インターミッションその3:シュペーアとオルロス
「……以上。今の所は、この程度。後は、この結界のせいで気候が激変し、砂
漠中心の地形になり、そして限られた船しか外洋に出られないという話だけ」
長々と喋り続けて乾いた喉を湿らせるため、手元のエール酒を口に運びなが
らレインは言った。レインの目の前では、それぞれ様々な表情で見つめる三人
がいた。
ちなみに、その奥では男性陣が未だ盛り上がっている。
「へぇ。そんな話があったとはねぇ……」
キリが呟く。
「あ、あの……」
エリネの質問。
「それで、その四天翠王さんと白氷王さんでしたっけ? その人達はどうなっ
たんですか?」
「ああ、そう言えば言ってないよな、レイン」
その言葉に、レインは苦笑とともに答えた。
「実は、まだよく判ってないんですよ。余波で倒れたとも、多くの犠牲を弔
うために、今尚、彼の地で祈っているとも、または異郷の地へと辿り付いた
とも……。最後の方は、遂さっき教えてもらったばっかりで。とはいえ、中
央大陸では、これが限界でしょうけどね」
「あれ。じゃぁフォルニアに帰るのか?」
イオンの尋ねに対して、レインは、
「ええ。そのつもりでオーレンから上って来たんだもの」
と答えた。ちなみにオーレンとは、このネミラから大河ヴォルガを下って
行くとある、大きな商業都市だ。便は少ないが、航路が設定されている。
「貴女はどうするの? 一緒に来る? その剣の事もあるし。ウチの長老達
なら、どうにかできるかも知れないけど……」
レインの返した問いに、イオンはやや困った感で、
「う〜ん。まだ何とも……。けど、厄介な連中に見込まれちゃったからなぁ」
ミケロとカームの事である。
「……やっぱり、暫くは止めとくさ。危険に巻き込むわけにはいかない」
と、答えた。
「そう……」
レインは呟く。何やら、哀しそうだ。
――まだ決まってないんですから、北に行ってもいいじゃないですか。
哀しそうなレインを見かねて、エリネはそう言おうとしたのだが、後方から
妨害の手が突き出てきた。
タップだ。
「おぉ〜い。なぁに陰気な顔してるんだぃ。せっかくの酒だぁ。んな雰囲気は
パァッと忘れちまってよぉ、明るく行こぉぜぇ、明るくぅ」
突然の闖入者に、イオンとレインも唖然としている。
そんな中、タップはエリネを酒盛りの輪の中へと、強引に連れて行こうとし
た。
「おいおい! 嫌がってるだろうが!!」
キリが非難の声をあげるが、ンなもん知ったこっちゃない。
そんな光景を見て、レインは呟いた。
「本当に、元気なパーティーね」
と。
@ @ @
「カーム。お前がミケロとやらに教えてやるのだからな、完全におぼえるのだ
ぞ?」
「わカっタ」
主人の言いつけにそうとだけ答えて、カームは読書に取り掛かった。ノルマ
は全三冊。膨大な量だが、カームにかかっては楽勝だ。
――相変わらず、コイツの記憶力は凄まじい。しかし、どもる様になってし
まったのは失敗だったな。そうでなければ……。
有能な手駒になっていただろう。
そう思い、命令に従っているカームの様子を見ながら、部屋を出る。
「シュペーアさま、先程よりオルロス様がお待ちになっておりますが……」
扉の外で待っていた侍女の言葉に、シュペーアはやや驚いた感じで言う。
「何、兄上が?」
@ @ @
「シュペーア。貴様、一体どういうつもりだ?!」
入るなり、そんな声が浴びせられる。
「さて。どういうつもりとは、一体なんのことですか?」
「呆けおって……。なら言い方を変えてやるわい。貴様、アメリアを狙ってお
るそうではないか!! 実の姪を、一体どうするつもりだ?! あ!? 王国宰相閣
下?!」
「はて……。一体、何処でそのような誤解が生じたのでしょうなぁ……」
凄まじい剣幕のオルロスだが、シュペーアは飄々としている。
「誤解、だと?! 貴様、この期{ご}に及んで誤解などと吐{ぬ}かしおる
かぁ!!」
「無論です。私が手の者を使って、アメリアを捜させているのは確か。ですが、
それも兄上、貴方の御心労を思ってのこと。狙うなどと……」
「あり得ぬ、とでも言うつもりか? シュペーアよ……」
険悪な眼差しで弟を見つめるオルロスだが、やがて溜め息とともに、
「どうやら、とことんまで呆けおるつもりのようだな……」
と、ボソッと呟く。
「さて……」
ますます険悪になるオルロスを無視するように、シュペーアは腕輪に意識を
集中させる。〈時計〉が魔化されたサークレットだ。金融関係の商人達や、国
家の官僚達には常識となっている。
「おや。兄上、失礼ですが会議が押しております故……。何分、王国宰相と随
一の南洋貿易商という、それぞれ共に多忙の身。互いに年をとってはおります
が、兄上も末永く御壮健に……」
「フン。ヌシが逃げに入るとはな……。珍しい事もあったものだ」
オルロスは鼻で笑うように言った。
「言っておくがな、『それ』だけはさせぬからな!!!! 貴様は『あれ』を制御
できるとでも思っているようだが、それは大きな勘違いだ!! 蘇らしたなら、
それが最後!! 『あれ』は滅びを撒く以外に何もせぬぞ!!!! ましてや、我々
如きの手におえる代物では、土台ないのだ!!」
そう言い捨てながら、オルロスは肩を怒らせて退出していく。
そして扉が閉まり、オルロスが騒がしく廊下を歩いていく音が響いた。
「バカめが」
一人残ったシュペーアは、そう、呟いた。
「情にほだされおってからに。愚民めが」
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蘭堂 耀隼
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