか。それは全くの謎なの。住まいの召し使いとの秘め
られたるロマンスとか、美しき者・天輪王ミリフォルオーネの息子、賢き者・
醍蛇王フォルティクスとか。兄・四天蒼王ヴァルテレアスだの父・烈王グロ
ヴァレンディとの禁断の愛の子とすら言われているわ。私としては、多分最
後の兄説を取りたいわね。子供がソックリなのよ。多分、内気な彼女は兄弟
という身近な存在としか、知り合えなかったんじゃないかしら。
で、その双子。
一人は、まどろみの皇女・白氷王エレネア。
そして、もう一人――これが問題。死をもたらす者・骸王アベルトゥース。
アベルトゥースが成人し、それを祝福する祭典の折、四天煌王ロアーヌの
息子である、戦いを統べる者・狩人の王・銀狼王ディルディオルヒと白氷王
エレネアとの出会い。
そう。
これからが、神人達の黄昏となるの……。

@ @ @

さて、と。
話し振りからして、二人が両方ビンゴになったって言うのは見当つくでしょ
う? ちなみにね、この件{くだり}はとっても有名で、色々な戯曲にもなっ
てるわ。みんなは気付いてないみたいだけど、ホラ、数年前に好評を博した、
レーヴァテイン・シェルム王立歌劇場のユグムンド=クルツァーの歌劇『ロレ
アーナ』、これはどう見てもこの話を題材にしているわね。
『ロレアーナ』では、パーティーのホストであるヘイス家の次期当主アルフ
レッド、これの妹ロレアーナとアルフレッドの友人ディランが宴もたけなわの
頃に、月光の下、中庭で出会い、そして恋に落ちる……。
神話でも、この件は全く同じ。
ただし、兄が激怒する理由が全然違うけどね。
『ロレアーナ』では、既にロレアーナとスポール大公爵位後継者との婚約が
決まっていたからで、兄は権力欲の強い人間ってなってるけど、神話では違う
の。それも、全然。
実はアベルトゥースは、実の妹エレネアに恋していたのよ!
まあ、理由も判るけどね。エレネアは、母ヴォーレンゾーグそっくりだけど、
もっと活発だったの。しょっちゅう寝てるけど。つまり、母に対する子供の愛
情が自我に吸収されずに、対象を妹に変えて生き残ってたのね。突き詰めれば、
彼がマザコンだったこと……ひいてはヴォーレンゾーグの子育てにこそ、神人
滅亡の原因があったってコトかしら。なんか、情けないわね。
取り敢えず、愛する妹の様子が、祝宴の夜以来どこかおかしい。不審に思っ
て部下に調査させると……なんと恋の病だと言うじゃない!! アベルトゥース
は激怒し、ディルディオルヒにその怒りをぶつけようとした。兎に角、如何な
る手段を以ってしてもディルディオルヒを倒し、妹を己が手に戻したかった。
そして、そんなアベルトゥースにつけこもうとした連中がいたわ。ラクラス=
ガイゴール率いるファラリスの暗黒騎士団よ。連中の、真の目的はハッキリと
はしていないわ。アベルトゥースを焚き付けて、大陸に混沌をもたらそうとし
たっていうのが通説だけど、他にどんな目的があったかは知れたものじゃない
もの。
本来ならば、神々の血族である神人、暗黒神の信者風情の力なんて、アテに
するものじゃぁないわ。けど、恋は盲目……かしら? この場合も。ディルディ
オルヒへの怒りは、そんな誇りも吹き飛ばしてしまった。アベルトゥースは、
その居城に、暗黒騎士団を迎え入れてしまったの。
それだけなら、神人達の黄昏までは至らなかったわ。けれど、ガイゴールは
もっとだいそれた事をアベルトゥースに吹き込んだ。即ち――神王の位。ガイ
ゴールは、彼等暗黒騎士団の力とアベルトゥースの力とが合わされば、烈王グ
ロヴァレンディすらも敵ではない、と囁いたの。いつものアベルトゥースなら、
そんな言葉、耳も傾けなかったでしょうね。けれど、今の彼は怨念の虜。そし
て一旦噴き出してしまった、けれど歪みきってしまった恋心の奴隷。恐らく、
美しい白氷王エレネアを迎えるならば、神人達の王・神王とならねばならない
とでも思ったのでしょう。彼は二つ言葉で承諾した。けれど、口実無しに戦い
を始められるほどには堕ちてはいなかった。彼は力を蓄えながら、その期を待っ
た。
けれど、その期は程無くして訪れたわ。ディルディオルヒの部下の一人が骸
王の領域に無断で侵入し、ただでさえ希少な果実を多く略奪したというの。ア
ベルトゥースは即座に抗議し、ディルディオルヒは疑いを否定したわ。けれど
その勢いは止まらず、ディルディオルヒに対して戦いを仕掛けた。この戦いに
おいて、彼は暗黒騎士団を投入し、銀狼王の軍勢を多く打ち破った。
これに対して、神人達は動き出したわ。
骸王がファラリスの手の者を招きいれた事は、既に知られていた。神々の血
族にとって、それは恥ずべき行為。まずは烈王の命に従い、四天王達が銀狼王
に加勢したわ。
けれど、それこそガイゴールの思惑通り。彼はアベルトゥースに対し、銀狼
王に荷担する四天王、ひいては烈王とて同罪、討つべしと奏上した。勿論、こ
んなものは手続きにしか過ぎないもの。骸王は神王軍全体を相手取って戦う事
となったわ。
しかし、自らの血統に誇りを抱き、己が力のみで戦う神王軍と、暗黒神ファ
ラリスの力をも借りている骸王軍とでは、尚も力の差が歴然としていたわ。そ
こで醍蛇王フォルティクスは一つの策を提示した。それは結界を以ってして、
暗黒神の力を大陸より除くこと。暗黒神の力に追い詰められていた烈王は、即
座に採用したわ。けれど、それには多くの犠牲が必要だったの。仮にも神の力
に対して神々の子孫が抗おうなど、本来ならば永久に叶う事の無い筈だものね。
その犠牲とは、烈王・哭鯨王・熾禽王・天輪王・醍蛇王の5王。彼等自らが
結界の礎となったの。これによって、骸王軍の主力である暗黒騎士団は、その
力を大いに減じ、そして残った銀狼王・四天王の軍によって討ち滅ぼされたわ。
けれど、まだ骸王の正規軍とアベルトゥース本人、そしてファラリスが司祭
である、ガイゴールが残っていた。
暗黒騎士団との決戦によって大いに打撃を受けていた銀狼王・四天王軍は、
骸王軍に討ち果たされたわ。四天王自らが出て、漸く骸王軍を全滅させたの。
とはいえ、流石に数の差は如何ともし難く、四天蒼王ヴァルテレアスの死がも
たらされてしまったわ。
そして漸く骸王の領域へ。
けれど神王以下5王による神封じの結界と言えど完全ではなく、ガイゴール
は尚も強力な魔法を操り、銀狼王を苦しめたわ。そして骸王も全力を以って戦っ
た。
死をもたらす者とまで称えらた骸王の魔力は凄まじかったわ。これに加え、
ガイゴールの魔法まであったから、如何に〈戦いを統べるもの〉と言えど、分
が悪かった。四天翠王エルヘレーネと四天煌王ロアーヌがついていても。
とはいえ、彼等神王軍としても絶対に負けられなかった。
負けたりしたら、この大陸は取り返しのつかない状況に陥ってしまうもの。
大陸を治めてきた神人として、命に代えても負けられない。
そう言って、四天煌王は暗黒司祭を相討ちの形で倒したわ。総てを、息子に
託してね。
消耗しきった銀狼王と四天翠王、そしてまだまだの骸王。
母に総てを託されたからといって、この辛い現実が覆るワケじゃないわ。
けれど、ここで意外な人の登場。
そう。骸王の母、四天王が一人。四天白王ヴォーレンゾーグ。そして白氷王
エレネア。
四天白王はすっかり力を失ってしまっていたけど、それでも息子がこんな事
態を引き起こしてしまった事に対して償いたかったんでしょうね、その身を以っ
て、息子・骸王アベルトゥースを封じようとしたわ。
けど、如何な母の意志といえど、自分を封印させるわけにはいかない。
アベルトゥースは、当然これに抵抗し、それに成功した。
だけれども、これだけでは済まなかったわ。銀狼王も四天翠王も、そして白
氷王も四天白王に力を貸した。
これには抗いがたく、骸王の力は多く減ぜられ、遂に、銀狼王自身の力によっ
て完全に封じられてしまった。彼等は、共に愛する者の名を叫びながら封じら
れていったそうよ。エレネアの心境、どれ程のものだったかしらね……。
なにはともあれ、こうして骸王は封じられたわ。
但し。
銀狼王・四天白王の犠牲によってね……。

こうして神人の時代は終わりを告げ、人の時代へと変わっていったの。

〈続く〉
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